アルカナ社8月1歳セール、地元種牡馬の躍進で活況(フランス)【生産】
英国のEU離脱(ブレグジット)の先行き不透明な状況、ポンドに対するユーロ高、夏のドーヴィルにしてはめずらしく憂鬱な天気。これら全て、あるいはいくつかは、アルカナ社8月1歳セール(8月17日~19日 ドーヴィル)の足を引っ張るための陰謀かもしれない。しかし実際のところ、同セールでは過去最高の取引が行われた。
3日間のセリ総売上額は4,286万9,000ユーロ(約51億4,428万円 前年比17%増)、平均価格は18万7,201ユーロ(約2,246万円 前年比17%増)、中間価格は12万5,000ユーロ(約1,500万円 前年比16%増)。いずれも過去最高を更新した。
最高価格馬は、162万5,000ユーロ(約1億9,500万円)で落札されたチキータ(Chicquita)の半妹(父ドバウィ)である。この牝駒は、2015年に近親のパラベラム(Parabellum 父ドバウィ)が260万ユーロ(約3億1,200万円)で落札されて以来、このセリで最も高額な1歳馬となった(訳注:いずれも購買者はゴドルフィン)。
なお、このセリの売却率は75%で前年の73%を上回った。
何が今回の活況を引き起こしたのだろうか?一説によると、フランスの種牡馬が以前よりも商業的に魅力的であることが寄与しているようだ。
とりわけシユーニ(Siyouni)は常に人気がある。産駒21頭が合計502万1,000ユーロ(約6億252万円)で購買され、どの種牡馬よりも高い売上げを誇っている。そして平均価格も23万9,095ユーロ(約2,869万円)と傑出している。
その人気の理由は分かりやすい。ボンヌヴァル牧場(Haras de Bonneval)で供用され初年度産駒が7歳となるシユーニ(父ピヴォタル)が、これまで31頭のステークス勝馬を出しているからである。優秀な産駒には、昨年の仏オークス馬ローレンス(Laurens)や今年の印象的な仏ダービー馬ソットサス(Sottsass)がいる。
このセリにおいて、エージェント(馬売買仲介者)のジェイソン・リット(Jason Litt)氏はLNJフォックスウッズ社(LNJ Foxwoods)のために、シユーニの牝駒を65万ユーロ(約7,800万円)で落札した。リステッド優勝牝馬アップルシャーロット(Apple Charlotte 父スマートストラク)を母とするこの牝駒は、最高価格のシユーニ産駒となった。また、ゴドルフィンはシユーニの牡駒と牝駒を1頭ずつ購買し、この2頭の合計価格は69万ユーロ(約8,280万円)となった。
2歳のときにG1を2勝したシャラー(Shalaa 父インヴィンシブルスピリット)の初年度産駒は1歳となった。シャラーは馬主のアルシャカブレーシング社のブクト牧場(Haras de Bouquetot)で供用されている。今回のアルカナ社8月1歳セールでは、産駒14頭が合計256万1,000ユーロ(約3億732万円)で落札された。
最も高額で購買されたシャラー産駒は、仏1000ギニー(G1)2着のG2勝馬メイドンタワー(Maiden Tower)を母とする牡駒である。ナーヴィックインターナショナル社がサトミホースカンパニーの代理人として、この牝駒を60万ユーロ(約7,200万円)で落札した。
偶然にも、最高価格のシユーニ産駒とシャラー産駒を上場したのは、将来有望なフェアウェイ・コンサインメント社(Fairway Consignment 創設者:シャルル・ブリエール氏)である。このことは、ノルマンディーのサラブレッドビジネスには質の高い馬だけでなく、若者の貴重な才能があることを示している。
フランスで供用される種牡馬の中で、産駒の売上げが50万ユーロ(約6,000万円)以上となった種牡馬は、シユーニとシャラー以外は次の3頭だった。
5年前の同じセリでこのカテゴリーに入ったフランス供用種牡馬はケンダルジャン(Kendargent)だけで、産駒6頭が合計102万ユーロ(約1億2,240万円)で購買された。10年前の同じセリでこのカテゴリーに入ったフランス供用種牡馬は2頭いた。産駒10頭が63万ユーロ(約7,560万円)で購買されたグリーンチューン(Green Tune)と、産駒10頭が52万8,000ユーロ(約6,336万円)で購買されたムータティール(Muhtathir)だ。
実績がある格上のフランス供用種牡馬の"新しい波(ヌーベルバーグ)"への国際的人気は高まりつつある。その証拠に、アルカナ社8月1歳セールにおける地元種牡馬の産駒の売上げは10年間で約3.5倍と急上昇している。この"ヌーベルバーグ"には、シユーニ、ルアーヴル、ウートンバセット、ケンダルジャンが含まれる。
上のグラフが示すように、2010年アルカナ社8月1歳セールに上場されたフランス供用種牡馬の1歳産駒の売上げは約330万ユーロ(約3億9,600万円)であり、セリ総売上額の12%にすぎなかった。この年のセリ総売上額の3分の1以上は、すでに死んでいた名種牡馬アナバー(Anabaa)の最後から2番目のクロップの売上げによって占められていた。
2010年~2014年においては、フランス供用種牡馬の1歳産駒の売上げは500万ユーロ(約6億円)に達することがなく、セリ総売上額の16%未満だった。
2015年アルカナ社8月1歳セールでは、豪州のトップ種牡馬リダウツチョイスがフランスで供用された際に生産された1歳産駒の上場が話題となり、フランス供用種牡馬の1歳産駒の売上げは一気に780万ユーロ(約9億3,600万円)にまで上昇した。しかし、その割合はセリ総売上額の5分の1以下にとどまっていた。
2018年アルカナ社8月1歳セールでは、シユーニやルアーヴルなどの地位が完全に確立されたことと、チャームスピリット(Charm Spirit)、ダビルシム(Dabirsim)、インテロ(Intello)のノルマンディーにおける初年度産駒が上場されたことで、フランス供用種牡馬の1歳産駒の売上げは900万ユーロ(約10億8,000万円)を超え、セリ総売上額の4分の1を占めた。
今年のアルカナ社8月1歳セールにおいて、フランス供用種牡馬の産駒の売上げは1,170万ユーロ(約14億400万円)近くに上り、セリ総売上額の27.25%を占めた。そのけん引役となったのは、優秀な種牡馬成績を誇り、上場された1歳産駒の質が高かったシユーニである。フランス供用種牡馬の産駒の売上げや全体に占める割合は、これからも増加していく可能性がある。
シユーニの種付料は徐々に上がっている[2016年:3万ユーロ(約360万円)、2017年:4万5,000ユーロ(約540万円)、2018年:7万5,000ユーロ(約900万円)、2019年:10万ユーロ(約1,200万円)]。ルアーヴルも生産者からの支持を集め続けている。ウートンバセットは2016年欧州最優秀3歳牡馬アルマンゾル(Almanzor)を送り出したことで高評価を得て、その後も種牡馬として活躍している。アルマンゾルは現在エトレアム牧場(Haras d'Etreham)で父ウートンバセットとともに供用されており、初年度産駒が1歳となって上場されるのは2020年となる。
同様に、ダビルシムとケンダルジャンも競馬場で実力を発揮しそうな産駒を送り出している。また、シャラーは来年デビュー予定の産駒群の質が高いことから、リーディングサイアーとなる可能性もある。
初期に安価で生産された産駒が活躍したことでその名声を得たシユーニとルアーヴルを思い出してみてほしい。以下のまだ実績のない種牡馬は、ノルマンディーにおいて種付料1万ユーロ(約120万円)以下で供用されている。実際プレミアリーグなみの実力があるにもかかわらず、かなり割引されているのかもしれない。
ノルマンディーが種牡馬の拠点として勢いを増している様子は、成功が成功を生み出すことを示しているのかもしれない。種馬場オーナーは収入が増加することで、将来さらに質の高い種牡馬を手に入れるために再投資することができる。一方、地元生産者は質の高い産駒を生産・育成することで得られる収入を、優良繁殖牝馬を購買するために費やすことができる。
このことは、フランスの繁殖牝馬オーナーや生産者を、忌まわしいブレグジットの影響と幅広い政治的問題から隔離するのに寄与するだろう。
By Martin Stevens
(1ユーロ=約120円)
[Racing Post 2019年8月24日「How a new wave of elite French sires helped Arqana trade boom」]