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海外競馬情報
2022年10月20日  - No.10 - 3

重傷を負うリスクのある馬を特定するストライド分析(アメリカ)【獣医・診療】


 ある研究チームは、ストライド(完歩)をモニタリングすることで、予後不良事故に遭うもしくは競走能力を喪失するほどの重傷を負う危険性のある競走馬を特定することを目指しており、9月23日、ケンタッキー州馬薬物調査評議会(Kentucky Equine Drug Research Council: KEDRC)に対して資金提供を訴えた。彼らは馬の命を救うかもしれないこのプログラムの実施に向けて、それが最後の一押しとなると考えている。

 KEDRCはケンタッキー州競馬委員会(KHRC)の管轄下で活動しており、薬物に関する政策についての調査と勧告を行い、KHRCが資金提供するのにふさわしい研究プロジェクトを審査する役割を担っている。

 ストライドのモニタリングに関する発表は、ウォリック・ベイリー博士(ワシントン州立大学獣医学部獣医臨床サービス学科教授)とデヴィッド・ランバート博士(ストライドセーフ社の獣医師兼CEO)により行われた。ストライドセーフ社(StrideSAFE)は、ストライド分析データを収集する生体測定センサーシステムの開発会社である。

 ベイリー博士はこう述べた。「調教を積んでいる段階で競走能力を喪失する、さらにひどい場合は命を落とすことになる筋骨格系外傷に関して、そのリスクの高い馬を特定する方法をランバート博士たちが追求するようになって4年目になります。これはやらなければならないことだと思いました。正しい取組みなのです」。

 ストライドセーフ社のシステムは、2020年にエメラルドダウンズ競馬場で試行を開始した。脚部・腹帯の後ろ・サドルパッドの下に取りつけてあるセンサーを使って、単一モニター装置を作るのに必要なデータを収集した。この単一モニター装置はゼッケンの中に収まり、3つの平面方向[縦方向(上下)・垂直方向(前後)・内外側(左右)]の加速度を測定するものだ。収集したデータから、ベイリー博士がストライドの"指紋"と呼ぶプロフィールを作成する。

 その結果、これらの指紋は、健全なG1馬・G2馬30頭の分析から作成される"理想的なストライド"と比較することができるようになる。

 NYRA(ニューヨーク競馬協会)の協力のもと調教とレースで実施された試行において、ベイリー博士とランバート博士は馬のリスクレベルを示すフラグを立てるシステムを開発した。理想的なストライドの1.9標準偏差以下であれば"青信号"が灯された。つまり怪我のリスクが最も低いということである。また標準偏差が2~2.9であれば"黄信号"、3以上であれば"赤信号"のフラグが立てられた。

 標準偏差6~7.9で"赤信号"のフラグが立った馬が競走能力を喪失するもしくは命を落とす重傷を負うリスクファクターは、"青信号"の1に対して142と評価された。

 ベイリー博士は今こそ、このシステムを用いて実用的、経済的、かつ自動化されたシステムを作りだすときだと述べた。リスクがある馬にフラグが立てられれば、獣医師により、もしくはCTスキャンやシンチグラフィーを使うことにより、いっそう詳しいスクリーニングができる。また同博士は、NYRAの研究から"赤信号"の異常馬を約12%含むと考えられる2,000頭の馬を対象として調査を実施することを提案した。240頭と推定される"赤信号"の馬のうちでは、獣医師による精密検査が必要と特定さる馬は20頭になるだろう。そのうちの10頭は診断の一環として高度な画像化処理を要することになると考えられる。

 ランバート博士はこう語った。「長期的には、追い切りのデータを手に入れ、すべての馬が青信号でレースに出走できるようにしたいです。そうすれば、全頭が安全にコースを周回することがほぼ保証されます。それはテレビ中継のあるビッグレースでは重要なことです」。

 またKEDRCでは、ケンタッキー大学馬体分析化学研究所の所長であるスコット・スタンリー博士の発表も行われた。同博士は導入遺伝子の投与の有無を突き止める遺伝子ドーピング検出方法の開発を目的とした研究を提案した。この検査では、筋肉増強・細胞増殖・組織修復・酸化容量・代謝に影響をもたらすために合成された遺伝子を特定できる。

 スタンリー博士は「この研究は、EPO(エリトロポエチン)の導入遺伝子を検出するために開発され実証された新技術を用いて新たな方法論へと発展させることを目的としています」と語り、東京郊外にある競走馬理化学研究所との共同作業を開始したと付け加えた。競走馬理化学研究所の遺伝子解析セクションは、遺伝子ドーピング検出に取り組む8人からなるチームを擁している。

 スタンリー博士はこう続けた。「競走馬理化学研究所は、IFHA(国際競馬統括機関連盟)や豪州・香港・フランスでの共同研究に関わっています。5年間一緒に仕事をしていますが、彼らは自分たちの方法論を共有する意思を持っています。彼らはデジタルPCRの方法論でのアンチドーピング分野において先駆者的存在となっています。彼らと協力してEPOだけでなく他のターゲットにも検査を広げたいと考えています」。

 そして、長期的な目標の1つは遺伝子ドーピングの結果を馬生物学パスポート(EBP)のデータバンクに含めることだと付け加えた。

 スタンリー博士は、デジタルPCRの装置を入手して方法論を開発するのに1年かかり、KHRCの血液サンプルを用いた検査を実証して試行を開始するのにさらに1年かかると見積もった。

 KEDRCは採決をとらず、評議員からさらな質問を受け付けることに合意して会議は終了した。提案についての最終的な検討と、資金提供を行うかどうかについての採決は後日開催される会合で行われる予定である。

By Eric Mitchell

[bloodhorse.com 2022年9月23日「Kentucky Council Considers Stride Analysis Project」]


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