シンポジウム:競馬の将来が問われる中でその経済効果を周知(アメリカ)【開催・運営】
アリゾナ大学"競馬およびゲーミングに関するシンポジウム"(12月4日~6日)の最終日で、おそらくこの会期中で最も重要と思われるセッションが行われた。
それはパネルディスカッションの『データからドルへ: 競馬の将来が問われる中で競馬の経済効果を理解する(From Data to Dollars: Understanding Horse Racing's Economic Impact as Racing's Future is Questioned)』である。競馬業界がいかに効果的に競馬の重要性を周知し、州議会議員に伝えることができるか、そして競馬が存続することがどれほど必須であるかを発信しようとするものだ。
現在、立法環境は複雑で変化し続け、競馬はカジノや州の宝くじ、拡大するスポーツベッティングと激しく競合し、そして何よりもまず、競走馬の健康と福祉を守るために絶えず監視されている。競馬産業を守る方法を見つけるのに重大な局面に入っていると言えるのだ。
このパネルディスカッションの司会を務めたのは、HISA(競馬の公正確保と安全に関する統括機関)のオンブズマンであり、ホースメン協会(Thoroughbred Horsemen's Association)の会長兼CEOのアラン・フォアマン氏である。彼は冒頭の挨拶で、何を競馬界の最も重要な課題だと感じているかについて率直に述べた。
「生産頭数の問題でも、出走頭数の問題でもありません。素晴らしい賭事商品(レース)を提供しているかどうかでもありません。現在の最も大きな問題は、今年メリーランド競馬場・チャーチルダウンズ競馬場・サラトガ競馬場で生じた予後不良事故の余波がある中でも、州議会に競馬ビジネスをしっかりと支援し続けてもらうことです」。
アメリカン・ホース・カウンシル(American Horse Council: AHC)のジュリー・ブロードウェイ会長はセッションの冒頭で、州の議員や重要な意思決定者に知識を授ける必要性や、競馬にしばしばつきまとう神話や不正確な情報を払拭する必要性を強調し、競馬のサクセスストーリーをいかに親しみやすく人々の心に訴えかけるようなものにするかについて力説した。
AHCの馬についての最新の調査・研究は1月まで公開されず、データの一部はまだ確定していない。しかしブロードウェイ会長は、「米国において家族に馬愛好家がいる世帯はおよそ3,800万世帯にのぼり、そのうち5%未満の世帯が馬を所有したり競馬産業に参加したりしています」とくりかえし述べた。
そして「議会のあらゆるレベルの人々、時には規制機関の人々に、私たちの発言力がどれほど強く、どれほど力を発揮できるかを分かってもらう必要があります」と付け加えた。
NTRA(全米サラブレッド競馬協会)の会長兼CEOであるトム・ルーニー氏は、AHCの調査の重要性と、AHCがどのように効果的にデータを活用して、州当局者に対して"競馬産業がさまざまなレベルにおいていかに重要であるか"を伝えていくかについて強調した。
「それはますます困難になってきていますが、上院には競馬を強く擁護するために真摯に取り組んでくれる議員もいることを嬉しく思います。競馬界のメッセージを周知すべく彼らと協力するためにベストを尽くしています。長期的な関係を築いて、競馬界の味方を作っていくことが不可欠なのです」とルーニー氏は語った。
なぜ競馬産業が必要不可欠なのかを州議会議員に訴えるとき、「競馬産業の雇用だけでなく、引き継がれてきた文化や伝統も重要であることを明確に伝えるようにしています」とルーニー氏は付け加えた。
フロリダ州サラブレッド生産者・馬主協会(FTBOA)のCEO兼上級副社長であるロニー・パウエル氏は、同州における馬産業の成功と、一般の人々や議員に馬産業の影響力を伝えることの重要性についてこう語った。
「競馬産業がなくなればどのような結果が待っているのか、誰かに説明できるようにならなければなりません。経済指標がなければ、それはうまく行きません。良いニュースはたくさんあり、フロリダは盛り上がっています。それは簡単なことではありませんでした。まだまだ課題は山積みですが、懸命な努力と政治的リーダーシップのおかげで、我々は良いポジションにつけています」。
競馬産業の成功のためのプラットフォームがあるとすれば、ニューヨーク州サラブレッド生産者協会(New York Thoroughbred Breeders)の専務理事ナジャ・トンプソン氏をはじめとするニューヨーク州の関係者たちがベルモントパーク競馬場の進行中の改修工事を支援するために行ったこと以外にないだろう。
トンプソン氏は、このプロジェクトがニューヨーク市のロングアイランド地域に建設関連の経済効果10億ドル(約1,400億円)をもたらすと見積もった。
そして、「非常に大きな経済効果であると言えます。どの議員も新しいベルモントパーク競馬場がもたらす効果に気づき理解しようとするでしょう。そのようにして私たちはプロジェクトを実現させるのです」と語った。
新しいベルモントパークでの競馬開催以外の活動は、年間1億5,500万ドル(約217億円)の経済効果を生み出すと予想されている。トンプソン氏はまた、改修後のベルモントパークにブリーダーズカップ開催をふたたび招致することを約束しており、その2日間のイベントで約1億ドル(約140億円)の経済活動がもたらされると推定していると付け加えた。
フォアマン氏はパネルディスカッションの最後にこう述べた。「馬の福祉に貢献するために全力を尽くしていることを示すのは極めて重要ですが、社会経済的な影響も力説しなければなりません。なぜなら、それが最終的に議員たちに強い印象を残すからです」。
By Dean Keppler
(1ドル=約140円)