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2023年12月20日  - No.12 - 5

オーギュストロダン、現役続行で唯一無二のサラブレッドになるか(国際)【その他】


 オーギュストロダンが来年の4歳シーズンも現役を続行することが11月中旬に発表され、多くの人が口をあんぐりと開けるほど驚愕したことだろう。

 ありえないような展開である。なぜなら、どの年においてもバリードイル(クールモアの調教拠点)の最強の3歳牡馬は必ずと言っていいほど最も価値ある資産だからだ。4歳になっても現役を続行していた2022年英ダービー馬デザートクラウンの悲劇的運命を考えれば、この決定がどれだけ大きなものであるか分かるだろう(訳注:デザートクラウンは4歳で一戦したものの、8月に調教中に負傷して回復せず、10月に安楽死措置が取られた)。

 時おり、あらゆる要素が一点に集まって競馬ファンが渇望するものを手に入れることがある。しかし、現役を続けるかどうかを判断するさいに第一に考えなければならないのは、その馬の評価を高めることができるかどうかである。

 英ダービー(G1)・愛ダービー(G1)・愛チャンピオンS(G1)・BCターフ(G1)で勝利を収めたオーギュストロダンが、今シーズンの成績をさらに伸ばすことは考えにくい。凱旋門賞(G1)は経歴に箔をつける点では良さそうだが、その資本的価値を高めることはほとんどないだろう。

 オーギュストロダンはそのために、新たな頂点をきわめなければならないだろう。それは日本の難攻不落の要塞と化してしまったジャパンカップ(G1)を制覇するようなこと以外では、ダート路線に移行して芝で達成したのと同等の優れた成績を収めることである。

 エイダン・オブライエン調教師はBCターフに向けてサンタアニタの本馬場でオーギュストロダンを調教したとき、この馬のダートでの動きが軽快だったことをすでに強調していた。米国で供用されている種牡馬群に大きな空白があるならなおさら、関係者がその道を考えるのは妥当だろう。

 オーギュストロダンは稀有なサラブレッドである。日本の種牡馬としてセンセーションを巻き起こしたディープインパクトとG1・3勝牝馬ロードデンドロン(父ガリレオ)のあいだに生まれたのだ。ディープインパクトの影響力については多くを語る必要はない。日本で種牡馬として成功している産駒は枚挙にいとまがない。血統ライターたちが"血統を形成する種牡馬"と呼びたくなるような馬だ。しかし、より注目すべきは米国ではトップクラスのディープインパクト産駒がスタッドインしていないことだ。

 オーギュストロダンはディープインパクトのラストクロップなので、クールモアにとってはディープインパクトの血統を北米に植えつける最後のチャンスとなる。少なくとも経済的な観点から期待を抱かされるが、オーギュストロダンがダートで米国の最強馬を打ち負かすことができてやっと手掛かりをつかむことができるだろう。

 もしそれが達成できないと、彼の血統はあまり意味をもってこないだろう。しかし達成できたとしたら、本当に唯一無二のサラブレッドとなる。祖父のサンデーサイレンスが日本に売却されて種牡馬としてトレンドをがらりと変える前に1989年の米国年度代表馬だったことで、米国の生産者にとって彼の魅力はいっそう際立つものになるだろう。

 付随的なこととして、2024年にオーギュストロダンに現役を続行させることでもう1頭のディープインパクト産駒、サクソンウォリアーには大きな好運が訪れるかもしれない。このサイアーラインを使いたがっている生産者が彼らの繁殖牝馬をすべて送り込むことになるからだ。5年前に英2000ギニー(G1)を制したサクソンウォリアーの種牡馬としての出だしは好調だが、クールモアで同じ父をもつ馬が供用されたとすればその存在が脅かされることになっただろう。

 このような状況を考えると、来年オーギュストロダンが英国の競馬場で定期的に走ることを想像するのは高望みすぎるのかもしれない。シーズン前半に彼の姿を見ることは期待できるが、それ以降は別のところに照準を合わせるのかもしれないからだ。

 この馬の最終目標はBCクラシック(G1)であるが、それよりも前にバリードイルが彼をダート競走に出走させなかったとしたら驚きだろう。2024年のブリーダーズカップ開催(11月1日・2日)は南カリフォルニアのデルマーが舞台だが、その前にオーギュストロダンがデルマーで出走するのは完全に筋が通っている。それは8月終わりか9月初めのパシフィッククラシック(G1 デルマー)になるかもしれない。それがうまく行かない場合は、関係者たちはオーギュストロダンを芝路線に戻して秋のレースに臨ませることになるだろう。

 米国以外ではあまり知られていないことだが、それぞれダートコースの路面は同一のものではない。ニューヨークでG1を制覇した馬がカリフォルニアのダートで苦戦することもあり、その逆もしかりである。

 2017年に7連勝中の強豪馬アロゲートがデルマーに乗り込んだときほど、それが明白だったことはなかった。彼は7月にこてんぱんに敗れ、1ヵ月後のパシフィッククラシックでも敗戦を喫し、BCクラシックでは精彩を欠いた5着に終わった。デルマーのダートで好走することはついになかった。オーギュストロダンはデルマーではサンタアニタで見せたような軽快な動きができないかもしれない。同じダートというのは2つとないものなのだ。

 オーギュストロダンがダートで高い能力を示した場合、最終的にクールモアの米国の拠点であるアシュフォードスタッドで種牡馬入りすることになる。しかし、何頭かの産駒が欧州で競走生活を送るのを妨げることにはならないだろう。生産ビジネスはますます国際化しており、米国と欧州の生産者のいずれにとっても魅力のある種牡馬を供用することの利益は今や計り知れない。

 私たちはジャスティファイでこれを目の当たりにしている。2018年の米国三冠馬ジャスティファイはクールモアに購買され、今年は彼の産駒が大西洋の両側でセンセーションを引き起こしている。ジャスティファイは米国で4頭、欧州で2頭のG1馬を送り出しており、カルティエ賞でシティオブトロイが最優秀2歳牡馬、オペラシンガーが最優秀2歳牝馬に選出された。また豪州でもジャスティファイ産駒の活躍が著しい。

 そしてもちろん、2024年にオーギュストロダンがこの目標は挑戦することで、クールモアの中心人物であるジョン・マグニア氏がもう1頭の象徴的なサラブレッドを作りだす公算は高まる。いずれにせよ、このストーリーがどのように展開するかにたいへんな興味をそそられる。

By Julian Muscat

[Racing Post 2023年11月15日「Auguste Rodin could now become a truly unique thoroughbred - but it will be on dirt that his fate is decided」]


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