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2023年02月21日  - No.2 - 2

ウェザビーズ社統計から分かる生産状況の変化(イギリス・アイルランド)【生産】


 ウェザビーズ社が発行するファクトブック(Fact Book)は、英国とアイルランドのサラブレッド生産状況のスナップショットを提供する魅力的な歴史文書である。そこには現役の種牡馬や繁殖牝馬の頭数、生まれてきた仔馬の頭数、輸入馬・輸出馬の頭数などが記されている。

 ファクトブックはオンラインで無料公開されており、以下のURLからダウンロードできる。仔馬の毛色や繁殖牝馬の年齢別頭数など一見すると取るに足りない些細なものでも、一部の人にとってはやはり重要な情報を含んでいるのである。

https://issuu.com/weatherbys/docs/fact_book_-_2023-02-02_-_fb_final_plan_-_digital

 この2022年版と本棚にある中で一番古い2007年版ファクトブックの統計データを比較すると、生産界がどのように変化してきたかについて興味深い洞察を得られる。そして、いくつかの点では見違えるほどの変化が起こっている。

 これから重大な市場の変化のいくつかを挙げていく。なお2022年のものとして登録された数字はまだ不完全な部分があるので、2007年版に掲載されている2004年の数字と2021年の数字を比較している。古さを感じるのは覚悟の上である。

活気をなくしつつある種牡馬シーン

 英国とアイルランドで供用されている種牡馬の頭数は、現在繁殖牝馬所有者の選択肢が減少していることをはっきりと浮き彫りにしている。

 2021年に英国で登録された現役種牡馬は147頭で、2004年の394頭から63%も減少している。同時期に現役繁殖牝馬は1万1,463頭から8,191頭に減っており40%の減少となっている。

 一方、2021年にアイルランドで登録された現役種牡馬は229頭で、2004年の407頭から44%減少している。しかし同時期に現役繁殖牝馬は1万7,895頭から1万4,505頭へと19%の減少にとどまっている。
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 各種牡馬の種付頭数は生産界の文化的変化を示している。2000年代半ばにはより多くの種牡馬が家族経営の小規模な種馬場で供用されていたが、近年はずっと少数の大きな種馬場に種牡馬が集中している。

 今となっては信じられないが、2004年に英国で種付頭数が20頭以下だったのは現役種牡馬394頭に対し287頭(73%)だった。それが2021年には147頭に対し62頭(42%)となったのだ。アイルランドではそこまで急激な変化はない。2004年に種付頭数が20頭以下だったのは現役種牡馬407頭に対し195頭(48%)だったが、2021年は229頭に対し77頭(34%)となり、割合の低下は緩やかである。
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 2007年版のウェザビーズ社ファクトブックではこの分野に大きな変化が訪れつつあることが示されていた。「この時期に種付頭数が1~20頭の種牡馬が102頭減少した」と記されており、「それに相応して種付頭数100頭以上の種牡馬は10頭増加した」と書かれていたのだ。

 生産界に数十年以上いる人々、あるいは古いサラブレッド雑誌を見てたくさんの種馬場が種牡馬の供用を中止したり完全に閉鎖したりしていることを知る比較的若い人々にとって、まったく驚くことではないだろう。

 種牡馬市場に活気がなくなりつつあることはいくつかの結果をもたらしている。つまり独占とはいくらか違っているが、種牡馬管理者は種付料でさほど価格競争をしないでもいられると言える。またレースで下剋上を果たしたような馬がサラブレッドの血統をアップグレードしたり、さらには血統を形成するような種牡馬として台頭したりする可能性も低くなるだろう。

 そのうえ英国やアイルランドのサラブレッドの遺伝的多様性を高めることもほとんどない。それは後述の観察にもあてはまることになる。

北米のゴールドラッシュはもはや過去のもの

 1970年代から80年代にかけて大西洋横断輸送が盛んになり、北米の血統が欧州の生産者によって大量に発掘された。この様子を目撃した人々は、米国から英国・アイルランドへの牝馬の流れが停滞して2021年に輸入された牝馬がわずか211頭だったことを知ると、あっけにとられるかもしれない。

 英国・アイルランドで北米の血統が以前ほど求められていないのはたいして目新しいニュースではないが、その需要の落ち込みが実に激しいのである。かつては世界有数の裕福な馬主たちがノーザンダンサーやニジンスキー、そしてキングマンボやストームキャットのような種牡馬の産駒をめぐって火花を散らせていた。

 2021年の輸入牝馬は211頭で、わずか5年前の329頭から36%減少し、金融危機が馬取引に打撃を与える直前の2007年の672頭からは69%も減少している。
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 おそらく、往年のケンタッキーのセリでゴールドラッシュの目的は果たされたという暗黙の了解があったようだ。今やノーザンダンサーは欧州の血統に遍在し、最近では英国やアイルランドでの交配に北米の種牡馬が不可欠な要素であることはほとんどない(少し公平に言えば、それを示す機会もほとんど与えられていない)。ただしスキャットダディとウォーフロントは例外である。スキャットダディは最盛期の真っただ中で死亡し、ウォーフロントは3歳シーズンに現役を続行しない2歳の優秀な産駒が少し多すぎるために長らくマストアイテムであり続けている。

 英国やアイルランドの生産者は、かつてのように北米の血統を定期的に買わないことで好機を逃しているのかどうかを自分で判断できる。その反面、米国のセリ会社や種馬場の関係者はその代わりとなる国際市場が出現し繁栄しているので、このビジネスの喪失を嘆き悲しんでいないかもしれない。

いずれにせよ、大西洋がこれほど広く感じられたことはない。

輸出ビジネスの拡大

 ウェザビーズ社の最新のファクトブックは中東への輸出ビジネスがこの20年ほどでどのように発展してきたかも示している。

 英国産馬・アイルランド産馬の購買に関しては、カタールは増加率が最大の新規顧客である。2004年には1頭の牡駒しか購買しなかったのに対し、2021年には105頭(牡駒・牝駒・せん馬)がカタールへ輸出されている。

 この期間に英国とアイルランドからバーレーンへの輸出馬は9頭から63頭へと増加し(600%増)、サウジアラビアへの輸出馬は54頭から155頭(187%増)、クウェートへの輸出馬は37頭から54頭(45%増)に増加している。
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 逆に競馬の中心地であるドバイを擁するアラブ首長国連邦(UAE)は、英国とアイルランドにとって輸出先としての重要性が低下している。2021年のドバイへの輸出馬は253頭であり、2004年から41%減少している。

 また統計は英国とアイルランドのサラブレッドの輸出先として中央ヨーロッパがいかに重要になっているかも示している。とりわけアイルランド産の下級馬・中級馬に人気があるようだ。これはアイルランド・サラブレッド・マーケティング社(ITM)による魅力的で力強い売込みが大きく寄与している。

 チェコ共和国は2004年に23頭を輸入したのに対し2021年には83頭(うち71頭はアイルランドから)を受け入れた。ハンガリーは2021年に63頭(うち42頭アイルランドから)を受け入れたが、2004年にはわずか8頭しか輸入していなかった。

 ポーランドは2004年に英国・アイルランドからの輸出馬がゼロだったのに対し2021年には55頭(うち50頭がアイルランドから)となった。より小さい国のスロバキアでさえも、同じ期間に3頭から21頭に増えている。
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 フェデリコ・テシオ(伝説的馬産家)の国であり、エレクトロキューショニスト・ラクティ・ラモンティといった名馬を育み、競馬大国だったイタリアが悲しいことに衰退し始めたのは今世紀に入ってからである。

 英国・アイルランドからイタリアへの輸出馬は2020年から2021年のあいだだけでも670頭から499頭へと4分の1が減少している。2004年の1,115頭からすると見る影もない。

 2004年はいくつかの点でそれほど遠い昔とは思えない。フランキー・デットーリ騎手やエイダン・オブライエン調教師などは現在のようにトップクラスの成績を収めていた。

 しかしウェザビーズ社のファクトブックは、急速に変化する生産界については、過去が異国に見えるほど変わり果ててしまうことを改めて気づかせてくれるものである。

By Martin Stevens

[Racing Post 2023年2月6日「Three things we learned about the industry from the Weatherbys Fact Book」]


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