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2021年03月19日  - No.3 - 1

名門3牧場、種付頭数制限ルールに対して提訴(アメリカ)【生産】


 ケンタッキー州の名門3牧場は2月23日、米国ジョッキークラブ(The Jockey Club: TJC)が制定した"種付頭数制限ルール"に異議を申し立てる訴訟を起こした。このルールは種牡馬が140頭を上回る頭数に種付けすることを禁じている。

 ケンタッキー州東部地区連邦地方裁判所レキシントン中央部に提出された訴状は、TJCおよびケンタッキー州競馬委員会(KHRC)のジョナサン・ラビノウィッツ委員長とマーク・ギルフォイル専務理事を被告に指定している。そして、"KHRCは非合法にTJCに権限を委譲し、新たなルールはケンタッキー州憲法と合衆国憲法および州・連邦の独占禁止法に違反している"と主張している。

 TJCは2020年5月7日、懸念されているサラブレッドの遺伝子プールの多様性の低下に対応するために、"アメリカ血統書の主要登録規程および要件(Principal Rules and Requirements of The American Stud Book)"のルール14c条の改正を発表した。ある研究はこの"遺伝子プールの多様性の低下"を、1996年以降の種付頭数が100頭超となる種牡馬を巡る動向と関連づけている。TJCの種付牝馬報告(Report of Mares Bred)によれば、種付頭数140頭超の種牡馬と交配した牝馬は、2007年には5,894頭(全体の9.5%)だったが、2019年には7,415頭(全体の27%)に上り、全体に占める割合は約3倍になった。

 新たなルールは2020年生まれの種牡馬から適用され、種付けできる頭数は年間140頭に制限される。ブラッドホース誌のこれまでの報告によれば、2019年以前に生まれた種牡馬には引き続き、米国・カナダ・プエルトリコでの種付頭数に制限が掛けられることはない。

 KHRCはこの訴訟について次のような声明を出した。「KHRCはこの訴訟について認識しており、KHRCの弁護団は訴状で提起されている問題に対応する準備ができています。KHRCは係争中の事案についてコメントしないという方針をとっているため、現時点での追加的なコメントは控えさせていただきます」。

 この訴訟の原告は、スペンドスリフトファーム、アシュフォードスタッド[ビーマックN.V.(Bemak N.V.)名義]、スリーチムニーズファームである。これら3牧場はニュースリリースにおいて、"種付頭数制限ルール"はTJCによる露骨な権力乱用という性質があると述べた。またルール変更は"恣意的"で"競争抑止的"であり、多くの生産者は所有牝馬を希望するトップ種牡馬と交配させられなくなり、種付料をつり上げることになるだろうと主張する。さらに原告は、他のどの国でも血統書機関が種付頭数を強制的に制限するようなことはないので、このルールは最高級の種牡馬を海外に流出させるリスクもあると述べている。

 原告は、新たなルールは米国全体でサラブレッドの価値を弱体化させ、結果として雇用や従事者の暮らしに打撃を与えるので、TJCの行動が競馬産業の経済構造全体に大きな影響を及ぼすと確信している。そのほか、生産者による牧場の最善策の決定に人為的な制限を加えるとしている。

 訴状にはこう記されている。「TJCがサラブレッドの登録を拒否するならば、その馬のセリでの価値は完全に引き下げられます。なぜなら、その馬は競走馬にも繁殖馬にもなれないからです。結果として、最高級のサラブレッドは市場経済が規定するよりも少ない回数しか種付けできなくなるでしょう。そして数億ドルもの種付料収入に影響が及ぶでしょう。繁殖牝馬所有者は皆、交配のためにいっそう高い価格を支払うようになります。そうすると、あまり広い人脈をもたない繁殖牝馬所有者は最高級の種牡馬の利用ができなくなるでしょう」。

 TJCは2月23日に声明を出し、このルールの変更はサラブレッドの血統の健全性を長期的に保護するという血統登録機関の目標を反映したものであるとし、それを擁護した。

 「TJCは2019年9月にルール案を正式に提案し、多くの思慮深い意見をいただきました。遺伝子プールの多様性を促進し、血統の長期的な健全性を保護するルールを作成するにあたり、TJCの理事たちはそれらの意見を慎重に検討しました。このルールは2020年以降に生まれた種牡馬から適用されるので、種付料や生産界の経済に与えうる影響は推論的なものです。TJCはこのルール、そしてこのルールによって長期的にサラブレッドの血統の健全性を保護しようという目的を支持します。TJCはその目的を達成するための任務を遂行しながら、"アメリカ血統書の主要登録規程および要件"を維持し続けます」。

 いくつかの研究は、遺伝子の多様性が低下しているという心配な傾向を示している。しかし原告は、"サラブレッドの血統の健全性と遺伝子の多様性の促進のためにルール変更が必要である"というTJCの立場を支持する"科学的根拠はない"と訴える。そして、種付頭数制限ルールは最高級の種牡馬に集中していた需要をそれほど魅力的でも売れっ子でもない種牡馬に向かわせるだけで、生産者にとって有益ではないと主張する。また原告によれば、「新たなルールは、我慢を強いるというよりむしろ、生産事業からの撤退を促すものになるでしょう」と発言している生産者もいるという。原告は、種付頭数制限ルールを導入する根拠を見いだしている国は他になく、確固とした科学的証拠が裏付けないかぎりそのような根本的変更は実施できないと確信している。

 2020年には種付頭数140頭超の種牡馬は42頭おり、そのうち12頭の種付頭数は200頭以上にのぼった。首位に立ったのは種付頭数257頭のアンクルモー(アシュフォードスタッド)で、248頭のイントゥミスチーフ(スペンドスリフトファーム)がそれに次いだ。それら12頭のうち6頭がアシュフォードスタッド(平均種付頭数:233頭)、4頭がスペンドスリフトファーム(平均種付頭数:224頭)で供用されていた。

 原告は声明において、「TJC理事会はTJC年次総会で議論や投票を行わずに決定を下しました」とし、ルールの制定過程についても異議を申し立てた。また、「決断を下したTJCの理事たちは、繁殖牝馬所有者が第一希望の種牡馬を利用できないことで恩恵を受ける立場にある様々な生産・競馬事業体の代表者もしくは所有者であるため、明らかに利害相反があります」とも主張している。

 スペンドスリフトファームのB・ウェイン・ヒューズ氏は原告を代表してこう語った。「TJCによる種付頭数制限ルールの導入は露骨な権力乱用であり、それは法律にかなわず、科学に基づいていない違法行為です。ニューヨークの会員制クラブとも言えるTJCに属する数人が、ケンタッキー州をはじめ全米のサラブレッド競馬界・生産界の将来にマイナスの影響を与える決定を下すことが許されています」。

 「科学的証拠に基づかない非競争的で非アメリカ的で恣意的な決定から競馬産業を守るために、私たちは提訴しました。TJCが種付頭数を140頭に制限できるようになれば、そのうちに100頭あるいは80頭などに制限しようとすることをどうして止められるでしょう。あなたの繁殖牝馬がその140頭の中に含まれないのであればどうでしょう?私たちは小規模な生産者がこれを乗り越えられるかについて大変憂慮しています」。

 訴状には、「TJCとKHRCの行動は、財産権の保護と政府機関による民間機関への権限移譲の制限のために策定されたケンタッキー州憲法の1・2・3・8・28条に違反します」と記されている。さらに、「種付頭数制限ルールは、米国憲法の修正第5条及び第14条により保証されている3牧場の適正手続規定と平等保護権を犯しています」としている。また、「新たなルールはシャーマン反トラスト法に違反しており、競争を抑圧するものです」とも主張している。

By Eric Mitchel

 (関連記事)海外競馬ニュース 2019年No.35「米国ジョッキークラブ、種付頭数上限を140頭とすることを検討(アメリカ)」、海外競馬情報 2020年No.5「米国ジョッキークラブ、種付頭数上限140頭をルール化(アメリカ)

[bloodhorse.com 2021年2月23日「Farms File Lawsuit Challenging Cap on Mares Bred」]


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