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2019年07月23日  - No.7 - 2

サンタアニタ競馬場のスキャンダルはなぜ起こったのか?(アメリカ)【開催・運営】


 サンタアニタ競馬場の春開催が6月23日に閉幕したとき、昨年のクリスマスから同競馬場で予後不良となった馬は30頭に上っていた。予後不良事故の多発は全米のスキャンダルとなり、競馬開催は3月に3週間中断した。6月には、カリフォルニア州知事とカリフォルニア州競馬委員会(CHRB)が春開催の早期終了を求めたが、同競馬場を経営するストロナックグループ(Stronach Group)はそれを拒否した。

 このスキャンダルは皮肉なことに、サンタアニタが比較的安全な年に生じた。CHRBは7月~6月の12ヵ月を対象として年間予後不良事故数を出している。サンタアニタの2018-19年度予後不良事故数は前年度よりも1頭だけ増加し、2年前と比べると30%も減少している。

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 サンタアニタの2018-19年度予後不良事故率は、出走馬1,000頭あたり2.2頭だった。これは2年前の3頭よりも減少している。全国平均の1.7頭を上回っているが、ピムリコやチャーチルダウンズなどのいくつかの有名競馬場を下回る。

 それでは、なぜ今年になってサンタアニタ競馬場についてのスキャンダルが巻き起こっているのだろうか?なぜチャーチルダウンズではないのだろうか?

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なぜ今なのか?

 予後不良事故が生じたタイミングと報道のされ方が、なぜこの騒動が始まり、これほど長引いているのかを明らかにするかもしれない。

 下表が示すように、サンタアニタは2018年9月~11月の秋開催を比較的平穏に運営していた。調教中に8頭、レース中に1頭が予後不良となったものの、誰も注目していなかった。

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 しかし、クリスマスの2ヵ月後は悲惨だった。18インチの降雨量を記録し、2月22日~23日の18時間に3頭が命を落とすなど、予後不良は合計19頭に上った。2月23日にロサンゼルスタイムズ紙の競馬記者のジョン・チャーワ(John Cherwa)氏は「最近のサンタアニタでの死亡馬の急増は不安を煽る」と書き、その記事は、USAトゥデイ(日刊紙)、NPR(ラジオ)、NBCおよびCBS(いずれも米国3大ネットワークの1つ)、FOXニュース(ニュース専門放送局)などの全国メディアに取り上げられた。

 サンタアニタ競馬場は度重なる予後不良事故とネガティブな報道に対応して、競馬開催を約3週間(3月5日~28日)中止した。レース再開後、予後不良事故率はかなり低下し、4月1日~5月16日には予後不良はゼロだった。しかしその成果はほとんど認められず、レース再開後は1頭が予後不良になるたびに、とりわけロサンゼルスタイムズ紙やCNNなどの全国メディアが大きく取り上げた。

 メディアの語り口は決まってしまい、それを変えることはできなかった。そしてサンタアニタは問題を抱えた。

馬は脆いが競馬産業もそうである

 もちろん、この問題を誇張するメディアを批判しても何の得にもならない。サンタアニタには確かに問題があるのだから。それらの問題は新しいものではないし、サンタアニタに限ったことでもない。しかし他の多くの競馬場と同様に、サンタアニタは予後不良を減少させるための措置を十分取ってこず、改革は延び延びになっていた。

 スキャンダルが巻き起こる中でいくつかの改革が実施されたのは得策だったようだ。

 カリフォルニア州はようやく、競走当日あるいはその前日の鎮痛剤使用を禁止した。これにより、予後不良のリスクに晒されている負傷馬を走らせるのがずっと困難になるはずだ。確かにスポーツライターのビル・ナック(Bill Nack)氏や獣医師のグレッグ・フェラーロ(Greg Ferrarro)氏は25年前にこの改革を求めていたが、"遅くとも何もしないよりはましだろう"。

 ストロナックグループは、50万ドル(約5,500万円)のPETスキャナーも購入した。これにより、馬の肢の亀裂骨折を検査できる。それがいつ、どれぐらいの頻度で使用されているかは定かでないが、貴重な設備である。

 これまでのところ、サンタアニタ競馬場のダート馬場を、2007年~2010年に使用されていた比較的安全な人工馬場に転換するかどうかについて、同競馬場もCHRBも公には話していない。その話合いも延び延びになっている。

 改革の実行は避けられない。サンタアニタのスキャンダルが示しているように、競馬産業はマスコミのキャンペーンに対して弱い。もし記者が予後不良となった一頭一頭について書くことを望むのであれば(それには格下競走や調教で犠牲となった馬も含まれるだろうが)、スキャンダルは永久に続くことになるだろう。

 米国では毎年約500頭がレース中に、そしてほぼ同数の馬が調教中に予後不良となっている。世間が関心を持ち続けるのであれば、予後不良事故についての記事は毎日書かれるかもしれない。競馬産業は問題が忘れ去られるのをただ待てばいい、というわけにはいかない。

 予後不良がこれほど注目を集めるのは、世間一般に競馬のリスクが知られていないからである。熱心な競馬ファンは出走馬500頭に1頭が予後不良となってしまうことを知っているが、平均的なCNNの視聴者にそのような考えはない。

 年に2度、それもビッグレースしか見ない人は、予後不良事故を目にしたことがないかもしれない。2006年プリークネスS(G1)でのバーバロ(Barbado)の予後不良事故や、2008年ケンタッキーダービー(G1)でのエイトベルズ(Eight Bells)への安楽死措置を見たライトファンでさえも、それらがめったにない悲劇であると考えているかもしれない。彼らにとって、このような事故はごく普通の馬に毎日のように生じているという考えは受け入れがたい。

 そして競馬産業はそれを受け入れてもらうために説得する言葉を持っていない。

 予後不良事故に関する公式声明はしばしば、「一頭の代えがたい命を無くしました」という文言から始まる。そのような声明から、予後不良は競馬を行う上で支払う犠牲であり、「数頭の馬が命を落としてしまうのは避けがたい」という考えを示すことは不可能である。競馬産業ができることは、予後不良事故率を低下させるためにあらゆる措置を取っていることをはっきりと示し、予防できるすべての怪我を実際に予防することしかない。

 競馬産業はまだそれを成し遂げていない。サンタアニタのスキャンダルがその決定を迫るのであれば、そこから何か良いことが起こるかもしれない。

By Paul von Hippel

(1ドル=約110円)

[Thoroughbred Racing Commentary 2019年6月26日「Actually, this was one of Santa Anita's safer years. But saying that may not help」]


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