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2022年02月22日  - No.2 - 3

ポーランド競馬の将来は明るいか?(ポーランド)【その他】


 競走数があまり多くない、馬がさほど優秀ではない、スタッフを集めるのが難しい、多くの主要競馬国に比べて賞金が乏しい。崩壊しかかっている競馬開催国の話のように聞こえるが、ポーランドではそうではない。いろいろ有利な点もあり、この国は競馬の明るい将来に期待を寄せているのだ。

 クシシュトフ・ジミアンスキー(Krzysztof Ziemianski)氏を見ればそれは分かる。ワルシャワ近郊のとても魅力的なスウジェビエツ競馬場の周辺はポーランド競馬のメッカであるが、そこで同氏は調教事業で成功を収めている。

 賞金は高くないかもしれないが、主要競馬国よりもはるかに安価の預託料でそれは相殺されている。競走成績にとても満足している熱心なポーランド人馬主の多くからジミアンスキー氏はサポートされている。そして管理馬の質も上がり始めているようだ。

 同氏はここ数年においてポーランドで最も成功した調教師の1人であり、リーディングトレーナーに2度輝いている。その背景には、管理馬を出走させるため、そして馬を購買するために大胆にもフランスに遠征していることがある。

 その一例が、昨年カルーゼル賞(L 8月3日 ドーヴィル)で惜しくも3着になったナイトトルネード(牡5歳 父ナイトオブサンダー)だ。 同馬は、9月26日にポーランド最高峰のオールエイジレースである、歴史あるグレートワルシャワ(Wielka Warszawska 国内G1 スウジェビエツ)で、先行逃げ切りで同厩舎のプティ(Petit)を抑えて優勝し、ジミアンスキー厩舎のワンツーフィニッシュをもたらした。

 これでナイトトルネードの通算成績は14戦7勝となり、獲得賞金は10万2,000ユーロ(約1,326万円)相当になった。調教師はこの馬を2018年11月のアルカナ・オータムセールにおいてわずか7,500ユーロ(約98万円)で購買している。

 ジミアンスキー氏はフランスで比較的安価な競走馬を購買してポーランドで走らせ、長年にわたり多くの勝利を挙げている。同氏はアルカナ10月セール(ドーヴィル)でこう語った。「フランス産の1歳牡馬を購買します。それゆえフランス産馬のボーナス対象となります。このセリで興味がもてる馬のリストを作成してきました。10頭ほど購買できれば良いかなと思います」。

 「多くのタイプの馬を写真のように正確に記憶しています。だから、馬を見れば自分が買いたい素質があるかどうか、価格が適正なものかどうか、すぐに分かります。1歳馬を1頭購買するのに2万ユーロ(約260万円)も支払うことはありませんね」。

 ジミアンスキー氏は最終的に、8頭の種牡馬が送り出した10頭の1歳馬をそれぞれ6,000~1万5,000ユーロ(約78万~195万円)で購買し、その平均価格は1万ユーロ(約130万円)強に過ぎなかった。そしてその後、アルカナの11月セールでクロスオブスターズの1歳牡駒を8,000ユーロ(約104万円)で購買した。

 彼が1991年にポーランドで調教活動を始めて以来、この手法はうまくいっている。

 「調教師ランキングでは5位以下になったことがありません。リーディングタイトルを2度獲得しました。昨年は2位でしたが、大きなレースはほとんど勝っています。ナイトトルネード以外では、ポーランド産のインテンスと2016年アルカナ11月セールで購買したファビュラスラスベガス(父エアチーフマーシャル)でそれぞれ2011年と2018年にポーランド三冠を達成しています」。

 ジミアンスキー氏は、同じくスウジェビエツ競馬場に隣接する厩舎で競馬に携わってきた家族の3代目でありこう語った。「祖父はとても優秀な障害騎手で、のちに調教師となりました。それから16歳で騎手になるように父を教育したのです。父はジョッキーとして成功し、1976年まで30年間騎乗したのち、優秀な調教師になりました」。

 そして「14歳のころ、登校前はいつも父の厩舎で馬に乗っていました。父の跡を継ぐという夢があったのです」と付け足した。

調教の第一歩

 ジミアンスキー氏はこう続ける。「しかし、当時のポーランドでは調教師になるのはそれほど簡単ではありませんでした。調教師免許を取得するためには、農業大学で5年間勉強して資格を取らなければなりません。そこで友人たちのように商業を学ぶことにし、地元の電子工学の学校に入学したのです。でも、ほどなくして電子工学は自分には向いていないと実感し、最終的に父や祖父のように調教師になりたいと思うようになり、農業大学に行くことにしました。大学卒業後、5年間はさまざまな厩舎で、そのあと2年間は父の厩舎で調教助手として働きました」。

 ジミアンスキー氏は34歳で自らの調教活動を開始し、1991年に父の厩舎を引き継いだ。

 「その頃、競馬産業は政府の管理下にあり、8つの厩舎はそれぞれ2人の調教師を雇い、1つの厩舎に30頭~40頭の競走馬がいました」。

 「この制度が変わったのは1995年です。厳しいルールがなくなり、競馬市場が開放されたのです」。

 2021年シーズンには競走馬784頭がポーランドジョッキークラブ(Polish Jockey Club)に登録された。

 ポーランドジョッキークラブのヤクブ・カスプルザック(Jakub Kasprzak)氏はこう語った。「現在、スウジェビエツを拠点とするサラブレッド競走馬は約450頭、調教師は22人であり、第2の競馬場である南西部のヴロツワフ-パルティニツェには競走馬200頭がいます。そのほか国内のあちこちに少数がいます」。

 「アラブ種191頭とトロッター44頭も登録されています。競馬は3競馬場で開催されます。主要競馬場であるスウジェビエツでは4月~11月の週末に合計51開催日が実施されます。障害競走に特化したヴロツワフ・パルティニツェ競馬場では12開催日、バルト海に近いソポト競馬場では平地・障害・トロットのための4つの夏開催が施行されます」。

質の高い新種牡馬

 ジミアンスキー氏は競馬産業があまり利益をあげてないと考えている。「生産界は経験と競争力に欠けており、現在ポーランドで競走している馬の約50%は外国で購買されています」。

 しかしポーランドでは、国立牧場であるイヴノ(Iwno)とクラスネ(Krasne)を含む99の生産者が登録されている。2020年には計47頭の種牡馬が供用された。ペガススタッド(Pegaz Stud)ではエコス(Ecosse 父パントルセレブル)とカッシーニ(Caccini 父アメリカンポスト)が種付料4,000ユーロ(約52万円)で供用され、クラスネスタッドではヴァバンク(Va Bank 父アーキペンコ)が種付料5,000ユーロ(約65万円)で供用された。しかし種牡馬の層は厚くなく、これらに次ぐレベルの種牡馬はわずか1,500ユーロ(約19万5,000円)で供用されている。

 ヴァバンク(9歳)はポーランドの種牡馬群に興味深い質を加えた存在である。同馬は1歳だった2013年に、タタソールズ・アイルランドにおいて4,500ユーロ(約58万5,000円)で購買された。ヤヌシュ・ジエンキエヴィチ(Janusz Zienkiewicz)氏により所有され、ポーランドでマチェイ・ジャニコウスキ(Maciej Janikowski)調教師に管理され、デビュー戦からバーデンバーデンでG3優勝を果たすまで12連勝した。その後バリー・アーウィン氏のチームヴェイラー社がヴァバンクの所有権50%を取得し、その後2年間、同馬は重賞競走で健闘し続け、2018年11月にローマ賞(G2 カパネッレ)を制覇したのち引退して種牡馬となった。

 ジミアンスキー氏は12月中旬、42勝を挙げ、賞金76万2,025ズウォティ(約2,134万円)を獲得し、ポーランドの調教師ランキングで3位となった。調教師91人からなるこのランキングの頂点に立ったのは、56勝を挙げ、賞金19万2,000ポンド(約2,976万円)を獲得したアダム・ウィルスク(Adam Wyrzk)調教師だった。

 ジミアンスキー氏はこう語った。「50頭を管理しており、4月~11月までの毎週末、スウジェビエツで10頭~15頭を走らせています。馬を預託してくれているオーナーは全員ポーランド人で、その大半の人々とは何年も協力してきました。今シーズンはポーランドで最大級のレースの50%を制しました。長年の調教師生活で、ポーランド2000ギニーを3勝、セントレジャーを5勝、ダービーを3勝しています」。

 「ここ数年、ポーランドにおいて馬の質は全体的に高まってきています。フランスのような主要競馬国だと、フランス産馬により高額の賞金や追加ボーナスを提供しますので、私のもとにいる比較的優秀なフランス産馬にリステッド競走でのチャンスがもたらされるのです。ドイツではめったに出走させませんね」。

 ポーランドはアラブ種で成功を収めている。実際、4歳牡馬ファッツァアルカレディア(Fazza Al Khalediah)は、最も権威あるアラブ種競走の1つであり、総賞金100万ユーロ(約1億3,000万円)の2018年カタールアラビアンワールドカップ(G1 パリロンシャン)を制した。

 現在は種牡馬となっているファッツァアルカレディアはポルスカAKFにより所有され、ヴロツワフのミハウ・ボルコフスキ(Michał Borkowski)調教師により管理されていた。

 ポーランドではレースは主に次の3つのクラスに分かれている。

一 般 競 走:賞金€2,500~4,100

(約32.5万~53.3万円)

カテゴリー B:賞金€7,675~8,827

(約99.8万~114.8万円)

カテゴリー A:賞金 €1万1,513~4万8,357

(約149.7万~628.6万円)

※最高賞金€4万8,357はグレートワルシャワで提供される。

統一パリミューチュエル賭事

 スウジェビエツ競馬場の広報担当であるハンナ・ザレフスカ(Hanna Zalewska)氏は、「スウジェビエツ競馬場の土日に行われる週末開催の平均入場者数は2,000人ほどです。グレートワルシャワの施行日にはそれが1万5,000人にまで増加します」と語っている。

 ポーランドには3つの競馬場しかなく、馬券発売は場内も場外もパリミューチュエル賭事だけが運営されている。ヤクブ・カスプルザック氏はこう語った。「トータリゼーター・スポートヴィ社(Totalisator Sportowy)はポーランドジョッキークラブからスウジェビエツ競馬場を賃借しており、ヴロツワフ-パルティニツェとソポトの2つの競馬場は地元の自治体により運営されています」。

 「トータリゼーター・スポートヴィ社は国営宝くじも運営しており、子会社のトラフ(Traf www.trafonline.pl)は、3競馬場と50の場外馬券発売所で賭事施設を運営しています。2020年以降、トラフはインターネットを通じて馬券を購入できる設備も整えました」。

 「トラフはポーランド国内のレースとフランスのいくつかのビッグレースの馬券をインターネットで発売する免許を取得しています。彼らはPMU(フランス場外馬券発売公社)と契約を交わしているようです。ポーランドでは国際的なプラットフォームでこれら以外の外国の競走の馬券を買うことができません。今シーズン、すべての馬券発売のうち約20~30%がインターネットを通じたものでした」。

 スウジェビエツ競馬場は世界で最も美しい競馬場の1つである。立派なスタンドが3つあり、とりわけメインスタンドはその独特の建築様式で有名で、多くの観光客を魅了している。

第2次世界大戦による大打撃

 1939年6月3日、ジグムント・プラター・ジベルク(Zygmunt Plater-Zyberk)氏によって設計された競馬場がオープンした。第2次世界大戦により1946年まで競馬は中断されたが、ドイツ占領下でもスウジェビエツ競馬場はほぼ無傷だった。

 この戦争はポーランド競馬界に大打撃を与えた。ポズナン、ルブリン、リヴィウ、ザコパネにあった、冬でもレースを施行できた人気の競馬場は姿を消して久しかった。ポーランドは質の高い競走馬を生産することで国際的に高い評価を受けていたが、ドイツ軍が個人馬主から優秀な競走馬や産駒を収奪し、それらの馬が返されることはなかった。

 長年にわたって築き上げられてきたポーランドのサラブレッド生産界は、共産党の支配下で国有化された。そして、まだ完全には復興していない。

 スウジェビエツ競馬場に隣接している調教施設は一流である。カスプルザック氏はこう述べる。「緑豊かな芝コースが2つあります。平地競走のための2300mの周回コースと、その内側にある障害競走のための2050mのコースです。厩舎は2つの調教用コースに隣接しており、4つのサンドコース(常歩・速歩・通常調教・高速調教)を備え、その内側には障害競走の調教のためのエリアがあります」。

 ポーランドの賞金額はフランスに比べて低いが、預託料や一般的な生活費がかなり安価であることで相殺されている。それらはフランスの50%ほどである。

外国のセリが命綱

 ジミアンスキー氏はこう語った。「馬主が負担する預託料は月400~500ユーロ(約5万2,000~6万5,000円)になります。また厩舎スタッフの平均的な月収は1,000ユーロ(約13万円)程度です。私の厩舎には競走馬50頭がいて、厩舎スタッフ10人と攻馬手8人が担当しています。朝6時に働きはじめて昼までに終わります。その後、夕方に餌をやります」。

 「自分で何でもするからこそ、この仕事が大好きです。馬を購買し、馬主を探し、調教を指揮します。酷寒の冬は誰も働きたがらないので、スタッフを集めるのに苦労します」。

 「フランスと違い、ポーランドには騎手・厩務員・攻馬手のための特別な育成スクールがないのです。彼らは仕事をしながら調教師や経験豊富なスタッフから教わり、全体的にとても早く覚えます」。

 たしかに、フランス・英国・アイルランド・ドイツの1歳馬の低価格市場は、ポーランドの調教師たちに命綱を差し伸べる。質の高い競走馬と投資により競馬産業がさらにプロフェッショナルなものへと強化されていくには、それは不可欠なものである。

 もちろん主要な競馬場が3つしかなく、一年に67開催日しかないという制約もある。また世間の注目度が低く、ビッグレースしかテレビ中継されないことも足かせとなっている。

By John Gilmore

(1ユーロ=約130円、1 ズウォティ=約28円)

[Thoroughbred Racing Commentary 2022年1月23日「Battered by a grim past, is the outlook beginning to look a little rosier for racing in Poland?」]

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