スロットマシンよりも馬券を嗜む者のほうが頭が良いのか?(アメリカ)【開催・運営】
競馬場にスロットマシンが増設されていった時期に、相乗効果を胸算用していたカジノや競馬場の役員がいたことを覚えているだろうか。その頃、私は「どうだろう」と思っていたものだ。
そう思ったのは、"馬券購入者は頭がいいからスロットマシンには向かないだろう "と考えたからでもある。分かっている、おそらくスロットプレイヤーを見くびってはならないだろう。でも、馬券購入者は勝馬を探しだすことや謎解きに没頭したがるものなのだ。スロットプレイヤーが求めているのはまったく逆の経験、すなわち思考から脱出であり、お金を得る可能性のあるキャンディークラッシュ(訳注:頭を使わない中毒性の高いゲームアプリ)のようなものであるように思える。
さて、東フィンランド大学と英国のリバプール大学が最近発表した研究はこれらのトピックに関する私の考えを裏付ける最新のものだ。男性の賭事客を調査対象としたこの研究では、IQ(知能指数)の高い人は低い人に比べて競馬を選ぶ傾向が強く、馬券購入に費やすお金が多い傾向にあるということが分かった。
この研究論文は、『IQはスキルベースのゲーミングを行う予測となるか?競馬賭事の大規模な実証実験(Does IQ predict engagement with skill-based gaming? Large-scale evidence from horse race betting)』と題されている。"オンライン投票をするかどうか"、"馬券購入にいくら費やすか"、"どの種類の馬券を購入するか"についての消費者の意思決定が、IQ(知能指数)によりどう予測されるかを調査したものだ。
これらの調査結果を判断するために、研究は次に依拠している。(1)フィンランドの国公認の独占オンライン馬券発売業者の発売金、(2)1962年~1990年のフィンランド国防軍のIQテストの成績、(3)調査対象となった男性の社会経済状況・所得・教育に関する行政登録データ。
この研究論文の序文にはこう記されている。「知能指数と賭事の潜在的な関連性を調べることは実際上意味のあることだ。なぜなら、知能指数は現実のさまざまな選択の場で消費者が行う意思決定と相関関係にあるということを近年の研究が示しているからだ」。
研究データによれば、馬券購入者が複雑な馬券を好むことを示している。最も人気のある馬券種類には、この研究で"難しい"に分類されているピック4(4重勝馬券)・ピック5(5重勝馬券)・ピック6(6重勝馬券)が含まれる。このことは馬券購入者が手ごわい勝馬予想のパズルに挑戦したがっていることを示している。
この研究論文はこう結論づけている。「この論文はIQが馬券購入行為を予測することを実証している。IQ、とりわけそれに含まれる計算能力は、"馬券購入行為と馬券購入額"および"複雑な馬券種類への相対的嗜好"とのあいだで正の相関関係にあることが示されている。これらの結果は、スキルベースの賭事、少なくとも馬券は知的個人が楽しむ娯楽消費であることと一致する」。
「それゆえ、知的な人物や計算能力のある人物が、競馬のような"計算する"作業に没頭することで満足感を得られると考えるのは妥当である」。
これ以上の言葉は見つからないですね。
今や馬券購入者が自分たちがいかに賢いかを公言できるようになっただけでない。ここにはパリミュチュエル賭事を監督する人たちや規制する人たちへのメッセージもある。馬券購入者は馬券を買うことを、ランダムに数字を選ぶことだとは考えていない。昨年のBCジュベナイルターフ(芝G1)でモダンゲームズが馬券対象外として出走を許されたとき、カリフォルニア州の当局からこの考え方の一端が垣間見れた(馬券対象となっていれば1番人気になっていただろうモダンゲームズは先頭でゴールを駆け抜けた)。この決定により、勝馬の馬券に注ぎ込まれたであろう数百万ドルは負け馬に流れ、実際に負けた馬が勝馬となったわけだが、当局は"的中する者もいれば外れる者もいる"という事実を考えるだけで済ませたようだ。
当局は馬券購入をランダムな数字への賭けと同じように考えていた。彼らは"的中する者もいれば外れる者もいる"という精神構造で、そのとき生じたフラストレーションを理解しなかった。馬券購入者は採用されたルールと、それらのルールの解釈、そしてレースを担当した裁決委員がモダンゲームズに"発馬機内での立ち上がり"や"ゲートの突破"がなかったことに気づかなかった点にいら立っていた。つまり獣医師により伝えられた誤った思い込みでこの馬が賭事プールから除外されてしまったのだ。このような失敗にもかかわらず裁決委員は処分を下されなかった。
このような考え方は、コンピュータ・ロボット工学を取り入れる競馬場の役員や統括者にもあるようだ。そこには"的中する者もいれば外れる者もいるのだからすべて公平である"という精神構造があるのだ。そのような精神構造は、競馬をランダムに数字を選ぶものとは考えず、プレイするゲームに公平さを求めるIQの高い馬券購入者たちを考慮していない。それとは対照的に、ある馬券購入者グループは次の事柄を利用して日常的にあらゆる優位性を得ている。(1)最高のリベート、(2)すべての賭事プールの価値を完全に把握するためのアクセスとコンピュータアルゴリズムを通じた能力、(3)締め切り間際に賭事プールに入る能力、(4)ほぼ瞬時に数百通りの馬券を購入する能力。
「IQの高い馬券購入者はコンピュータと争うことによって生じるこれらの不利を歓迎しておらず、時間が経つにつれこれらの不利に不満を募らせ、ついには競馬から離れる可能性がある」ということを、この精神構造は説明できないのだ。
また、馬券を提供する側にも自覚してほしい。
たとえば競馬をほかのゲーミングと差別化するために、スロットマシンのボタンを押すことやスクラッチの宝くじを削ることの愚かさをからかうようなマーケティングキャンペーンを競馬産業がやったっていいのではないかと常々思っている。その上で、強力な手がかりを見つけ最終的に収支をプラスにするために過去の競走成績を分析したりレースのリプレイを見たりするスリルを表現すればいい。聡明な馬券購入者にとっては確実に後者の方が魅力的だろう。2つのマーケティング方法を併存させることでユーモラスな比較ができるようになるかもしれない。
もちろん、今や多くの競馬場がカジノ会社に所有されており、カジノ会社は稼ぎ頭であるスロットマシンを貶めるようなことはしたくないだろう。それに宝くじを運営している州を政治的に立腹させたくはないだろうから、そうしたキャンペーンをすぐに見られるとは思ってはいないのだが。
By Frank Angst
[bloodhorse.com 2022年10月25日「Dollars & Sense: The Smart Money Is Betting Races」]