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2022年01月21日  - No.1 - 1

魅惑的な米国の4000億ドルの巨大賭事市場(アメリカ)【開催・運営】


 『トイ・ストーリー』や『白雪姫』といった家族そろって楽しめる作品を生みだす映画製作会社がギャンブルの世界で成功を収めようとしているのは不似合いに思えるかもしれない。

 しかしウォルト・ディズニーのようなとてつもなく愛される米国の象徴でさえも国内の急拡大するスポーツ賭事市場に賭けてみようと万全の態勢をとるぐらい、米国賭事産業の潜在力は桁外れに大きいのだ。

 それにスポーツブランドESPNを通じて積極的に取り分を確保すると宣言したディズニーだけが、やがて世界最大になる合法スポーツ賭事市場においてシェアの獲得を狙う唯一の世界企業というわけではない。

 連邦政府が2018年にスポーツ賭事を解禁して以来、数々の企業が熱狂的な土地買収に乗り出し、顧客とパイの取り分を獲得するためにマーケティング・プロモーション・合併に何億ドルも費やしている。

 オンラインスポーツ賭事を合法化する州は毎月増えており、米国市場の成長が減速する兆しはほとんどない。英国とアイルランドのブックメーカーは本国で規制が大きく変化することが予想されているため、このギャンブルのエルドラド(黄金郷)をゴールデンチケットと見なしている。

 ボートに乗り遅れることを恐れる理由は明らかである。米国ゲーミング協会(American Gaming Association:AGA)のデータによると、2021年上半期に米国人は合法スポーツ賭事業者で240億ドル(約2兆7,600億円)を賭け、ゲーミングの粗利益(賭金から払戻金をひいたもの)はおおよそ20億ドル(約2,300億円)に相当する。

 しかしこれは始まりに過ぎないかもしれない。マッコーリーリサーチによると、米国スポーツ賭事産業は2030年までに、4,000億ドル(約46兆円)の賭けから粗利益300億ドル(約3兆4,500億円)を生み出すと予想されている。

 これは英国の賭事産業をちっぽけなものに見せるほどである。賭事委員会(Gambling Commission)によると、スポーツ賭事だけでなくカジノ・オンラインゲーム・国営宝くじなどを含む英国の賭事分野全体のゲーミング粗利益は2019年4月~2020年3月で141億ポンド(約2兆1,855億円)とされている。

 米国市場はその広大な規模と潜在的成長を考えると活況となるように見える。しかし数々の企業が多額の投資が利益として返ってくることを心待ちにし、規制により困難が生じる可能性にも注意を払っている中で、まだ答えがでていない疑問が残っている。

 つまり、米国は世界のスポーツ賭事の情勢を永遠に変えてしまうのだろうか、それともこの成長著しい市場はいずれ崩壊を迎える新たなバブルに過ぎないのだろうか?

巨大市場の誕生

 2018年、最高裁はスポーツ賭事を禁じる連邦法を覆し、各州が独自の法案を可決する道を開いた。それまでは毎年およそ1,500億ドル(約17兆2,500億円)の違法賭事が行われていた。

 それは重要な分岐点だった。この待望の判決以来、賭事業者やメディア企業(ディズニーだけでなくスポーツイラストレイティッドなどのブランドも含む)は市場ポジションを確立するために闘っている。大きなスポーツイベントの前後にプロモーションボーナスや広告に多額の費用を投入し続け、その闘いは依然として熾烈を極めている。

 たとえば米国の賭事業者ファンデュエル社(FanDuel)は2018年にフラッター社(パディパワー社やベットフェア社のオーナー)に買収されて以来、マーケティング投資のために10億ドル(約1,150億円)、2021年上半期だけでも2億2,500万ポンド(約348億7,500万円)を受け取っている。ファンデュエル社の2021年の収入は18億~20億ドル(約2,070億~2,300億円)と予測されている。

 しかし、これは "市場を読んで投資しないとお金は増えない"という常套文句を地で行くようなものだ。フラッター社は、自社ブランドが活動する米国市場が2025年までに200億ドル(約2兆3,000億円)を超え、さらに最も注目すべきカリフォルニアなどの州が新たにスポーツ賭事を合法化し、カナダ市場も拡大すれば340億ドル(約3兆9,100億円)にまで増加すると考えている。現在スポーツ賭事は29州とワシントンDCで運営されているが、すべての州が幅広い種類の賭事を提供しているわけではない。

 ファンデュエル社は大半の州で、かつてファンタジースポーツ(一定のルールの下に実在する選手を集めて空想の最強チームを作り総合ポイント等を競うオンラインスポーツシミュレーションゲーム)のみを提供していた同業者ドラフトキングス社(DraftKings)よりも規模においてわずかに優位に立っている。ドラフトキングス社は11月、米国においてカジノ大手MGMと合弁事業を行っているエンテイン社(Entain ラドブロークス社とコーラル社のオーナー)を164億ポンド(約2兆5,420億円)で獲得しようとしたが手を引いた。

 米国・英国の企業間の共同事業や買収・合併は増える傾向にある。4月にはシーザーズ・エンターテインメント社が29億ポンド(約4,495億円)でのウィリアムヒル社の買収を完了したが、その関心はもっぱら米国の資産にあった。

 ウィリアムヒルUS社のCEOだったジョー・アッシャー氏は売却に伴い退任した。実際に店舗を構えるカジノやファンタジースポーツの枠をこえて事業を拡大する米国企業にとって、長年オンラインスポーツ賭事を提供することが可能だった英国のブックメーカーは格好の標的だったと同氏は考えている。

 ニューヨークの賭事サミットにおいてアッシャー氏はこう語った。「ウィリアムヒルUS社の買収により、シーザーズ社は人材と技術を備えたビジネス全体を手に入れたことになり、彼らにとってそれはとても重要なことでした」。

 「同様に、MGMにとってエンテイン社との合弁は知識と専門性を得るための1つの手段であり、それらを独自に獲得しようとすると時間と資金が必要なのです。急速に発展する産業では時間が最も重要であり、米国企業が英国企業を買収するもしくは提携企業にしようと試みるのは当然のことでした」。

 「英国でスポーツ賭事やオンラインゲーミング事業は成熟していますが、米国ではまだかなり初期段階にあります。そのため英国で習得したことは明らかに米国で適用できますが、状況は一致しているとは言えません。米国から得た教訓のいくつかは英国に持ち帰ることもできるかもしれません」。

 米国企業が競合する他社よりも専門知識やインフラの面で有利にスタートを切られるということのほかにも、英国のブックメーカーを買収する、もしくは提携企業にすることには利点がある。それは、何がうまく機能するか、そして決定的なのは、何が機能しないかを大まかに把握できるという点だ。

 グローバル戦略の顧問会社であるレギュラスパートナーズ社のダン・ウォー(Dan Waugh)氏は、「英国は主要国の中でオンライン賭事規制に関して最も長い歴史を持ち、試行錯誤を繰り返してきました。ここにいたるまで多くの賭事業者が失敗もしてきたので、米国企業にとって同じ轍を踏まないようにするという点で大きなメリットがあります」と語った。

米国の賭事の未来

 お客様は神様であり、州がオンラインスポーツ賭事を解禁するたびに企業が取るべき最初のステップは広告や豪華な販売キャンペーンにより市場での存在感を早期に示すことだった。解禁の前でさえも、それはソーシャルメディアやファンタジースポーツを通じて進められていた。

 その次のステップはきわめて重要だが、さらに困難となる可能性がある。それは、バリューの高いスポーツ賭事の新規顧客の獲得と争奪により莫大な投資を利益につなげていくことである。

 現在賭事技術企業IGTでスポーツ賭事担当社長を務めるアッシャー氏はこう語った。「現在は構築の段階であり、顧客を獲得するためのマーケティングに多額の費用がかかっています」。

 「"それらの顧客のライフタイムバリュー(LTV 1人の顧客が生涯にどの程度自社製品やサービスを利用してくれるかを金額に換算した数値)はどのくらいか?"というのが大きな問題です。LTVが2,000ドル(約23万円)の顧客を獲得するために1,000ドル(約11万5,000円)を費やしたならそれは良い投資です。LTVが500ドル(約5万7,500円)にしかならない顧客の場合は、あまり良い投資をしたとは言えません。顧客のLTVが重要になります。オンラインゲーミングの顧客としてのバリューのみを考慮するのであれば、明らかに現在のマーケティング費用のレベルはビジネスを維持できるものではないでしょう」。

 「一部の企業にとっては、そもそもスポーツ賭事で儲かるかどうかは実はどうでもいいことかもしれません。たとえば、シーザーズ社はホテルとカジノのエコシステムに何百万人もの人々を取り込んでおり、今後40年間は彼らを顧客にするかもしれません。スポーツ賭事は大手カジノ企業にとって最大の顧客獲得ツールなのです」。

 多くの人々がこの投資の目まぐるしい進展をゴールドラッシュと表現した。しかし顧客がはかり知れない価値を有するのは確かだが、多くの企業はまだ利潤を獲得していない。たとえばファンデュエル社は諸州の合法化の時期にもよるが、2023年まで利益が出ないと予想している。

 将来性に投資することはビジネスの柱であり、企業が初期の成長を利益に変える方法を明確に計画していれば米国における収益性の不足は必ずしも問題ではないと、ウォー氏は主張している。

 「スポーツ賭事市場が開放されるのを待つあいだに、ファンタジースポーツやソーシャルゲームなどの合法的な商品を通じて早くから存在感を示そうとしている賭事業者もいます。とりわけ米国では、先行者利益よりも既存者利益のほうがはるかに重要になり得るのです。そのため、企業はMGMやシーザーズ社のようなブランドとタイアップすることに熱心です。米国は身内を守ろうとする傾向があります」。

 「顧客をいったん獲得すれば離れないということが分かっていれば、できるだけ早く規模を拡大するために土地を買収することは妙案です。一方、収益性を上げる方法を知らずに規模を追い求めると、成長は一時的なものになる可能性が高いです」。

 米国市場で存在感を示そうとする競争が尻すぼみとなり、市場が統合されるにつれて多数の企業が途中で挫折して、一握りの賭事業者しか残らないという懸念もある。

 莫大な支出を考慮すれば、成長を目的とした成長という姿勢は"より安全なギャンブル問題"につながる恐れもある。この問題は賭事法の見直しが現在進められている英国で長らく注目を集めている。ニュージャージー州の規制当局は12月、免許保有者に対してオンライン賭事やゲーミングにおける責任基準は引き上げられることになると通告した。

 しかし米国が欧州とは異なる道を歩むだろうという楽観的な根拠がある。オンライン賭事は連邦ではなく州が取り仕切っており、市場への参入はずっと制限されている。つまり理論上は競争が少なく、マーケティングに対してより成熟して持続的なアプローチが取られることを意味している。

 州は賭事業者から得られるかもしれない税収だけでなく、それらの賭事業者の多く(とりわけ大規模なカジノなど)が州内の重要な雇用主であることも意識するだろう。

 ウォー氏はこう語った。「これらのことは結びついています。採算の合わないビジネスモデルであれば、ある時点で社会的責任の問題に発展するでしょう。政治家たち、観念的には一般の人々の怒りを買ってしまうと、英国で見られたように、立ち直るのがきわめて困難になってしまいます」。

 「持続可能な地位に達するための明確な計画なしに企業が成長を追求すれば、裏目に出るでしょう。顧客が粗末に扱われることになり、その結果、規制の反発を受け、より強引な売込みが行われ、一般の人々から否定的な感情を持たれることになるのです」。

 賭事業者にとって次の主戦場はニューヨーク州である。同州の規制当局は11月、ドラフトキングス社、ファンデュエル社、ベットMGMなど9つの賭事業者にオンラインスポーツ賭事の運営免許を承認した。モバイルスポーツ賭事が2月13日のスーパーボウルに間に合うように稼働することになり、年間10億ドル(約1,150億円)の収益が見込まれる。しかし、ニューヨーク州のゲーミング委員会がスポーツ賭事の収益に51%の税率を勧告しているという驚くべき事実がある。

 賭事業者に門戸を開く州が増える可能性があり、テキサスとカリフォルニアはまだ動き始めていない二大州である。一方、これまでカジノ施設でしかスポーツ賭事を楽しめなかった賭事客に対して選択肢の幅を広げることも望まれている。

 アッシャー氏はこう語った。「インプレイベッティング(各種スポーツの試合中に賭けをすることができるオプション)は賭事全体の中で占める割合が拡大し続けています。賭事アプリのオーバーレイを使ったストリーミングで人々が賭事を行える未来を強く信じています。また、スポーツコンテンツにまつわるメディアの権利にも大きな変化があるでしょう」。

英国にとってどのような意味を持つのか?

 米国と英国のそれぞれの賭事産業は別々の場所に存在しているわけではないだろう。一方は離陸しはじめたばかりで無限の可能性を約束されており、もう一方は伝統が染みついているもののますます息苦しさを感じている。

 英国における顧客の経済力チェックやギャンブル広告の禁止などの規制強化の見通しを考慮すれば、最大手のブックメーカーが米国に多額の投資を行っているのは驚くに足らない。それは"魔法の切り札"と見なされているようだ。

 そして、この目標の転換は英国の賭事産業にとって何を意味するのだろうか?英国の賭事産業は、"規制による圧力"と"一般の人々のギャンブルに対する認識の明白な変化"の板挟みになっている。

 ブックメーカーの投資の減少は、メディア権や賦課金を通じて賭事産業に大きく依存する競馬界にとって、それ相応の重大な意味を有するだろう。

 ウォー氏はこう続けた。「英国市場は圧力を受けています。賭事に関するレビューを見ると、賭事業者がダメージを最小限に抑えることに重点を置いているように感じます。少なくとも短期的には賭事産業が危機を脱して良い状態になると誰も期待していません。思慮深い改革は賭事産業を収縮させるかもしれませんが、その基盤を持続可能なものにする可能性もあるでしょう」。

 「問題は、英国議会の中には賭事産業の持続性を望まない人々がいて、"賭事への支出額の上限設定"や"広告の全面禁止"といった強硬な要求を迫っていることです」。

 「英国は少し疲弊した感があり、当然のことながら人々は成長の機会に魅力を感じています。ここで起こっていることに少しばかりうんざりしている賭事業者もいます。ひとつにはそんな状態が長く続いているためでもありますが、この国でビジネスを強化するよりも、どこで成長できるかについて焦点を合わせているからでもあります」。

 「人々は起こっていることについて必要以上にリラックスしているように思われます。しかしそれはもしかしたら、欧州はもうお手上げだと考え、他の場所のもっとエキサイティングな機会に目線が向いているからかもしれません。それでもとりわけあなたをトラブルに巻き込んだ持続的でなかった経営から学ばなければ、問題が付きまとい続ける危険性があります」。

 だから、英国とアイルランドのブックメーカーが聖杯(至高の目標)だと思い込んでいるものであっても"光り輝くものすべてゴールドとは限らない"という見解はあてはまるのだ。巨額の収益が約束されているにもかかわらず、一部の大企業による巨額の支出はまだ十分に報われておらず、賭事産業が持続可能となるまでの道のりには越えるべき規制上のハードルが存在するのである。

 しかし潜在的な報酬を考えると、アメリカンドリームは当然ながら魅惑的であり続ける。この世界ギャンブル史におけるユニークな瞬間を最初にまばたきして見逃してしまうことを望む人などいないのだ。

By Jonathan Harding

(1ドル=約115円、1ポンド=約155円)

 (関連記事)海外競馬ニュース 2018年No.18「米最高裁がスポーツ賭事の合法化を認める(アメリカ)

[Racing Post 2021年12月14日「The $400 billion battleground - and even Disney wants a slice of the action」]


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