鞭使用ルール変更で今後はバックハンド(順手)のみ(イギリス)【開催・運営】
英国の騎手は数ヵ月のうちに鞭の使い方を抜本的に変えなければならない。鞭使用ルールの検討グループがフォアハンド(逆手)での鞭使用の禁止を求めることを決定したという思いがけないニュースが舞い込んできたのだ。
これは昨年発足した鞭使用諮問委員会(Whip Consultation Steering Group)による20の提言の1つであり、すでにBHA(英国競馬統括機構)の理事会によって承認され、7月12日に発表された。
7月初旬に流れたリーク情報のとおり、度を超えた鞭使用ルール違反が犯された場合の最終的な制裁として騎乗馬の失格が導入される予定である。しかし関係者は、そのような権限の行使がまったく不要となることが望ましいと考えている。リークにより取り沙汰されていたように、この失格処分はビッグレースだけでなく全レースで適用される。
斬新な提言は鞭検討委員会の設置である。この委員会は裁決委員から強制措置の責任の大半を引き受けることになる。違反行為に対する罰則は強化され、特にビッグレースでは通常のレースの2倍のレベルにまで厳格化される。累計による制裁は、現行の5回ではなく、6ヵ月間に3回違反が繰り返された場合に科される。
晩秋までに競馬施行規程にこの提言を取り入れることが目標とされている。しかし諮問委員会の議長を務めたBHAの理事であるデヴィッド・ジョーンズ氏は記者会見に臨んだとき、特定の日程に縛られることには慎重だった。詳細な実施計画はこれから策定されるが、騎手や裁決委員を指導する期間を設け、新ルールの本格適用までの猶予期間が設定される。ジョーンズ氏は"急いては事を仕損じる"とし、必要であればそのプロセスにより長い時間をかけることもあると考えている。
この変更は、競馬界の多くの人々が予想していたよりも重大なものである。しかし諮問委員会は、長い時間をかけてこの問題を鎮静化させていき、競馬界は馬に対するその責任を重く受け止めているのだと競馬を批判する人々の大半を納得させていきたいと考えている。ジョーンズ氏は、「私たちが本気で変化を起こそうとしていること、本件が深刻な問題であるということを示すのが非常に重要なのです。これはやりたかったことの核心であり、ただいじくり回しているだけではないということを示すものでした」と語った。
障害競走のトム・スカッダモア騎手は、平地競走のP・J・マクドナルド騎手とともに諮問委員会に参加した。そして、現在自身が鞭を70%フォアハンド(逆手)で使っていると考えている。これは新しいルールにより影響を受ける騎手がいるという証だ。しかし、騎手仲間やライバルは鞭の持ち方を変えるために必要な努力をすると彼は信じていた。
「どんなスポーツでも同じです。順応していかなければならないのです。騎手仲間はこれを競馬に利益をもたらすことだと考えるでしょう。そして競馬のためになることなら何にでも協力してくれるでしょう」。
「どんなスポーツでも同じなのです。サッカーのディフェンダーなら、ビデオ判定(VAR)が導入される前は、現在よりももっと多くのことをしてその場を切り抜けられたはずです」。
過剰な力で馬に鞭を入れるリスクはバックハンド(順手)の場合は比較的に少ないと考えられている。諮問委員会において、バックハンドはフォアハンド(逆手)よりも"きちんとしていてカッコいい"と表現されていた。スカッダモア騎手は、バックハンドで素晴らしい鞭の使い方をする騎手としてウィリー・カーソン騎手を挙げた。
「昔のビデオを見ても、カーソン騎手がフォアハンド(逆手)で鞭を使っているのを目にした記憶がありませんね。私たちが目指しているものの模範なのです。リーチは私ほど長くはなかったのですが、彼はいつも正しい鞭の使い方をしているように見えましたね」。
騎手がレース種類ごとに設定された鞭使用の上限回数より4回以上多く鞭を使った場合、馬は失格とされる。ただし、両手で手綱を握っているときに肩より下の位置で鞭を使った場合や、安全のために鞭を使う必要があった場合は、裁決委員の判断で酌量される。「なぜ失格を科す適切な始点が4回となったのですか?」と質問され、ジョーンズ氏はこう答えた。
「人生には線引きが必要ではないでしょうか?1つの考え方は、ゼロ・トレランス主義(0以外は違反)をとるのは困難だということです。なぜなら1回超過したとしても気づかないことだってあるからです」。
「確かに4回超過というのは鞭の使い方として言語道断ですね。"どんな犠牲を払っても勝つ "という騎乗スタイルだと思います。しかしビッグレースについては1~2回超過したときでも厳しい制裁が科されることを忘れてはなりません」。
世界馬福祉協会(World Horse Welfare: WHW)のCEOであり諮問委員会のメンバーでもあるロリー・オワーズ氏からは競馬界にとっていくぶん心強いと思われる発言があり、「諮問委員会はこの提言は機能すると強く確信していると思います」と述べた。しかし彼は後に、今回の鞭使用ルールの変更は、馬を奮起させるための鞭使用を終わらせたいと考えるWHWを満足させるために十分なものであったとは言えないと語った。
諮問委員会に賭事産業の代表者は含まれていなかった。しかしBHAの最高規制責任者ブラント・ダンシー氏は、「協議の過程でブックメーカーやファンから意見を聞き、これらの変更が賭事売上げに影響を与えるかどうかについて検討しました」と述べた。また、同様の変更を行った国々からは、どちらの側に影響を与えるか明らかな証拠はなかったという。
ダンシー氏は、アイルランドとフランスを拠点とする騎手には英国で騎乗する前に新ルールについて説明するように試みると付言した。
鞭使用諮問委員会による主な提言
(1) 馬を奮起させるために鞭を使用する場合はバックハンド(順手)にかぎられる。
(2) 鞭使用回数は平地競走で7回、障害競走で8回に制限され、バックハンド(順手)での使用にかぎられる。
(3) 鞭検討委員会を設置する。鞭検討委員会はすべての騎乗の評価と、必要な制裁や措置に対して責任を負う(騎手にさらなる訓練を指示することも含まれる)。
(4) 違反行為に対する罰則を強化。ビッグレースにおいて鞭使用回数が制限を超過した場合は、通常の2倍の長さの騎乗停止処分が科される。
(5) 全レースにおいて鞭使用回数が制限を4回以上超過した場合、馬を失格とする。
By Chris Cook
(関連記事)海外競馬ニュース 2022年No.26「名手ウィリー・カーソン氏、新しい鞭使用ルールについて語る(イギリス)」
[Racing Post 2022年7月12日「Backhand whip use only and disqualification to be introduced in new whip rules」]