生産界に希望をもたらす牝馬対象のボーナス制度(イギリス)【生産】
英国生産界は切望してきたインセンティブを受ける。サラブレッド生産者協会(Thoroughbred Breeders Association: TBA)が5月28日、英国の競馬界・生産界の将来を守るために新たなボーナス制度"グレート・ブリティッシュ・ボーナス(GBB)"の創設を発表したのだ。
GBBは英国産牝馬に対し、1対象レースにつき最大2万ポンド(約270万円)のボーナスを提供する。牝馬を出走させることを生産者・馬主に促し、競走馬としての英国産牝馬の需要を高めることを目標としている。
これは、新型コロナウイルス感染拡大による厳しい経済情勢の中で、生産界が競馬に対してコミットメントを示す自助努力によるイニシアティブであると考えられている。このボーナス制度の大部分は、競馬賭事賦課公社(Levy Board 賦課公社)と馬主・生産者からの登録料収入により資金提供されている。
平地競走では、すでに"プラス10ボーナス制度"に登録されている2歳牝馬は自動的にGBBに登録される。これらの2歳牝馬は、GBBとプラス10ボーナス制度のボーナスを同時に受け取ることができる[訳注:プラス10ボーナス制度とは、英国・アイルランドの800レース以上を対象とするボーナス制度で、登録された2歳馬・3歳馬に最大8,000ポンド(約108万円)が支払われる。この制度は2021年をもって廃止予定]。
障害競走では、障害牝馬馬主賞金制度(MOPS)に登録された牝馬は、内容がより充実したGBBに直ちに移行される。GBBは最大で、現行のMOPSの2倍のボーナスを提供する。
GBB対象レースの数はこれから最終決定される2020年競走日程に応じて決まることになる。
TBAのジュリアン・リッチモンド-ワトソン(Julian Richmond-Watson)会長はこう語った。「このボーナス制度は、英国のサラブレッド生産事業を支援する最善の方法です。このボーナス制度の主要参加者が利益を得れば、その資金は英国競馬産業へ再投資される可能性が高いでしょう」。
「GBBはTBAが委託した最新の経済影響調査から発展しました。そして業界全体にわたる大規模な共同作業を経て、将来の血統の多様性を形成する競馬番組・生産頭数を支援することに重点が置かれるでしょう」。
リッチモンンド-ワトソン氏はこう続けた。「私たちは今年ボーナスを配分できることに満足しています。2022年には対象レース数が約3,000レースに到達する予定です。生産者・馬主・調教師・騎手・厩務員・ピンフッカーはすべて、このボーナス制度の恩恵を受けられます。この制度は生産界がこれからもずっと存続できるように後押しします」。
「GBBの創設を支援するために尽力したすべての人々、とりわけこのプロジェクトのためにたゆまぬ努力を行った賦課公社と実行委員会にとても感謝しています」。
GBBの詳細
《登録方法》
【第1回登録】当歳(2020年生まれ)の8月31日までに登録
[登録料:TBA会員は200ポンド(約2万7,000円)、非会員は300ポンド(約4万円)]
【第2回登録】1歳の6月30日までに登録
[登録料:200ポンド(約2万7,000円)]
【第3回登録】2歳の2月28日までに登録
[登録料:350ポンド(約4万7,000円)]
2019年生まれの馬は、2020年8月31日までに第1回登録と第2回登録ができる。
《参加資格馬》
GBBの参加資格馬は2つのカテゴリーに分けられる。
【100%GBB】英国産馬。父は英国で供用されていた種牡馬。
【50%GBB】英国産馬。父は外国で供用されていた種牡馬。
50%GBB牝馬は100%GBB牝馬に支払われるボーナスの半額を受け取る資格がある。
【平地競走】
100%GBB牝馬は対象の牝馬限定戦で2万ポンド(約270万円)、牡牝混合戦で1万ポンド(約135万円)を獲得できる。対象レースに何度も出走することで複数のボーナス獲得が可能。
BHAの牝馬限定戦の充実化の取組みを支持するために、牝馬限定戦は牡牝混合戦よりも高額のボーナスを提供。
【障害競走】
100%GBB牝馬は対象の牝馬限定ハードル戦&チェイス戦で2万ポンド(約270万円)、牡牝混合ハードル戦&チェイス戦で1万ポンド(約135万円)を獲得できる。バンパー競走のボーナスは、牝馬限定戦で1万ポンド(約135万円)、牡牝混合戦で5,000ポンド(約68万円)。
馬の関係者はそれぞれ、ボーナスから恩恵を受ける。当該馬が対象レースで優勝した時点での馬主はボーナスの65%、生産者と第2回登録の時点での馬主はそれぞれボーナスの10%を受け取る。また、調教師・騎手・厩務員もボーナスの一部を受け取る。
最高のタイミング
GBB管理者のグラント・プリッチャード-ゴードン(Grant Pritchard-Gordon)氏は、生産者や馬主がインセンティブを切望している今こそ、GBBは歓迎されるだろうと語った。
「タイミングとしては最高でしょう。TBAは生産頭数に懸念を抱いています。2021年に大幅に減少しないとしても2022年はかなり心配です。試算ではおよそ30%減になる可能性が示唆されています。私たちは全体の生産頭数のうち33%を生産する小規模牧場を何とかして守りたいと思っています」。
「経済影響調査は2018年に小規模牧場の66%が"不採算状態"だったことを示しています。その状況はさらに悪化しているので、ボーナスを発表するのには絶好のタイミングだったでしょう」。
「生産者がセリにおいて英国産牝馬を販売しやすくするために手助けをしたいと思っています。彼らがボーナスを獲得できれば、素晴らしいです。また、少額賞金のレースで馬を走らせる馬主にとってもこのボーナスは貴重です。賞金額の大幅削減が予想される中で、2万ポンド(約270万円)のボーナスを獲得するために馬を走らせるチャンスが提供されるのは、この上なく良いタイミングです」。
このボーナス制度は英国での競馬再開(6月1日)に合わせて始動する。その週にはニューキャッスル、ニューマーケット、ヤーマス、ケンプトンの競馬場で合計6つの対象レースが施行され、2万ポンド(約270万円)のボーナスを獲得するチャンスがある。
プレッチャー・ゴードン氏は、「これはまさしく生産界の自助努力による制度です。GBB創設を推し進めてきたのはTBAですが、馬主協会(Racehorse Owners Association)からも大きな援助を受けました。BHAとウェザビーズ社もとても協力的でした。素晴らしい産業としての取組みであり、政府の資金援助は受けていません」と付言した。
By Adam Potts
(1ポンド=約135円)
[Racing Post 2020年5月28日「Great British Bonus: new prize scheme set up to safeguard fillies' programme」]