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2022年05月23日  - No.5 - 4

チロキシンのサプリメント使用と不整脈の関連性についての研究(アメリカ)【獣医・診療】


 6頭のスタンダードブレッド競走馬に対して行われた研究で、チロキシン(thyroxine)のサプリメントの使用と不整脈が関連づけられた。そして、このサプリメントは骨折の原因にもなり得ると結論づけられた。

 この研究結果は『Equine Veterinary Journal』(2022年5月号)に掲載されている。パデュー大学獣医臨床科学科のジャニス・クリチェフスキー(Janice Kritchevsky)氏、カルラ・オラーヴ(Carla Olave)氏、ステイシー・ティンクラー(Stacy Tinkler)氏、メリッサ・トロプフ(Melissa Tropf)氏、カスリーン・イヴェスター(Kathleen Ivester)氏、ローラン・クエティル(Laurent Couetil)氏とカリフォルニア大学デーヴィス校獣医学部のローレン・フォーシス(Lauren Forsythe)氏が、オンタリオ州のイクワインゲルフセンター(Equine Guelph Centre)から資金提供を受けてこの研究を実施した。研究結果は2020年9月に最初に発表され、研究論文は2021年に初めて発行された。

 2011年末から2013年初めにかけて、当時ハリウッドパーク競馬場にあったボブ・バファート厩舎に所属した競走馬の突然死が多発した。そのときレボチロキシン(チロL)の使用に脚光が当てられることになった。なぜなら、バファート調教師が日常的に使用していた処方薬やサプリメントの中にこれが含まれていたからだ。

 カリフォルニア州競馬委員会(CHRB)の当時の馬医療担当理事リック・アーサー博士が記した2013年の報告書は、人間の甲状腺機能亢進と、不整脈・心不全に"説得力のある関連性"を示す研究があることから、レボチロキシンの使用は懸念すべきものと結論付けている。しかしアーサー博士は、多くの獣医師との議論で甲状腺ホルモン濃度を評価せずチロキシンを処方することは、"南カリフォルニアのサラブレッド競馬場におけるチロキシンを処方・調剤する標準的な治療法と一致する"とも指摘した。そして、バファート調教師が"馬体づくり"に役立つと考え、このサプリメントを他の競馬場に在厩する管理馬に5年以上にわたって使用してきたと語ったことも明らかにした。そのため、アーサー博士はこれをハリウッドパーク競馬場で相次いだ馬の突然死の決定的な要因として断定できないと述べた。

 多発した突然死の調査中、バファート調教師はチロ-Lの使用を全面的にやめたと述べた。

 アーサー博士は報告書の中で、活動レベルの低い馬へのレボチロキシン使用は安全なものであることが示されたが、別の研究では"運動能力に問題を抱えていたり妊娠期にある馬などにとって安全な治療法"であるかどうか判断するにはさらなる研究が必要と結論付けていると述べている。

 パデュー大学とカリフォルニア大学デーヴィス校によるこの研究は、競走馬へのレボチロキシンの効果を明らかにするための一歩となった。

 この研究では、レボチロキシンを投与された研究対象馬6頭のうち3頭が不整脈を発症したことが示された。それらの馬には最高用量が投与されていた。そのうち2頭についてはトレッドミルによる標準的な運動負荷試験の前に不整脈の症状は見られず、運動のあいだに症状が見られるようになり、運動後40分経過するとそれは解消した。3頭目については不整脈が運動中に始まり、その後数時間にわたって持続した。そしてこの不整脈は24時間以内に自然に治まった。

 この運動負荷試験は馬にレボチロキシンのサプリメントが与えられた最終日に行われたので、馬にサプリメントを与えて運動させ続けた場合の不整脈への影響をこの研究は示していない。

 スタンダードブレッド競走馬(4歳~9歳)の牝馬とせん馬3頭ずつをこの研究で用いた。これらの馬はすべて6週間にわたって週5日の調教を受け、健康レベルを一定に保つために血中乳酸値をモニタリングされていた。各馬には3段階のレボチロキシンが投与された(ゼロ・0.1㎎/㎏・0.25㎎/㎏)。毎回どの馬にどの用量が投与されるかは無作為に決定された。薬剤師がコード化された袋を用意し投与物を包装した。粉末状のレボチロキシンにはブドウ糖パウダーが混ぜられており、研究が実施されている間は、どの馬にどの濃度のサプリメントが投与されているか判らないようにした。

 投与された用量は、正常な血清濃度に到達させるのに要する量の2倍もしくは5倍だった。これらの用量が選ばれたのは、オンタリオ州競馬委員会(ORC)の獣医師が検診して「心房細動、もしくはその疑いありとされた馬から競走後採取された検体」と同程度の濃度を生じさせるからである。レボチロキシンの使用に関する懸念の1つは、大半の競馬や馬スポーツの管轄区が規制していないため、どの程度のサプリメントが投与されているか判断する方法がないことだ。

 この研究の結論では、甲状腺機能亢進は心筋に見られる影響のほかに人間の骨密度低下や骨折リスク増加に関係していると指摘されている。

 またこの研究はこう指摘している。「競馬において筋骨格系の故障は大きな問題です。それゆえ甲状腺ホルモンの血中濃度が上昇している馬を出走させないようにすれば、予後不良の潜在的な要因となり得る甲状腺機能亢進を防ぐことができるかもしれません。たしかに、獣医師の診断によるレボチロキシン投与が筋骨格系の健全性に及ぼす影響についてもっと多くの研究が必要です」。

By Eric Mitchell

[bloodhorse.com 2022年4月18日「Study Connects Thyro-L Supplement to Cardiac Arrhythmia」]

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