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海外競馬情報
2022年05月23日  - No.5 - 3

予後不良事故をいかにしてファンに知らせるべきか(イギリス)【開催・運営】


 馬が予後不良事故に遭ったらどのようなことが起こるのか?深遠な質問をしているわけではない。しかしこの最も壊滅的な悲しみが訪れるときに、私たち全員がもう少しよく考えるべきことである。

 この業界で働いていると、あるいは情熱をもってこの業界に関わっていると、馬が怪我する瞬間に遭遇し、ただちに、もしくは獣医師による迅速かつ情け深い診断の末に手の施しようのない怪我だと判明することがある。

 デヴィッド・フラッド調教師は4月26日、ブライトン競馬場でこの災難に見舞われた。6ハロン(約1200m)のハンデ戦の終盤で、厩舎を代表する7歳のスプリンター、ケンダーガーテンコップ(Kendergarten Kop)が心臓発作で急死したのだ。

 このことが調教師に苦しみを与えたのは明白であり、すべての予後不良事故が苦痛を引き起こすのと同様だ。それはきわめて個人的な感情である。しかし、フラッド調教師の気持ちを強く揺さぶったのは、その瞬間に抱いた喪失感というよりも、その後に沸き起こった喪失感だった。それは波紋のように広がり、人々に強い衝撃を与えた。ただ、この悲劇に同じく動揺しているそうした人々に、彼はそれまで会ったり話したりしたことがあるわけではないのだ。

 フラッド調教師はこう語った。「あのような事故が生じて心が折れてしまい、今でも立ち直れていません。誰もあんなことが起こるなんて思ってもみませんでしたからね。ブライトン競馬場の獣医師とスタッフの皆さんは素晴らしく、特に馬場取締委員は私たちが大丈夫かどうか確認してくれるほど親切でした」。

 「しかし何よりも、いただいたメッセージの多さに驚かされました。それまで知らなかった人々が連絡を取ってきて、たくさんの人たちから大変親切な心遣いをして頂きました。それこそ私が公にしたかったことであり、言いたかったことです。皆さんに感謝したいです」。

 「あの後、検量室に行って勝負服の入ったバッグを取りに行き、できるだけ早くその場を去りたいと思っていました。しかし人々がこっちへやって来て私を呼び止め、馬に起こったことを見てとても悲しんでいると言ってくれました」。

 「ある男性が私を呼び止め、その日競馬場に来たのはあの馬を見るためであり深く動揺していると言いました。思いやりと親切な気持ちに圧倒されました」。

 競馬場での馬の死は言ってはならない話題ではない。ただそれが起こってしまったとき、私たちは馬に対して、そして開催に参加した人々や観戦していたファンたちに責任を持たなければならず、何が起こったのかをもっとしっかりと知らせなければならない。

 ありがちなのは、馬の最終的な運命がどうなったのか気をもんでいると、おそらくSNSの書き込みとか、情報筋からのメッセージのリレーが伝わりそれを知ることになるといった状況である。もっといい方法を見つけられると思うのだが。

 本紙(レーシングポスト紙)にメールを送信してくれた人はブライトン競馬場にいて、ケンダーガーデンコップがスタンド前で心臓発作を起こして倒れるのを目の当たりにした。そのいらだちを帯びたメッセージには共感するところがあった。

 その競馬ファンは、競馬場職員や馬の近くにいた人たちが最期の瞬間にできるかぎりのケアを尽くしていたことを"責めることはできない"としながらもこう付け足した。

 「実況アナウンサーも競馬解説者もこの事故について一切触れず、まるで何もなかったかのようでした」。

 「このような事故は実際に起こることであり、私たちのような競馬に投資する者はこの気品のある動物が尊い犠牲を払っていることに気づいています。そのことにまったく触れないというのは、馬と競馬ファンへの敬意を完全に欠いていることを示しています」。

 もちろんこのようなケースは注意深くかつ思いやりをもって扱うべきである。いずれにせよ、急いで何かを決定しようとすると悪い結果を招くことがある。今年のグランドナショナルは出走馬の福祉を促進することを物語の中心に据えていたため、おそらくこのことが最も顕著になったといえるだろう。レース後にまず出されたメッセージは、予後不良事故はなくすべての馬が厩舎に戻ったというものだったが、ディスコラマ(Discorama)とエクレアサーフ(Eclair Surf)の死によってその物語は傷つけられた。

 以前も書いたことがあるが、重要なケースにおいては、獣医師やBHA(英国競馬統括機構)の上級職員は発生したかもしれない重傷や致命傷についてテレビで交わされている議論に対応すべきであるし、もっとはっきり言えば、画面上に姿を見せて対応すべきである。

 そうすればいっそう思いやりのある印象を与えることができ、馬を救うために人々が徹底的に手を尽くしていることや、最近の馬医療の素晴らしさを示すことができるだろう。

 もちろん毎日のようにすべての競馬場で事故が起こるわけではないが、馬の運命についての最新情報を競馬ファンに提供するために意識的に努力すべきだろう。本紙にメールを送ってきた競馬ファンのように馬に何が起こったのかを知らないまま競馬場を後にするような状況ではいけない。これは誰も得をしないことだ。

 フラッド調教師にとってケンダーガーテンコップの死は埋められない大きな穴のように感じられるものを残したにちがいない。

 「私たちにとって良いことはありません。厩舎には2頭しか残っていないのですから。ただ勝てそうな馬を出走させ続けたかったのですが、そう簡単にはいきませんし、彼のような馬を見つけるのはもっと難しいのです。こんな小さな厩舎にこのようなことが起こってしまったのは、まったく最悪の事態です」。

 「ケンダーガーテンコップはとても優しい馬で、坂を駆け下りるのが大好きでした。本当に寂しくなります」。

By Peter Scargill

[Racing Post 2022年5月9日「'It broke my heart' - but the death of a horse shouldn't also be so confusing」]

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