馬福祉委員会の5年計画、競馬界が大歓迎(イギリス)【開催・運営】
馬福祉委員会(Horse Welfare Board:HWB)が打ち出した意欲的かつ画期的な5年計画は、"馬への敬意"を中心に据えている。しばしば意見が分かれる競馬界だが、この計画については大歓迎している。
2月20日のHWBによる報告書『生きる価値のある命(A Life Worth Living)』(全130頁)の発表は、"競馬界にとって重要な節目"と言える。この報告書は、競馬のために生産された馬の福祉に関して戦略的な5年計画を提案し、競走馬の生涯全体に責任を持つことを約束している。そのために、誕生から死までの生活の質および幸福度を測り、故障を最小限にして安全に管理するためにかつてないデータを活用している。
報告書の中では20の提案がなされている。その中には、① 不適切な鞭使用への制裁の厳格化、② 馬の生涯にわたるトレーサビリティー(追跡可能性)の向上、③ 現役および引退後の競走馬へのケア・治療に対する誤解や偏見を変えるための一般の人々との双方向コミュニケーションの積極的なキャンペーン、が含まれる。
鞭使用ルールの修正は"明確な最低限の提案"とされており、HWBはルール違反者への制裁の厳格化について、できるかぎり早急な協議を求めている(理想を言えば10月末まで)。
HWBの独立メンバー兼会長のバリー・ジョンソン(Barry Johnson)氏は、「HWBのメンバーであるトレイシー・クラウチ氏(元スポーツ大臣)も私も、もしこれらの提案が真剣に議論されないのであれば、この取組みから立ち去るでしょう」と、HWBがこの報告書に込めた真剣さを強調した。
ウィリアム・ハガス調教師とアンドリュー・ボールディング調教師は、報告書の提案を支持することを表明している。
ハガス調教師はこう語った。「報告書の提案を全面的に支持します。"英国において競走馬は最も大切に世話をされている動物である"というメッセージを伝えなければなりません」。
「そのためにもっと手を尽くすことができることは分かっていますが、競馬界が馬の福祉に関して急先鋒に立つのを目にすることはとても好ましいです。この報告書は支持されるべきです。HWBは素晴らしい仕事をしたと考えます」。
報告書全体は以下で読むことができる。
http://media.britishhorseracing.com/bha/Welfare/HWB/WELFARE_STRATEGY.pdf
ボールディング調教師もハガス調教師に賛同してこう語った。「馬の福祉に関しては、決して現状に満足してはなりません。私たちは改善に努めて常に先頭に立たなければならず、とても貴重な取組みだと考えています。誰もが協力的にならなければなりません」。
「報告書は多岐にわたるテーマを扱っています。鞭使用方法だけに注目するとすれば、それは完全に間違っています。誰もが同じ目標を目指しており、責任を認識することが最初の一歩になると思います。その目標をどのように達成するかについて、慎重に考えなければなりません」。
独立機関であるHWBは、競馬産業全体をまとめて改善を促進するために昨年4月に設立された。HWBは、BHA(英国競馬統括機構)・競馬場協会(Racecourse Association)・ホースメングループ(Horsemen's Group)の三団体協定の意思決定機関であるメンバーズ委員会(Members' Committee)に報告を行う。
ジョンソン氏は、この計画はこれから発展を遂げていくであろう5年の道のりを歩き始めたばかりであると強調し、「馬こそが我々の価値観の中心です。また、競馬産業が1つになって目標を達成する気になることこそが我々のビジョンです。馬の一生における福祉のあらゆる面が精査され、理解され、可能であれば改善されることを保証します」と語った。
5年計画:4つの重要目標
- 健康・ケア・管理・疾病対策の全ての面での最高の実践方法を奨励・促進することによる競走馬の最高質の生涯。
- 競走馬の生涯にわたるトレーサビリティーなどを具体化する馬の一生に対する連帯責任。一層深い理解や、責任感の醸成を促すイニシアティブ。
- 最高の安全性。複数のリスクファクターの理解と分析。防止可能な故障・予後不良事故の継続的減少。
- 一般の人々からの信頼の向上・維持。
ジョンソン氏は、「英国人の生活においてなぜ馬が特別な地位を占めているかを示し、一層自信を持って積極的に競馬の福祉水準の高さを幅広く説明しなければなりません」と述べた。
同氏は、HWBはチャンピオンおよびパートナーとしての馬を称賛するイベントを毎年開催する構想を支持しているとし、「競馬界で働く全ての人々には、果たすべき重要な役割があります」と言い添えた。
BHAは、この報告書の中で出されたいくつかの提案を実施する責任を負うことになる。BHAは、BHAに関わる計画に優先順位をつけ、資金提供し、準備するために実行計画を立てることに全力を注いでいる。
BHAのアナマリー・フェルプス会長は、アジア競馬会議(Asian Racing Conference 南アフリカのケープタウンで開催)でこう語った。「この5年計画の進行は、バリー・ジョンソン氏とそのグループに託されています。BHAはこの報告書全体に目を通し、何が誰によって実施されるかを考慮しながら実行計画を立てています」。
「これはBHAの報告書ではないことをはっきりとさせなければなりませんが、BHAはHWBを全面的に支持しています。彼らが報告書をまとめるためにこの8ヵ月間素晴らしい仕事をしたことを称賛したいと思います」。
「もちろん、人々が異なる見解を持つ分野はあるでしょうが、そのために協議を行い、それを実現させるために時間を掛けようと思っています」。
BHAのCEOニック・ラスト氏は述べた。「競走馬に最高の生活を過ごさせるために、競馬界がこれまで遂行してきた仕事を誇りに思っています。それには、BHAの獣医師や職員も尽力しました。そしてHWBの志の高さを目の当たりにして、私はさらに誇りを感じています。競馬界の人々は馬のためにベストを尽くしたいと考えています。私たちが馬を保護し質の高い生涯を享受させるためにどれほど精力を注いでいるか、競馬界以外のより多くの人々に理解してもらいたいと思っています」。
「十分に理解してもらっていないと感じて競馬界が不満を溜めていることは分かっています。私たちがプライドと自信を持って行ってきた良い行為について話すための基盤を、この5年計画がもたらしてくれると固く信じています。それゆえ、今回の報告書の発表は"競馬界にとって重要な節目"であり、私たちが競走馬に対して適切なことを行ってきたと信じてもらえるチャンスとなります」。
全国調教師連合会(National Trainers Federation: NTF)のCEOルパート・アーノルド(Rupert Arnold)氏はこう語った。「NTFは報告書について、積極的に取り組んでいこうと思います。調教師たちはすでに、やるべきことは十分やっていると自負していますが、全員の連帯責任を改めて感じています。自らの努力を自負して一般の人々にも分かってもらうというコンセプトを、調教師たちが理解すると信じています」。
同氏はこう続けた。「彼らは皆スポーツマンなので、対抗意識があり、継続的改善を目指しています。様々な調査結果が水準を高められる分野があることを示すなら、彼らはもちろん取り組むでしょう」。
「総体的には異議を唱える声はありません。重箱の隅をつついて『同意しない』または『提案されている馬福祉評価方法はどのように機能するか』と言う人はわずかにいるかもしれません。しかし、HWBは全員が全てに同意することを期待しているわけではありません」。
競馬場協会のCEOデヴィッド・アームストロング(David Armstrong)氏もこの報告書を歓迎し、こう語った。
「HWBの報告書の発表は"競馬界にとって重要な節目"です。この計画の進行プロセスは、非常に徹底しており、いくつかの議論を重視するために誠実な方法でデータが利用されていることに満足しています。この数ヵ月間熱心に取り組んできたHWBと、揺るぎない支援をしてくれた全ての競馬場に感謝したいと思います」。
「この計画が包括する範囲は広く、競走馬が現役のときも引退後も一生にわたって世話を受けるにふさわしいことを、私たちに確信させてくれます。私たちは報告書で提案されたことを実現させるために、また競走馬への高いレベルのケアを最優先し続けるために、競馬界と一緒に取り組むことを楽しみにしています。英国の一般の人々からの支援と関心を再確認できることを期待しています」。
By Graham Dench
[Racing Post 2020年2月20日「'Pivotal moment for racing' as Horse Welfare Board releases five-year strategy」]