トーセンスターダム、豪州からアイルランドにシャトル(国際)【生産】
アラブ首長国連邦(UAE)の傑出したオーナーブリーダーは、日本の偉大な種牡馬ディープインパクトの血を引く種牡馬を求めて世界中を探している。そして、豪州のG1・2勝馬トーセンスターダムがアイルランドにシャトルされることが決定した。
ハマド・アル・カドフール氏はドバイ在住の弁護士であり、長年オーナーブリーダーとして成功を収めてきた。同氏と競馬ビジネスパートナーであるアリ・ファルーク氏は、レモングローブスタッドのアイルランド人スタッドマスターであるトム・ウォレス氏と連携し、2023年の北半球での種付けシーズンに向けてウッドサイドパークスタッドにいる種牡馬をシャトルすることになった。
このパートナーシップはウォレス氏が経営するウェストミース州の牧場で新たに創設したゼニススタリオンステーションの看板のもと、トーセンスターダムを最初の種牡馬として種付料7,000ユーロ(約102万円)で供用する。
ファルーク氏はエミレーツパークとの関係を通じて豪州の競馬界や生産界と深い関わりを持つ。過去3年にわたりトーセンスターダムの種牡馬としての活躍ぶりを見守りつづけ、半年ほど前にシャトルの可能性についての問い合わせを始めたことを明らかにした。
ファルーク氏はANZブラッドストックニュースに対してこう語った。「彼をシャトルする主な理由は、ディープインパクトの血を引くトーセンスターダムの血統、そしておそらく豪州よりも欧州のレーススタイルに彼はずっと合うだろうと思ったからです」。
「豪州は短距離馬・スピードのある馬・早熟な2歳馬が主流です。豪州の人々はそのような馬を探しています。しかしアイルランドや英国では、ダービー・ギニー競走・キングジョージのようなミドルディスタンスのレースのほうがもっと盛んです」。
「そのために、この馬にターゲットを絞って話を進め、取引をまとめてアイルランドにシャトルするように手配したのです」。
ファルーク氏のビジネスパートナーであるカドフール氏は1990年代後半からUAEで馬を出走させ、生産も行ってきた。そしてドバイでは、ドバイキャナル、ピルグリムズトレジャー、マザグラン、そして最近購買したアイオンザプライズのような馬で勝利を収めてきた。アイオンザプライズはウルグアイからのG3勝馬で、来年のUAE2000ギニー(メイダン)の有力候補である。
ファルーク氏の父ファイサル・ファルーク氏は以前エミレーツパークの場長を務めており、この有名な競馬&生産事業体のオーナーであるナセル・ルータ閣下の側近だった。
アリ・ファルーク氏も1990年代前半にハンターバレーのエミレーツパークで働き(2001年から2002年もふたたび短期で勤務)、その期間に父とともに豪州・シンガポール・マレーシアなど世界各地で馬を出走させた。
また、1994年から2014年までパキスタンで自身の大規模な牧場、エミレーツファームを経営していた。2014年にはパキスタンの政情不安が重荷になっていた。
ファルーク氏はこう語った。
「実のところ、豪州のハンターバレーにあるエミレーツパークで長く過ごしました。父はエミレーツパークの初代場長であり、ナセル・ルータ閣下とは気心が知れているのです。だから、初めて競走馬と触れ合ったのもエミレーツパークでした。そこで1年半働き、さらにスコーンTAFE(Scone TAFE)で講義を受けたのですが、確か1992年か93年だったと思います。このようなことが実現できたのは、豪州競馬に精通していたのと豪州に多くの友人がいるからです」。
アリ・ファルーク氏(48歳)はゼニスレーシングの名義で、UAEとサウジアラビアで馬を出走させている。また米国では、2歳のときにリステッド競走を2勝したG2勝馬ロングレンジトディ(ダラス・スチュアート厩舎)を出走させている。
ロングレンジトディは来年のドバイワールドカップカーニバルで出走する予定である。
トーセンスターダムの豪州での初年度産駒は3歳になっており、これまでのところシュリケン(せん3歳 サイモン・ワイルド厩舎)が最も優秀である。ゴールドユーリカストッケードで優勝し、11月26日のサンダウンギニー(G2 コーフィールド)では人目を引くパフォーマンスで4着に入った。
トーセンスターダムは現役引退後にマーク・ローストーン氏が所有していたウッドサイドパークスタッド(ヴィクトリア州タイルデン)で種牡馬となった。2021年にこの牧場がエディ・ハーシュ氏により購買されてからも、供用されて続けている。
ウッドサイドパークスタッドへの関係者の紹介は同スタッドの種牡馬管理者アミール・カーン氏を通じて行われた。カーン氏は数十年前、エミレーツパークでアリ・ファルーク氏と一緒に仕事していた。
ウッドサイドパークのマーク・ドーデマイド氏はトーセンスターダムをアイルランドにシャトルすることにマイナス面はないと考えており、この種牡馬が両半球において結構な数の勝馬を送り出せると確信している。
ドーデマイド氏は、「2022年の種付予約の80%はトーセンスターダム産駒を所有している人々からであり、彼らは産駒にとても満足しているのでふたたび交配相手に彼を選ぶのです」と述べた。
トーセンスターダムを迎える国際的なパートナーシップは、この種牡馬の北半球での最初のシーズンに少なくとも12頭の繁殖牝馬を送り込む予定である。ファルーク氏とカドフール氏はレースに出走させる牝駒を確保するものの、超トップレベルの種牡馬と交配させてUAEダービー(G2)やUAEのギニー競走の優勝馬を生産することも夢見ている。
レモングローブスタッドのウォレス氏(48歳)は、トーセンスターダムはタイプとしても血統としても欧州の牝馬に合うだろうと述べた。そして、数人のアイルランドの生産者にこの種牡馬について話したところ、正式に供用を開始する前に何頭かの牝馬を来年送ることを約束してくれたという。
クールモア(アイルランド)にいるG1・2勝のディープインパクト産駒、サクソンウォリアーの2023年種付料は3万5,000ユーロ(約508万円)である。
シガーのようないわくつきの種牡馬がケンタッキーの牧場にいた頃、米国のウォータークレスファームで種牡馬の厩舎を運営していたウォレス氏はこう語った。「サクソンウォリアーと比べると7,000ユーロ(約102万円)という種付料は大変お値打ちであるように思えます。英国にはディープインパクト産駒のスタディオブマンがいて1万5,000ユーロ(約218万円)ほどで供用されていますが、トーセンスターダムはこの馬よりもレーティングが3ポンド高いのです」。
「アイルランド・英国・欧州の生産者にとって、レーティングが3ポンド高い種牡馬を7,000ユーロで交配させられるとなると、頭を使う必要はありません。特に外見が素晴らしい産駒を出してくれるとなればなおさらです」。
「豪州やニュージーランドの知り合いは皆、ビジネスとして軌道に乗せるには少し時間がかかるかもしれないが、本当に見栄えのする馬だと言ってくれました。それが大きな魅力になると思います。それに抜群の末脚を持つ馬なのです」。
ラスバリースタッドで働いた経験もあるウォレス氏は、ファルーク氏とカドフール氏との関係を築くことでレモングローブスタッドのサービスを拡大することができるようになると述べた。レモングローブスタッドは、コディアックやメーマスのような種牡馬がいるタリーホースタッドからわずか8kmのところにある。
「米国やアイルランドの種馬場で働いていると、いずれは自分で種牡馬を供用してみたいと思うものです。でも、ひとりで種馬場を設立してチャレンジしようとするのは大変なことで、どうなるか分かりません。だから、ほかの人とアイデアを出し合うのは良いことなのです。ひとりでやるよりも3人でやるほうが良いでしょう」とウォレス氏は語った。
日本でデビューしたトーセンスターダムの通算成績は29戦7勝(うち2勝がG1勝利)である。ダレン・ウィアー調教師のもとで2017年にトゥーラックH(G1)とマッキノンS(G1)を制している。
トーセンスターダムは日本でもG3・2勝を果たしている。また池江泰寿調教師の管理下にあった2015年に、ランヴェットS(G1 ローズヒル)で2着に入っている。その後、オーストラリアン・ブラッドストック社率いるシンジケートにより購買され、2016年前半にウィアー厩舎に移籍した。
なお、トーセンスターダムはクリスマス前にIRT(国際馬匹輸送商社)のフライトでアイルランドに輸出される予定である。
By Tim Rowe of ANZ Bloodstock News
(1ユーロ=約145円)
[Racing Post 2022年12月5日「Dual Group 1-winning son of Deep Impact set for shuttle duty in Ireland in 2023」]