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2021年05月21日  - No.5 - 4

メルボルンカップの大幅変更は遺憾だが理解すべきだ(オーストラリア)【開催・運営】


 それはベッドの中で始まった恋だった。嬉しいことに、それはとても素晴らしい形で続いている。

 暗がりで布団の中で横たわり、BBCラジオでメルボルンカップ(G1)の生中継を聞いていた記憶が今でも鮮明に頭に残っている。財布には優勝したジューンの名前が書かれた馬券(betting slip)が入っていたので、すごく興奮したのを覚えている。若い私にとってそれは高配当だった。ただその12ヵ月前には、この伝統あるレースにもっと大きな意味を持つ勝利があった。

 1993年、ダーモット・ウェルド調教師は"国を止めるレース"を制して国中を驚かせた。この豪州で最も大切にされているレースをオーストラレーシア(豪州 & NZ)以外の調教馬が制したことは、それまでなかったのだ。ヴィンテージクロップは単に勝っただけではない。バート・カミングス調教師など地元のトレーナーが取り入れてきた調教よりもずっと軽い調教しか受けずにレースに臨み、異なる方法で優勝したのだ。目覚ましい勝利に刻印を打つために、ウェルド調教師は優勝祝賀会でバンジョー・パターソン(豪州の詩人)の詩を朗読するほどだった。

 メルボルンカップの国際化はその時すでに始まっていた。しかし、それが終わってしまったのではないかと危惧されている。なぜなら、フレミントン競馬場のオーナーであるヴィクトリアレーシングクラブ(VRC)の支援を受けるレーシングヴィクトリア(RV)が、メルボルンカップやスプリングカーニバルへの参戦を目指す外国馬の待遇を大幅に変更することを発表したからだ。

 昨年のアンソニーヴァンダイクの死を受けて行われたレビューでは44の勧告が行われ、そのうち41が受け入れられた。要約すると、より少ない外国馬しか参戦できず、出走権を獲得した馬はメルボルンカップの前に1回しか出走が許可されず、まず最初に極めて面倒な検査やスキャンを受けなければならない。これにより、以前よりもずっと多くのハードルが設定され、それもかなり高いものが置かれるようになる。それでも、この改革が他ならぬウェルド調教師が6ヵ月前に推奨したものをほぼ反映させたものであることを指摘しておく価値がある。ウェルド調教師は名伯楽というだけでなく、獣医師の資格も持ち、それらの勧告の導入を歓迎している。

 英国とアイルランドでのより一般的な反応は失望である。調教師たちは、"変化は必要だが、これらの変更はあまりにも極端である"と主張している。それらはほぼ確実に行きすぎである。しかしメルボルンカップを守って維持することを仕事としている人々にとって、状況はかつてないほど深刻なものとなっている。

 私はこれまでにメルボルンカップをはじめとするスプリングカーニバルに4回参加した。このコラムを書くようになって、ぜんぜん当たらない勝馬予想も何度か提供してしまったものだ。私が皆さんのためにおそらくできる最善のことは、メルボルンカップの熱気に包まれた現地での体験を伝えるために全力を尽くすことだ。

 しかし、誰もがこのレースを好むわけではない。メルボルンカップ前日の正午、このレースのパレードのためにスワンストン通りに市民が集まってくる。ここに来るのは競馬好きの市民だけではない。拍手する見物人に混じって、抗議者、すなわちこのレースや競馬が残酷だと熱心に信じる人々が叫んでいる。私がこの地を訪れるたびに、そのような人々はより多くなり、より声高になっている。彼らは何か事件があるたびにそれを力に変えているのだ。

 問題の核心はここにある。欧州の馬が勝ち続けているのは事実だ。だが、予後不良になり続けている。

 42年間、現地の馬は命を落としていない。しかし過去8年間において、6頭の外国馬がレース中に故障を発症して予後不良となった。そのうち肢に致命傷を負った4頭、ヴェレマ・レッドカドー・クリフスオブモハー・アンソニーヴァンダイクは欧州調教馬だ。また2018年以降、3頭の外国馬がウェリビーの検疫施設での調教中に重傷を負い、命を失っている。

 報告書は、それらの馬がどのように死に至ったかを説明できても、なぜそれが生じたのかを説明できていない。これらの不運な馬の関係者たちはその死に打ちひしがれたことだろう。何も悪いことはしていないのに。ブリーダーズカップの遠征馬に同じような運命が降りかかるようなことはなかったのに、ウェリビーを利用した人の中にはこの施設は全く完全ではないと思っている人がいたという点は指摘できるかもしれない。しかし欧州の偉大なトレーナーたちはこの施設をくり返しうまく使いこなしてきた。彼らが深刻な懸念を抱くのであれば、この場所に戻ることはなかっただろう。メルボルンカップ・コーフィールドカップ・コックスプレートの数々の優勝馬が、ここを一時的な調教拠点としてきた。

 すべての疑問に対しては希望のもてる解決策があるだけで、決定的な答えがあるわけではない。現実には、豪州の競馬に反対する団体には詳細など必要なく、予後不良となった馬の名だけが必要なのだ。それは強力な圧力団体でもある。競馬はヴィクトリア州で盛んだが、社会的な認証を永続的に得ているわけではなく、それは豪州の障害競走が急激に縮小したことからも分かる。このような支配的なムードに押され、テイラー・スウィフトは2019年に予定されていたメルボルンカップでのコンサートへの出演を取りやめた。そのことも影響して、テレビの視聴率が著しく低下したのかもしれない。

 豪州の競馬関係者・記者・放送関係者・競馬ファンの多くは、当然のことながら憤慨している。メルボルンカップが容赦のない手厳しい見出しで報道されるせいで、彼らはいら立つと同時に恐れている。それはたしかに豪州のレースでありそこで生じた問題だが、彼らの多くは我々欧州人が原因を作ったと考えているのだ。

 彼らは海外の厩舎が毎年のように遠征してきてとんでもなく跡を濁して帰国し、地元の人々が後始末しなければならないことに不満を抱いている。たしかにメルボルンカップが豪州調教馬にとって勝ちにくいレースとなっていることに手厳しい評価を下す支持者たちはいて、彼らは遠征組が減少することを喜んでいるだろう。しかし、レーシングヴィクトリア(RV)やヴィクトリアレーシングクラブ(VRC)が、メルボルンカップの勝利を独占している海外勢を罰したいという欲望に影響されているとは、とうてい思えない。実際、近年の彼らの使命は、世界でトップクラスの厩舎にとってメルボルンカップとスプリングカーニバルをいっそう魅力的なものにすることだった。

 今回のメルボルンカップの全面的な見直しによりこのレースがより閉鎖的なものになることは間違いない。極めて残念なことだ。それでも批判できる一方で、共感もできるはずだ。メルボルンカップは国際化により、ずっと良いものとなった。そしてメルボルンカップはその存続のために戦っていかなければならなくなったのだ。

 私たちは外国人として、これまで制覇してきたメルボルンカップにこのような変更を施されることを遺憾に思う。ただ地元の人々にとっては、メルボルンカップが私たちの送り込んだ数々の馬と同じ運命を辿らないようにすることがいっそう重要なのである。

By Lee Mottershead

 (関連記事)海外競馬ニュース 2020年No.45「予後不良事故防止のために欧州調教馬の環境適応が必要か(オーストラリア)

[Racing Post 2021年5月2日「The Melbourne Cup is in a mess - we cannot blame them for wanting to clean it up」]


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