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海外競馬情報
2022年08月23日  - No.8 - 4

競馬界は気候変動にどう適応するか計画が必要(イギリス)【開催・運営】


 読者の皆さんも英国の気温が最高記録に到達したことにお気づきだろう(訳注:7月19日、ロンドン・ヒースロー空港で観測史上最高気温の40.2度を記録)。

 もちろん「この騒ぎは何なんだ?」と言う人も、「1976年の長い猛暑は誰もがアイスクリームを食べて『太陽は帽子をかぶった(The Sun Has Got His Hat On)』を歌いながら楽しんだものだ」と言う人も大勢いることだろう。

 当時、水の供給がかなり減少する中で水不足が危ぶまれ、人々が配水管から水を汲まなければならなくなったことが思い出として残っている。それからテントウムシの大群が発生するというようなこともあった。

 それはさておき、46年経った今もあの夏のことが語り継がれているのは、その暑さと乾燥した天気が本当に特筆すべきものであったということである。

 とは言っても、英国はこの20年間に最も乾いた暑い年を9回も記録している。

 この統計は、コンサル会社のホワイトグリフィン社が"英国競馬の環境サステナビリティ"についてまとめた概略報告書に記されている。競馬界の実行委員会の委託により作成されたこの報告書は、6月末に発表されたものだ。

 競馬界が短期的に取り組まなければならない喫緊の課題は山のようにある。しかし気候変動とそれに競馬界がどう適応していくかについては、今すぐに計画を立て始めないといけない事柄である。

 この先いつか、英国の伝統的な競馬開催日程が気候変動に応じて変更される可能性は十分にあるだろう。競馬というスポーツが水を要することが、その変更が必要となる主な理由の1つである。

 この報告書によると、競馬界は英国のレジャー産業の中で3番目に水を消費する産業であるという。馬場への散水だけでなく、競走馬のケア、食料の生産、競馬場内のケータリングサービスや衛生設備などでも水が必要だ。

 一方、イングランドでは2050年代までに夏の降水量が約15%減少すると環境庁は予測している。

 本紙(レーシングポスト紙)は、昨年秋に競馬財団(Racing Foundation)により委託されたプロジェクトに関連して、気候変動の問題を取り上げた。経験豊富な馬場取締委員、エド・アーケル氏とアンドリュー・クーパー氏が、気候変動がもたらしつつある困難について語ってくれた。

 2人とも気象パターンが変化していると報告した。降水予測がますます難しくなっているという。当時、競馬場は長引く乾燥期と豪雨の続く時期を送っていた。最近の状況を考えれば信じがたいかもしれないが、2021年の6月と7月にグッドウッド競馬場では通常予想される量の2倍の雨が降った。

 しかし、2人は水の確保への懸念についても語った。クーパー氏はエプソムやサンダウンではこれまで水の自給自足を試みたが、徒労に終わったという。

 報告書が指摘するところによると、いくつかの競馬場では貯水施設や地下水汲み上げ井戸が設置できず、設置できたとしても水抽出ルールにより地下水汲み上げ井戸は環境庁の監視下に置かれ、需要が高いときには使用を制限される可能性があるという。

 7月中旬にアーケル氏が本紙に語ったように、夏の乾燥した気候に対応するために競馬場は耐乾性のある芝を使い始めなければならないかもしれない。だが、安全な馬場を提供できるようにするために、競馬場の開催日程全体を変更しなければならないのはいつからになるのだろうか。そして、重賞競走と平地シーズンの伝統的な流れにどのような影響をもたらすのだろうか?

 このことは真夏にオールウェザーコースへの切り替えがさらに多くなることを意味するのかもしれない。なぜならこのコースは、これからより頻繁になるだろう高温に対応することができるからだ。

 多くの調教師にとって散水のしすぎは悩みの種だが、速すぎる馬場で良いパフォーマンスができる馬は限られている。

 影響が及ぼされるのは平地競走だけではないだろう。夏の障害競走のプログラムが出走頭数や馬券の面白さの面において魅力が減少しつつあることを、本紙はこの数週間伝えていた。

 気候変動により障害シーズンは以前のように、6月初旬にストラトフォード競馬場で終了し7月末にバンガー競馬場で再開するような開催日程へと変更を余儀なくされるかもしれない。しかし夏の盛りでも障害競走を施行できる競馬場はまだあるだろう。

 BHA(英国競馬統括機構)の馬健康・福祉担当理事であるジェームズ・ギヴン氏が昨年本紙に語ったように、競走馬の熱性ストレスの問題は単純なものではなく、より多く発生する地域もあればそれほどでない地域もあって、沿岸部の競馬場ではあまり発生しないということが明らかになっている。

 しかし事態はますますこじれそうだ。この報告書によると、30度以上の気温で馬を輸送する場合はエアコンを使用するという要件を英国政府はすでに提案しているという。

 さらに深刻なのは、気温の上昇により西ナイルウイルスやアフリカ馬疫などの疾病が英国でも生息可能になることだろう。

 報告書では、ほかにも環境サステナビリティに関連するトピックのいくつかが取り上げられているが、競馬というスポーツに最も実際的な影響を及ぼすのは気温の上昇と降雨パターンの変化である。

 英国競馬界は評判の側面からもこの問題を把握しておく必要がある。なぜなら、現在大量の二酸化炭素を排出している産業が受けているような評価が大量の水を使用する産業に対して下される日がやがて来るかもしれないからだ。

 熱波により人々が真剣にこの問題を考えるようになることを願っている。

By Bill Barber

[Racing Post 2022年7月19日「Racing could be transformed by climate change - and heatwave must focus minds」]


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