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2023年11月20日  - No.11 - 3

社台ファームが購買したクラシック勝馬の母ダネガにまつわる話(アイルランド)【生産】


 社台ファーム代表の吉田照哉氏はダネガを庭先取引で購買した。この牝馬は、今年の仏2000ギニー(G1)優勝馬で仏ダービー(G1 ジョッケクルブ賞)3着馬のマルハバヤサナフィの母馬である。
 売り手であるニュータウンロッジスタッド(キルデア州)のダンカン・マグレガー氏がダネガ(11歳 父ガリレオ)を手に入れてから1年も経っていない。昨年のゴフス社11月セールで、わずか1万6,000ユーロ(約264万円)で購買したのだ。
 マグレガー氏がダネガを所有していた時期は短いが、驚くほどいろんなことがあった。この馬はG1馬のアスペングローブ・インテンスフォーカス・スキッタースキャッターの近親に当たる。
 マルハバヤサナフィはセリカタログのダネガのページに未出走の2歳牡馬(父ムハラー)と記されていた。しかしマグレガー氏がゴフス社のセリでゴドルフィンのドラフトからこの繁殖牝馬を購買してからわずか8日後に、アンドレアス・シュッツ調教師に手掛けられたマルハバヤサナフィがシャンティイの未勝利戦を制し、6ヵ月あまり後には仏2000ギニー(ロンシャン)でアイザックシェルビーを破ってクラシック勝馬となった。
 その一方で大出世を果たしたダネガは4月、購買されたときに受胎していたハローユームザインの牡駒を出産した。そして直後にデリンスタウンスタッドで1年目のシーズンを迎えていたミンザールのもとに送り込まれた。この交配で生まれる仔馬は、吉田氏により所有されることとなる。
 マグレガー氏はこの奇跡的な牝馬の購買により、春には多くのメディアの注目を集めていた。現在はその牝馬を売却したが、物語はまだ終わっていない。11月にハローユームザインの牡駒をゴフス社のセリに上場するつもりだ。
 彼は目まぐるしい1年間を振り返ってこう語った。「母馬を購買してから1週間ほどで、マルハバヤサナフィはシャンティイでデビュー2戦目に挑み勝ち上がりました。私たちは『素晴らしいね、カタログのページがいい感じに更新される』とは思いましたが、何か重大なことの前触れだとは考えていませんでした」。
 「その後、彼は春にふたたび調教を開始してシャンティイのまずまずの条件戦に出走登録しました。そして勝ったのです。そのとき私たちは初めて『なんてことだ。この馬には何かあるのではないだろうか?アイルランドでこのようなレースを2勝したら、すぐにブラックタイプのことを考えるだろうな』と思いました」。
 「そしていよいよクラシックトライアルの時期になるわけです。彼はフォンテーヌブロー賞(G3)で手堅く2着を確保しました。これには少し期待感が高まりましたね。その後、仏2000ギニーに出走することになり、見事に優勝しました。ただただ驚きで、とても信じられませんでしたね」。
 これほどの短期間でダネガの価値は飛躍的に上昇し、ここ数年間生産事業を縮小していた80歳のマグレガー氏には、この牝馬を購買したいというオファーが必然的に出されたとき、抵抗する理由がなかった。
 スコットランド出身の元石油会社役員であるマグレガー氏はこう語った。「数本の電話がかかりはじめましたが、ニューマーケットの大物の馬購買エージェントからの電話がほとんどなかったのは意外に感じました」。
 「アイルランドのショーン・フォード氏という独立したエージェントが接触してきました。彼はダネガを見に来て、その後オファーを返してきたのです」。
 「数日間考えて、最終的にそのオファーを受けると言いました。部分的な処分を進めたと言って良いくらい馬資産を減らしていたので、この話が持ち上がったときに売却を決断するのはそれほど難しいことではありませんでした。後に購買者は社台ファームであることが明らかになりました」。
 「ダネガはジャクリーン・ノリス氏のところにいました。彼女はラリー・ストラットン氏とともにダネガを選びだすのを手伝ってくれたのです。ハローユームザインの牡駒が離乳するまで、ダネガをノリス氏のジョッキーホールスタッドに繫養していました。日本の関係者がダネガのフランスへの輸送を手配し、彼女は来年、凱旋門賞馬エースインパクトの元を訪れると聞いています」。
 ショーン・フォード氏と著名な獣医師である父ダーモット・フォード氏はフォード・ブラッドストック社を運営し、日本とのつながりを築いていた。これまでトルコジョッキークラブが日本のドバイワールドカップ優勝馬ヴィクトワールピサとG2勝馬クルーガーを購買するさいに仲介役をつとめている。
 フォード・ブラッドストック社はすでにマルハバヤサナフィのファミリー(牝系)で成功を収めていた。ダーモット・フォード氏は2歳だったレイルウェイS(G2)3着馬ダネレタ(Daneleta)を購買した。彼女は当時ジム・ボルジャー厩舎に属し、ロッシ伯爵夫人向けに購買された。ダネレタはダネガの母ダネリッシマ(Danelissima)の全姉である。この牝馬は後にデューハーストS(G1)優勝馬インテンスフォーカスやモイグレアスタッドS(G1)優勝馬スキッタースキャッターの母を送り出している。
 マグレガー氏は昔からダネガの血統と関わりがあり、ダネガの4代母グラディーユ(Gradille 父ホームガード)をティッセン男爵夫人から購買し所有していた。ティッセン男爵夫人はそれまでにグラディーユからリステッド勝馬ラメイユール(La Meilleure)を生産していた。この牝馬はショーロホフ(Sholokhov)の母でありソルジャーオブフォーチュンの2代母である。
 マグレガー氏はこう語った。「長いあいだこのファミリー(牝系)に関わってきましたが、グラディーユはいつも妻のお気に入りの1頭でした。彼女を選んだのは妻なのです。とても美しい牝馬だと思ったそうです。数年間このファミリーから遠ざかっていたので、昨年ゴフス社のカタログでダネガを見たとき、ふと目に留まりました。本当に心情に動かされたのです」。
 「1年ほど前に腰を骨折していたのですが、幸いにもセリの下見の日に友人に車で連れて行ってもらうことができました。この牝馬を見て、ラリーとジャクリーンにも調べてもらいました。そして"見事な馬だ"ということで一致しました」。
 「翌日ダネガは早くにリングに出てきたので、私はゴフス社のセリ会場に戻り、彼女を購買して1時間以内には自宅に帰っていました。ほかの繁殖牝馬には目もくれませんでした。特にあのファミリーをふたたび手に入れたかったので、狙いを定めての購買だったのです。それでも、このようなことが起こるとは夢にも思っていませんでしたね」。
 マグレガー氏はつかの間ではあるがダネガを所有して充実したときを過ごしたが、唯一悔やんでいるのはこの繁殖牝馬が春に牝駒ではなく牡駒を出産したことだ。昨年のハローユームザインとの交配の結果として牝駒が生まれていたとすれば、血統を残すために手放さなかっただろう。
 しかしこれで終わりというわけではない。ゴフス社11月セールで、このマルハバヤサナフィの半弟(上場番号667)がトム・ウィーラン氏のチャーチビューステーブル(Church View Stable)により上場されれば、マグレガー氏はまたもや素晴らしい利益を手にすることが期待できるだろう。
 「トムは長年の友人で、ほんの3マイルほど離れたところに住んでいます。この仔馬が高く売れるといいですね。立派で大きな牡駒ですからね。ハローユームザインの1歳となった初年度産駒はとても人気があります。もちろんまだ実績はないのですが。でもいずれわかることですね。ただ、牝駒であってほしかったです」。
 つまりマグレガー氏は1年足らずのあいだにクラシック勝馬の母馬を購買してから売却し、その仔馬を売却することになる。彼は日本からの小切手を握りしめてふたたび繁殖セールに出向き、今度はもう少しわかりやすいものに投資しようとするのだろうか?
 マグレガー氏はクスクスと笑いながら、「いえいえ、そんなことはありませんよ。1頭か2頭は買うかもしれませんがね。でも、私はスコットランド出身なのです。お金をドブに捨てたりすることはありませんね」。

By Martin Stevens
(1ユーロ=約165円)

[Racing Post 2023年10月26日「Japan swoops for mare who went from budget buy to dam of a Classic winner in six months」]


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