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2019年07月23日  - No.7 - 4

5人の調教師に聞く高齢の管理馬を活躍させる秘訣(アメリカ)【その他】


 ボロ(Bolo せん7歳)はシューメイカーマイル(G1 5月28日 サンタアニタ競馬場)で優勝した。7歳となってもG1に挑み続けるこの馬は、注目に値する。多くの場合、高齢競走馬の関係者は種馬場への誘惑の声に抗い続け、怪我に悩まされ続ける。そして諸問題の中でもかなり難しい問題は、競争心を維持させることである。

 数人の調教師は、高齢競走馬の卓越した素質を引き出すのに長けているようだ。この記事は、米国西海岸で活躍するそのような調教師から話を聞き、まとめたものである。

 さまざまな成功の秘訣から浮上した2つの共通テーマは、「調教をしすぎないこと」と「かなりの我慢を要すること」だ。

リチャード・マンデラ(Richard Mandella)調教師

 たしかにマンデラ調教師は2歳や3歳の最優秀馬を送り出してきたが、同調教師の名は息の長い競走馬を手掛けたことで永遠に記憶にとどめられるだろう。高額賞金を獲得した管理馬10頭のうち、5歳以上でG1を制した馬は8頭に上る。その中の1頭であるザティンマン(The Tin Man)は、2007年シューメイカーマイルを9歳で制した。

マンデラ調教師:「馬は変わります。馬の生涯は初めの6ヵ月は順調でも、それが永遠に続くわけではありません。馬は成長し、変化します。気質も変わるでしょうから、こちらも接し方を変えた方が良いでしょう」。

 「長く務めている厩舎スタッフは、私が何を見つけようとしているのか分かっています。それは、"何か問題が起こりそうになっていないか?"ということです。そしてそれを未然に解決します。手に負えなくなったら取返しのつかないことになるからです」。

 「最高にタフな馬の中には、健康状態がわかりにくい馬がいます。なぜなら、彼らは疲労や不調を表に出さないようにするからです。その場合はもっと近付いて見たほうが良いでしょう。馬房の前の通路を歩いていると、"話さないといけないことがある"と合図してくる馬が時々います。"たてがみ"、"毛なみ"、"適切な体重を保っているか"、"よく食べているか"などを、常に気に掛けなければなりません。とにかく彼らの気質が変わっていないか見なければなりません。1日中寛いでいた馬が、急にそうではなくなることがあります。また、飼葉を求めて鳴かなくなる馬もいます」。

 「もちろん放牧に出すこともできます。競馬場の馬房で休ませても、効果がないときがあります。曳運動をしたり、ポニーを使って調教を行ったり、手加減することを考えますが、彼らの気は休まっていません。そのため、競馬場から出して静かなところに連れていけば、彼らは力を抜いて休むようになります。とりわけ牝馬やせん馬にそのような傾向があります。レース後に放牧に出して功を奏したことがあります。名牝ビーホルダー(Beholder G1・11勝&エクリプス賞4回受賞)には効果がありました」。

 「しかし、ジェントルマン(Gentleman)、サイフォン(Siphon)、サンドピット(Sandpit)など、放牧に出す必要のない馬もいます。それらの馬は本当に頑丈で、食欲旺盛で、とても健康です。彼らには放牧も息抜きも必要ありません。心身ともに丈夫です。適切に管理することだけが重要なのです。彼らがどれほど丈夫であろうとも、細心の注意を払って管理するに越したことはありません」。

ジョン・シレフス(John Shirreffs)調教師

 ティナターナー(Tina Turner)、ダムマギースミス(Dame Maggie Smith)、ゼニヤッタ(Zenyatta)。これら3頭の優良牝馬は、それぞれの分野で尋常ではない息の長さと卓越性を見せつけた。シレフス調教師は、高齢競走馬のまれな素質を引き出すことにより、ゼニヤッタ(エクリプス賞4回受賞)だけでなく、マニスティック(Manistique)・アフターマーケット(After Market)・スターラー(Starrer)などのG1優勝馬を手掛け、ベテラン調教師というだけでは説明できない手腕を見せつけた。

シレフス調教師:「古馬を管理するときは、競争心だけではなくレース向きの馬体を維持させなければなりません。そうすると、彼らはレースに出走したがります。すべてがバイオリズム次第であり、どのような波を描いているかを把握しなければなりません。下降しているのか上昇しているのか?スランプに陥っているのか、ピークにいるのか?そして大抵は、馬の状態を見極めることと、レースが迫ってくるのと同時に馬のエネルギーを最大限に発揮させることに掛かっています」。

 「頭の中で馬の大体の出走計画は決まっていますが、馬の特定のニーズに応えて調整しなければなりません。私はいつも陸上選手のことを考えます。彼らはトラックで走るのに適した体を作るために、シーズン前にかなりハードな練習をします。そして体が十分な状態になったら、練習しすぎないことが成功の秘訣です。練習しすぎると、鈍くなってしまうものです。そして馬が鈍くなってしまった場合は、すべてを初めからやり直さなければなりません」。

 「私たちは馬がどのように苦痛に耐えているかについて、軽視しているように思います。調教師として、馬がどのように痛みを感じているか、気付けるようにならなければなりません。それは、筋肉痛や調教による疲労かもしれません。馬は肢に痛みを感じていることを常に示すわけではないので、用心深くならなければなりません」。

 「調教師になる前も牧場で長年働いていましたので、馬が外に出て歩き回るのが好きなことを知っています。管理馬は、若馬のときに施した基礎調教と、教えてきた日常的なルーティンによって、少し速歩をすればリフレッシュできるかもできません。ですが、型にはまったやり方ばかりではいけません。何かいつもと違うことをさせるために、コースの回りや厩舎の回りを歩かせるのもいいかもしれません」。

レオナード・パウエル(Leonard Powell)調教師

 ワインについては、熟成年数は風味を向上させるかもしれない。しかしスポーツ選手については、通常正反対であり、若さこそが卓越性の基準である。

 パウエル厩舎のソイフェット(Soi Phet)は、6歳でステークス初勝利を果たし、また10歳で最後のステークス勝利を飾り、その常識を覆した。11歳で引退した同馬は、ケンタッキー州の引退馬施設オールドフレンズ(Old Friends)で繋養される予定(訳注:ソイフェットは2014年、外国馬として初めて東京大賞典に出走した)。

パウエル調教師:「経験から学ぼうとすることが肝心です。経験により同じミスを繰り返さないはずですが、実際はそうはいきません。高齢競走馬は、私たちのすべての過ちを乗り越えてきた馬です。私たちもこれらの馬に対して犯した過ちに気づき、それを繰り返さないようにすれば良いのですが。そのため、私はかなりの時間を厩舎で過ごしています。馬体重を管理し、馬房での様子を見て、どのような素振りをしているのか確認します。それが大切であり、ただ彼らを見るために厩舎に行くだけでいいのです」。

 「最悪な過ちの1つは、高齢競走馬への過剰な調教です。それにより、これらの馬は故障してしまいます。どこが限界かを把握しなければなりませんが、それは秘密です。馬を出走させるときにも同じことが言えます。どれぐらいの頻度で出走させられるかを理解しなければなりません」。

 「米国における問題の1つは、一年中レースが開催されていることです。そのため、馬に休養を取らせるのに適した時期がなく、手遅れになりがちです。私が豪州の競馬で気に入っている点の1つは、競馬シーズンが春と秋に分かれていることです。たとえ馬が5馬身差で勝ったとしても、その後に6週間の休養を取らせます」。

 「6週間は休養期間として適切です。調子の良さを損なうこともありません。ただ厩舎に戻したときに、あまりハードな調教を行ってはいけません。心身の力を抜かせるためには十分な時間が必要です。調教してレースで使うたびに、馬には微細骨折(microfracture)が生じています。そして調教を再開するのに少し休ませなければ、馬体が回復するヒマがありません。放牧に出せば馬は何もしないと考えるかもしれませんが、それでも馬はかなりの運動をしています」。

カーラ・ゲインズ(Carla Gaines)調教師

 ゲインズ調教師にとって、ボロの調教を再開するのは大変な仕事だった。前走である2017年8月のレースの後、ボロは比較的軽い屈腱炎を発症していた。

 それに加え、ボロの体は大きくてがっしりしていた。馬体重は1,200ポンド(約544kg)近く。このような馬は慎重に扱わなければならなかったが、今年5月のシューメーカーマイル(G1)の後にウィナーズサークルに立った優勝馬は若い馬ではなく7歳のボロだった。

ゲインズ調教師:「ボロを復帰させるときのために、私たちはすでにプログラムを作っていました。彼がリハビリを終えると、しばらく待って検査をし、さらに再検査をしました。調教再開前には、何週間も歩かせました。時には歩行量を増やし、時には休ませて30日間何もさせませんでした。それが彼のプログラムであり、修正を加えることはありませんでした。ただ彼を信用していました」。

 「このような怪我を負った大きな馬を深いダートコースで調教することは、とても困難です。しかも彼は平蹄(蹄底が浅い)であり、乾いた芝コースを好んでいます。控えめに言っても、もどかしいものでした。ゆっくりとした長時間の調教を繰り返しました。緩いペースの速歩も沢山行いました。彼はこのような調教を見事にこなしました。賢い馬です」。

 「調教を見ながら、ボロはしかるべき時が来れば走りたがるのではないかと期待していました。馬の気持ちを本当に読み取ることはできません。実際、1年以上戦線離脱していた馬がある程度の年齢に達したとき、牡馬であれ牝馬であれ、また走りたくなるかどうかは疑わしいものです。私は心配性なのか、朝はあまりきつい調教をしないようにしています。むしろレースに出走させたほうが良いと考えます」。

 「調教活動において肝心なのは、馬が必要としているときにたっぷりと時間を与えることです。馬も馬主も不足しており、人々は今や馬を仕上げるのに時間を掛けなくなっています。しかし、私に馬を預けてくれている馬主は、馬に休養が必要であることを理解しています。馬主の中には、自らの牧場を持つ生産者がいます。牧場を持っていない馬主の場合は費用がかさみます」。

ジョン・サドラー(John Sadler)調教師

 アクセラレイト(Accelerate 父ルッキンアットラッキー)は年齢とともに進化する素晴らしい競走生活を送った。同馬はサドラー調教師のもと、4シーズンにかけて漸進的な成長を遂げ、2018年BCクラシック(G1)で目を見張るようなパフォーマンスを見せた。同調教師は今年、5歳初戦のトゥルーノースS(G2)を逃げて制したカタリナクルーザー(Catalina Cruiser)で、同じ快挙を達成できるだろうか?

サドラー調教師:「馬の出走計画を練るときは、何回出走させたいかを考慮し、目指すべき重要なレースを検討します。一方、使えるレースはすべて使って、いつの間にかその管理馬が疲弊してしまうような出走計画は採用してはいけません。ブリーダーズカップでその1年を終えるのであれば、来年出走を始める前に馬を休ませる期間があります」。

 「昔カリフォルニア州では、北部のシアトルのやり方を目標にしていました。シアトルでは優秀な馬が8歳、9歳、10歳となっても現役を続けています。なぜなら冬になればいつも休養を取り、その時期には出走しないからです。それらの馬は高齢となってもとても好調です。休みなしでいつまでも走らせることはできません」。

 「効果的な管理方法とホースマンの知恵により、管理馬に長く現役を続けさせられることができます。昔から言われていることは常に正しいです。問題が起きてから対応するよりも、先を見越して行動することが、成功に繋がります。馬に微小な問題が確認されれば、いち早く調教を止めることです。最終的にその決定により報われることになります。もしその馬に同じ調教を続けたならば、問題は拡大して、馬は以前のような調子を取り戻すことはできません。それゆえ、馬を近くで見るようにしています」。

 「なかなか調子が上がってこない馬もいます。仕上がっていない馬を無理やり出走させるとすれば、ただ残念な結果となるでしょう。私は多くの高齢競走馬を管理してきましたが、彼らが2歳あるいは3歳のときも、必要に応じて我慢強く調教してきました」。

リック・アーサー(Rick Arthur)氏[カリフォルニア州競馬委員会 競馬医療担当理事]

 カリフォルニア州では、"動物愛護"や"馬の故障防止"のような問題が感情的に議論されている。その観点から、アーサー氏に次のような質問を投げ掛けた。「調教師は管理馬が引退する時期をどのように把握するのでしょうか?」

アーサー氏:「2つの大きな問題があります。1つ目は"馬が肉体的に健康で競走を続けられるか?"、2つ目は"その馬の能力がまだ妥当なレベルにあるのか?"ということです。その中には、ホースマンの知恵や馬の管理方法が含まれており、馬に対してどれだけの敬意を持っているかということも重要になります。8歳馬は高齢競走馬であっても、高齢馬ではありません」。

 「肝心なことは、馬が1人の調教師の下で長く過ごすほど、悲惨な怪我を負うリスクは軽減されます。彼らはその馬のことを知り尽くしており、馬の状態をより把握することができます。全ての馬について、いつが不振でいつが出走できるほど好調なのか知らなければなりません。馬は能力がピークに達するときもあれば、少し休養が必要なときもあります。そして"やめよう"と言わなければならないときもあります。しかし、最終的にそれはホースマンシップと忍耐に掛かっています」。

By Daniel Ross

[Thoroughbred Racing Commentary 2019年7月10日「How to bring out the best in older horses: five trainers on the secrets of their success」]


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