南半球の生産者の間でフランケルが大人気(オーストラリア)【生産】
ニューマーケット郊外にあるバンステッドマナースタッド(ジャドモントファーム所有)の種付権利管理者であるシェーン・ホーラン氏によると、フランケルは先日この世を去った父、名種牡馬ガリレオの後継者になろうと大忙しだ。南半球におけるフランケルへの種付予約は物凄いスピードで埋まっている。
「フランケルは多大な人気を博していて、豪州から多くの良質の繁殖牝馬が再び彼のもとを訪れる予定であり、現在種付予約は実質的に満杯の状態です」とホーラン氏は述べる。
"フランケル対ウィンクス"の論争は今後もおそらく盛り上がり続けるだろうが、フランケルの競走馬としての能力は疑いようもないものだった。そして今シーズン、種牡馬フランケルの南半球のサポーターたちは、3頭のフランケル産駒がG1競走のウィナーズサークルに入るという栄誉に浴したのを見て、その支持が十分に報われたと感じた。
豪州での筆頭格の産駒は、オーストラリアンオークス(G1)とヴァイナリースタッドS(G1)を制して、見事なまでに安定した成績を残しているハングリーハートであるに違いない。また熟練したミラージュダンサーがメトロポリタン(G1 2400m)で優勝したことに文句を言う人はいないだろうが、コンヴァージがJJアトキンスS(G1 1600m)を制したことは皆を一番驚かせただろう。
「豪州では2歳のG1優勝馬を送り出すことはとても重要です。もしその種牡馬が豪州で供用されておらず、フランケルのようにすでに有名であれば、大いに注目を集めます」とホーラン氏は語った。
北半球の種牡馬には豪州の種牡馬のように早熟の産駒を送り出す傾向はないものだが、豪州には2歳G1競走を楽々と制したフランケル産駒がいる。なるほど、人々が驚いたのも当然のことかもしれない。
豪州でG1勝利を収めた初期のフランケル産駒は、大体において2000m以上の距離で好成績を収めていた。近年メルボルンカップの常連となっているフィンチ(Finche)、ランヴェットS(G1)で2着のエミネント、ヴァイナリースタッドSで2着、オーストラリアンオークスで3着となったフランケリーオーサムなどがそうである。
しかし統計は、短距離戦に出走したフランケル産駒について興味深い実態を示している。世界中で出走しているフランケル産駒472頭のうち、「1000m以下」のレースに出走したのはわずか23頭である。それらの出走馬の中で勝馬となったのは実頭数で何頭だろうか?それは11頭であり、割合で言うなら48%である。
「1001m~1200m」のレースを見てみると、出走馬78頭から27頭の勝馬が出ており、勝馬率は35%という依然として良い印象がもたらされる。それでは、スタミナを授けることで定評のあるフランケルがこれらの距離で多くの勝馬を送り出し得ることに、ホーラン氏は驚きを感じているのだろうか。
「フランケルについて知れば知るほど、まったく驚くに値しませんね。彼はそれだけ素晴らしい種牡馬です。フランケル産駒が勝利を収めた競走距離の平均は、ガリレオ産駒のそれよりも2ハロン(約400m)短いのです。忘れてはならないのは、フランケルの母はスプリンターでありデインヒル産駒であるということです」。
おそらくこのことがフランケルの南半球での成績を、父ガリレオの南半球での比較的目立たない成績に比べてかなり好調なものにしている。ガリレオは5シーズン豪州にシャトルされたが、自らの北半球での支配力を南半球に伝えることができなかった。
フランケルを支援してきた生産者や1歳馬・当歳馬の購買者は、高額種付料や南半球の繁殖シーズンに繁殖牝馬を北半球に送るリスクにもかかわらず、ガリレオの後継種牡馬を支援することに十分な価値があるということをすでに実証してきたに違いない。
豪州で走った初期のフランケル産駒はミドルディスタンスから長距離で優秀な成績を収めており、そのことが今年上場された1歳馬・当歳馬の価格に影響を及ぼしたのは明らかだ。スピードと早熟性が求められることで、フランケルの1歳産駒の平均価格は2016年から2018年までの間に95万豪ドル(約7,600万円)から60万豪ドル(約4,800万円)に変動し、2021年には24万3,000豪ドル(約1,944万円)まで下落した。この価格で購買できた人々は市場の底を見つけたと言っても良いだろう。
しかし興味深いことに、この1歳馬の価格はその間の豪州におけるフランケル産駒の全体的な成績を反映していなかった。たしかに昨シーズンは、G1馬3頭を送り出したことでフランケルの南半球での躍進の年と見ることができるだろう。だが、フランケルの種牡馬成績はすでに2017年から驚くべきものと言える。この年、出走馬37頭のうち25頭が勝馬となり、そのうち7頭がステークス勝馬だった。勝馬率は68%で、ステークス勝馬率は19%ということになる。
それでは、バンステッドマナースタッドではどのような牝馬を迎え入れているのだろうか。
ホーラン氏はこう語った。「フランケルはミスタープロスペクター系の繁殖牝馬で素晴らしい成績を残しています。それにドバウィ系との相性も良いことは明らかで、今年の英ダービー馬アダイヤーもこの組合せから出ています。ご存じのように、一般的にデインヒルの同系交配はあまりにうまくいきません。北半球と南半球の間で7,500回以上試してきましたが、ステークス勝馬率は1.1%程度です」。
「フランケルのデインヒルとの同系交配の結果はそれよりも良くて約7%ですが、デインヒルが入っていない繁殖牝馬との組合せだとステークス勝馬率は約15%と大幅に上がります」。
英国のジャドモントファームの生産事業は決して一頭に頼ったものではなく、豪州のセリの結果を見ても、フランケルは同ファームの最高の種牡馬でないとさえ言えるだろう。キングマンは、2021年の豪州のセリシーズンにおいて1歳産駒の平均価格94万2,000豪ドル(約7,536万円)を誇っている。
ホーラン氏はこう続けた。「1月には、キングマンがセリの後に大人気を博していました。明らかに彼のセリの結果は驚異的で、まさしく市場が求めていたものでした。しかしその後、ハングリーハートがG1初勝利、そしてG1・2勝目を挙げたことで、人々はフランケルに注目し始め、それが雪だるま式に増大したのです」。
「最近ではジョン・カミレリ氏が所有するアルジェンティア(Argentia)が活躍しており、誰が見てもとてもワクワクさせられるような牝馬です。結果が出るにつれて、種付予約の申込みが増えています。そこで私たちはフランケルの種付予約の上限を40件と決めて、現状ではすべてうまくいっています」。
「振り返ってみると、フランケル産駒はおそらくかなり割安になっていると言わざるを得ないでしょうね。実際にはキングマンのほうが忙しい種牡馬になると予想していました。しかし、できるうちにフランケル産駒を手に入れようとする人たちを責めることはできません。フランケルが有能であると証明されたので、二度と現在の価格にはならないでしょうから」。
ガリレオの直仔が限りある資源となった今、世界中の生産者はすでにガリレオの最も明白な後継種牡馬に多額の投資を行っている。
「私たちは、フランケルがガリレオの後継種牡馬であると主張するような大胆なことは絶対にしないでしょう。ガリレオは比類のない種牡馬であり、もちろん彼の父サドラーズウェルズもそうでしたが、フランケルもそうなのです。卓越したサイアーラインであり、すべてが順調であれば、フランケルがそれを引き継ぐことになるでしょう」。
「フランケルはおそらくガリレオ産駒の中で最も多才であり、さまざまな国のさまざまな競走距離でG1勝利産駒を送り出してきました。しかし、彼は今や優秀な生産者と最高級の繁殖牝馬から素晴らしいサポートを受けているので、本当にまだ始まったばかりだと考えなければなりません」。
「彼が北半球で重賞勝馬50頭を送り出すまであと3頭です。ガリレオが保持していた重賞勝馬50頭を達成するまでの最短記録を、ドバウィが更新しました。フランケルは来年のロイヤルアスコット開催までにあと3頭の重賞勝馬を送り出さなければなりません。彼がそれを成し遂げると期待しなければなりません」。
それを成し遂げないという方に賭けるのは勇気のある人だけだろう。
By ANZ Bloodstock News
(1豪ドル=約80円)
[Racing Post 2021年7月21日「Frankel all the rage for southern hemisphere breeders」]