生産頭数減少は発売金減少と連動しているという研究(アメリカ)【開催・運営】
北米の2021年の生産頭数は推定1万9,200頭である。前回生産頭数が2万頭を割ったのはいつのことだろうか?1965年である。
これ以上ないほど悲劇的な数字である。
経済学者のローレン・スティロー(Lauren Stiroh)氏は8月14日に米国ジョッキークラブの競馬の諸問題に関する円卓会議で報告した際に、ある研究の初期の成果を紹介した。それは生産頭数の減少はパリミュチュエル賭事の発売金の減少に大きく結びついているというものだ。ジョッキークラブのスチュアート・S・ジャニー(Stuart S. Janney III)会長は、生産と競馬の経済的な考察を必要とするものであると述べた。
「競馬産業の多くの経済動向の中心にあるのは、過去数十年にわたって減少続けている生産頭数です。ジョッキークラブの生産統計では、生産頭数はここ数年2万頭を下回っています。このことはまぎれもない現実となっています。というのも、実際、競走部長は帳簿をつけレースを埋め、常に少頭数を嫌う馬券購入者を満足させようとせっせと努力している状況なのです」。
「こうした動向を理解し、できれば逆転させるための第一歩として、ジョッキークラブは生産と競馬の経済学の研究の必要性に注目しました。現時点では確実な結論は引き出せていませんが、認識していることを共有したいと思います」。
1990年~2021年のサラブレッド生産頭数の減少を概説した研究の中で、スティロー氏は生産頭数のグラフを描いて過去30年間の業界内のほかの動向と比較したところ、パリミュチュエル賭事の発売金減少を描いたグラフ(インフレ率織込み)が最も類似していたと力説した。
「この発売金額のグラフは、生産頭数以外の変数で登録産駒のイメージとの非常に密接な関係性をはっきり見てとれるものになっています。どの個別データよりも密接に一致しているものです。実際の発売金額が生産頭数の変化と合致しているのが目で見てわかるので、これはおそらく最も強力な予測因子なのでしょう」。
スティロー氏は発売金減少について、過去20年間に競馬ファンの年齢の中央値が上昇したこと、1990年以降スポーツ賭事やオンライン賭事など合法賭事の選択肢が大きく広がり競争が激化したことなどが要因として挙げられると述べた。
また、この研究ではレースの需要減少が生産減少の一番もっともらしい理由であることを示していると述べる。これは馬の売買や出走の経済性に影響を及ぼす供給に関する変数とは対照的だという(スティロー氏はこれらの需要の減少の理由については、今後さらに研究が進むだろうと指摘した)。
興味深いことに、獲得賞金・セリの購買価格・種付料の平均値は生産頭数と同様の減少を示しておらず、それとは反対に、一般的に長期にわたって増加している、とスティロー氏は述べた。
ほかにも生産頭数へのある程度の影響を示した要因が3つある。それは競走数・全体的な経済力(GDPで評価)・平均種付料であり、生産頭数が減少すると減少し、生産頭数が安定もしくは増加すると増加した。
「今後、これら4つの要因が生産頭数の変動ととりわけ密接に関係しているように見える理由についてはもっと多くの事が解明されなければなりません。しかし、そのためにはさらなる調査が必要だと思います」とスティロー氏は述べた。
研究はこう結論付けている。「1990年から観察されている生産頭数の減少は、馬主にとっての競馬の経済性に関する多くの変数に類似の変化を反映しているわけではない。我々は、生産頭数の減少をもたらしたと思われる供給と需要の要因を調査した。供給については、獲得賞金・セリの購買価格・種付料の平均値が一般的に時間とともに上昇している。したがって、登録産駒数の減少がサラブレッドの収益性の低下と結びついているとは考えにくい」。
「長い期間にわたる生産頭数の変動のほとんどは、発売金総額・競走数・マクロ経済要因の変化で説明できる。それゆえ生産頭数の減少を説明するには、レースに対する需要の変化を促す要因が何であるかを検証する必要があると思われる」。
スティロー氏が生産頭数について概説する一方で、ジョッキークラブ円卓会議では経済的困難に直面している競馬産業の人々についての議論も行われた。ジョッキークラブ・セーフティネット財団(Jockey Club Safety Net Foundation)のシャノン・ケリー専務理事は、厩舎地区の労働者に関するプレゼンで、給与・福祉手当・労働条件の改善を訴えた。
「私たちは食料費に何万ドルも割り当てています。これはどういうことなのでしょうか?つまり競馬産業の労働者たちが人間の基本的な欲求を満たすことができないことを物語っているのです。貴重な競走馬に給餌する人々は自分を食べさせることができないのです。競馬産業は国が直面している労働力に関する動向と無縁でありません。競馬産業はアマゾンやウォルマートのように福利厚生を提供する企業と競合しているのです。彼らは時給15ドル(約2,100円)を支払い、病気欠勤日や休暇を提供し、勤務日を週5日としています。なぜ競馬産業で働こうと思う人などいるのでしょうか?ある時点で"馬が好き"というだけではもう十分でなくなります」。
「競馬産業には労働力が必要です。厩舎地区を人々が働きたいと思う場所で、安全で歓迎されると感じられる場所にしなければならないのです」。
By Frank Angst
(1ドル=約140円)