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2022年01月21日  - No.1 - 3

39歳のサラブレッド、ラッシュはまだまだ健在(アメリカ)【その他】


 ある特別な馬のオーナーには、1年を無事に過ごして北米のサラブレッドが同時に誕生日を迎える元旦を祝う理由がもう少し余計にある。

 今では"ラッシュ(Rush)"という名で知られるデッドソリッドパーフェクト(Dead Solid Perfect)は15歳や20歳になるわけでも、ましてや25歳になるわけでもない。オーナーによれば、39歳となる彼はまだまだ楽しく暮らしているという。生年月日の1983年5月4日から数えても1月1日の時点で彼は38歳と242日であり、北米最高齢のサラブレッドとまでは言えないまでも最も高齢の部類に入ることになる。

 サラブレッド血統登録機関、米国ジョッキークラブ(TJC)は多くの統計をとっているが、最高齢のサラブレッドはその中には入っていないと、TJCのコミュニケーション担当理事であるシャノン・ルース氏は述べた。TJCがすべてのオーナーから所有馬の死亡通知を受け取る必要があるため、このようなデータの正確な追跡はおぼつかない。

 そのため長寿記録は口コミ・ニュース・インターネット、そして定番のギネス世界記録によって残されている。ギネスブックには、最高齢のサラブレッドはバロンガロック(豪ヴィクトリア州)のカーメン・J・コパーさんが所有したタンゴデューク(1935年産)であり、42歳まで生きて1978年1月25日に死んだとある。

 インターネットのさまざまな情報源によると、サラブレッドのだいたいの平均寿命は25歳~28歳らしい。

 もっと最近の北米の例では、5年余り前に老齢のプロスペクトポイントが北米最高齢サラブレッドなのではないかという憶測が流れ、ニュースで取り上げられた。同馬は2016年9月23日、38歳と203日で生涯を閉じた。しかし今ではその彼の記録ですら、ラッシュが塗り替えてしまった。

 寿命の点でラッシュと匹敵しそうなのは、サラブレッドよりも長生きできる馬種だけだろう。彼のオーナーであるブリジット・ユーカーズさんは「現在のところ彼はとても希薄な成層圏にいるようなものです」と述べた。

 ラッシュの年齢を歴史上で考えてみると、彼は第1期レーガン政権時代に生まれ、1986年ケンタッキーダービー(G1)優勝馬ファーディナンドと同世代である。競馬の公式レコードキーパー、エクイベース社が設立されたときにはすでに7歳になっていた。エクイベース社が遡って作成したデッドソリッドパーフェクトのプロフィールにはレースの記録はないが、通算成績16戦1勝、獲得賞金5,940ドルと記載されている。

 彼は馬主でもあるルイ・ガリーナ調教師に手掛けられ、1988年にロッキンガムパーク競馬場で現役最後のレースを走ったが、この競馬場は2016年に閉場しラッシュよりも先に生涯を閉じた。

 ジョッキークラブは2003年、ほかの馬にデッドソリッドパーフェクトという名前をつけることを許可した。これは先に同じ名前をつけられた馬が競走生活や繁殖生活から離れて5年以上経っていれば名前を再利用できるため、たびたび起こることである。それでもユーカーズさんが言うように、ラッシュは1頭しかいないのだ。彼は老齢になってもウィンザーハントステーブルス(コネチカット州)での生活を楽しんでいる。

 彼は良好な健康状態で、時々季節性アレルギーにかかったりカビに敏感になる時期があるだけだという。

 ユーカーズさんはクリスマス前のインタビューで「ラッシュは先週雪が少し降ったのを喜んでいましたね。私たちも雪の中で転がる彼を見て楽しみました。昨日誰かがゲートを開けっぱなしにしていて、あいにく気づかないでいたところ、彼が先に気づいて行かないはずの丘の辺りをぶらぶらと駆け下りて楽しいひとときを過ごしたようですよ。面倒をたくさん起こして大いに楽しんでいるのです」と語った。

 ユーカーズさんとラッシュは固い絆で結ばれている。彼女にとって唯一の馬なのだ。彼女が子どもの頃に、両親がこの引退競走馬を購買し、ほかのオーナーが馬場馬術のために調教した。そして9歳になったラッシュに彼女は乗り始めた(ユーカーズさんは自身の年齢の掲載を拒んだが、ラッシュより少し年上なだけである)。

 ユーカーズさんとラッシュは馬術とハンター競技で活躍し、1995年全米チルドレンメダルファイナルや1996年コネチカット州ジュニアメダルファイナルなど数々の大会への出場権を獲得した。ラッシュは翌年腱を痛めて大会からは引退したが、35歳になる2018年までユーカーズさんとともに馬場馬術、その後はトレイルライディングで活躍を続けたという。

 ユーカーズさんは「ええ、思い返せばそうですね。高校、大学、そして私の人生の冒険すべてに彼は寄り添ってくれたのです。どんなときも忠実でいてくれました」と語った。

 もう人を乗せることはなくなったラッシュは、例のオーナーに内緒で抜け出すようなとき以外は、ユーカーズさんと一緒に牧場の丘を登ったり降りたりしている。

 ユーカーズさんはこう続ける。「体力と柔軟性を維持することが、思いどおりの生活を続けられる大きな要素になっていると考えます。彼はまだ体を伏せて転がることができます。起き上がったり横になったりできます」。

 「しかし、彼がこのようなことを続けてくれるのが私にとっても大事なのです。それに正直なところ、彼の世話をすることは私の生活の一部なのです。彼は1日4回も食事をするのですよ」。

 ユーカーズさんはこの8~9年、オーガニックのアルファルファペレット・大麦・燕麦を食べさせている。

 「ラッシュの食生活について話し始めると、『そんなに良いものを食べてみたいね』とか『それぐらい良いものを食べないとね』と言う人がたくさんいます。獣医さんが朝に何気なく立ち寄られては、『彼は本当に良い朝食を食べるのですね』と言ってくれるのです。小さなキッチンを開くとかなりうまく行くと思います」。

 当然のことながら、ラッシュは以前ほど若々しくは見えない。ラッシュは黒鹿毛に分類され、肢以外は褐色の毛並みを保っていたが、30歳あたりから白くなり始めた。今では顔面はほぼ白くなり首もそうなってきた。

 ケンタッキー州でプレストン・マッデン氏により生産されたラッシュは3代父に"グレイゴースト(灰色の幽霊)"の異名をとる芦毛の名馬ネイティヴダンサーがいることで、グレイになる性質があるのではないかと、ユーカーズさんは推論する。ラッシュの父レイズアカップは鹿毛に分類され、母ケイムイエン(Kame Yen)は黒鹿毛に分類される。

 ラッシュはマッデン氏により1984年キーンランド9月1歳セールに上場され、ジョン・フォート氏により6万ドルで落札された。

 セリに上場されたころからかなりの年月が経っているが、ラッシュには今でも輝かしい魅力があるとオーナーは言う。ラッシュは放牧地で、ほかのオーナーが所有する"カウボーイ"という名の、ユーカーズさんいわく"若い"25歳のクォーターホースとともに過ごしている。彼女は2頭のことを"見せかけの友(フレネミー)"と呼んでいる。

 「とても仲が良いときもあれば、まったく険悪なときもあるのです。カウボーイはラッシュの食べ物を盗ろうとするのが好きで、ラッシュはそれを嫌がるのです。そんなことで、ちょっとした殴り合いの喧嘩をするのです」。

 ラッシュは当然、何気なく疲れた脚を休ませることがある。そして何かの上にお尻を乗せ、時に笑いを引き起こす。

 彼女はこう振り返った。「実におかしかった事件は、誰かが物置にしまうはずだったゴミ入れを置きっぱなしにしていたときに起こりました。そのゴミ入れはラッシュの後ろにあり、私は特になんとも思っていませんでした。私は馬房を掃除していて、彼は引き手2本でつながれていたのですが、少し動き回る音がしたんです。それから突然ものすごい音がして急いで出て行くと、彼が『あ、おっと。やってしまった』というふうに後ろをのぞき込んでいましたね。彼の後ろでは、アルミ製のゴミ入れが誰かが額で潰したビール缶のようになっていました。それは彼がその上に座ろうとしたためであり、一種の災難でした」。

 このご年配を誰が責めることができるだろうか?

 ユーカーズさんはこう語った。「これほど高齢の馬の世話をするのはとても大変ですが、やりがいもありますよ。彼がまだ日々を楽しんでいるのを見るのはとても嬉しいし、まさにこういうのが最初から目標だったのです。彼が楽しんで生きて幸せであるようにしてあげたいと思っていて、彼がそれを望まなくなったら旅立たせてあげたいのです」。

By Byron King

[bloodhorse.com 2021年12 月31日「39-Year-Old Thoroughbred in 'Rarefied Stratosphere'」]

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