第7回競走馬のアフターケアに関する国際フォーラム、参加者が過去最多(国際)【開催・運営】
第7回競走馬のアフターケアに関する国際フォーラム(IFAR)は2月14日に豪州のメルボルンで開催され、過去最多の参加者を集めた。サラブレッドのアフターケア施設への訪問が実施され、アフターケアに関するさまざまな幅広いトピックを扱う会議が行われた。
IFARの会議委員長であるエリオット・フォーブス博士はこう語った。「午後の講演者の話を聞くと、競馬界がアフターケアに関してとても真剣に責任を果たそうとしていることに疑いの余地はないでしょう。今日は洗練されていてかつ多角的なアフターケア戦略についての話を聞くことができました」。
「競馬統括機関は積極的に活動しています。その内容は(1)規制、(2)最高級のサラブレッド競走のサポート、(3)馬コミュニティとの関与、(4)必要に応じたセーフティネットの提供、(5)道徳的で思いやりのある競馬界の文化の擁護など、多岐にわたっています。世界各地で施行されている競馬は、馬のために行われているのです。IFARは、アフターケアの今後を見据えて課題を設定したいと考えています。それは科学・規制を向上させ、責任をいっそう強く認識することです」。
IFARの会議は、レーシングヴィクトリア(RV)が主催する第39回アジア競馬会議(Asian Racing Conference: ARC 2月14日~19日)と同時に開催された。
IFARの議長を務めるダイ・アーバスノット氏はこう語った。「2023年のARCに参加できることを嬉しく思います。これまでの成果に加えて、アフターケア分野ではやるべきことがまだ多くあります。馬がどこでレースキャリアを終えようとも、競走引退後も暮らしていくはずです。次回の会合では、より多くの国がアフターケアプランに従っていることをIFARが紹介できることを望んでいます。また、成功例のビデオをもっと共有できるようになればいいですね」。
この日は最初に、ヤラバレー(メルボルンから約50km)にあるスプリングクリークエクワイン(Spring Creek Equine)を訪れた。創設者のサマンサ・セスニック氏とクリス・ハイト氏はRV認定の再調教トレーナーであり、RVのRESETプログラムにも携わっている。(訳注:RESETプログラムは気質や年齢・故障歴などの理由でセカンドキャリアへの移行がうまく進まない馬たちをRVが直接サポートしてリハビリやリトレーニングを行うプログラム)。
セスニック氏はこう語った。「本日、世界中から多くの素晴らしい代表者の方々が集まり、本当に興奮しています。競走馬の里親探し・再調教・競走引退後の生活について、私たちは熱心に取り組んでいます。このことに興味をもつ世界中の多くの方々にお会いできるのは格別なことです。これまでの取組みを紹介できる機会はなかなかありません。馬の生涯は長く、彼らにとって競走生活はほんの短期間です。将来のためにほんの少し時間とお金を注ぎ込むことで、彼らは競走引退後の長い人生を送るための安定と健全なキャリアを手に入れることができるのです」。
代表者たちは施設内のウォータートレッドミルで運動するドントダウトニック(Don't Doubt Nic)を見ることができた。また、競走馬のバートン(Bertone)・クイックジャスティス(Quick Justice)・ロサティン(Rossatin)・タタマピック(Tata Ma Pick)が準備運動・基礎運動・横木通過・飛越・クロスカントリー調教などを披露するのを見学した。
参加者たちはその後、メルボルンに戻りIFARの会議の午後の部に出席した。会議では『レーシングドリームス(Racing Dreams)』の司会者であるティム・ギルバート氏が基調講演を行い、有名なキャスター、キャロライン・サーシー氏が司会を務めた。
ギルバート氏は、「馬のウェルフェアに関するストーリーはもっとよく伝えられるべきなのです。一般の人々の心をつかむべきです。事実は、素晴らしいストーリーと組み合わせられる必要があります。そういうストーリーを発信していかなければならず、それは豊かで人々の心を動かすものでなければならないのです」と述べた。
基調講演の後、臨床動物行動学者で馬と象の調教師でもあるアンドリュー・マクリーン氏が、サラブレッドが競走中も引退後も成功するための調教について紹介した。同氏は馬の認知の分野で博士号を取得しており、豪州馬行動センター(Australian Equine Behaviour Centre)を創設した人物である。
「調教は基本的に、馬にとって明確なものでなければなりません。それは必ずしも容易なことではありません。精神的な安心感を与えることができれば、どのような調教においても、レースでも引退後の生活でも最高の状態に持っていくことができるのです。馬にとってだけでなく、私たちにとっても価値のあることです。なぜなら最大の能力を発揮することができるからです。古典的条件付けを行う前に、オペラント条件を馬の脳に浸透させる必要があります。行動に明確な境界を設けることで予測可能性と制御可能性が与えられ精神的な安心感がもたらされます」。
最新のIFARビデオマガジンの鑑賞後、新しい業界協力モデルについてのパネルディスカッションが行われた。講演者にはデヴィッド・クレイグ博士(エミレーツレーシングオーソリティー)、ラトーヤ・ジェームズ氏(レーシングNSW)、菊田淳氏(JRA)、ナターシャ・ローズ氏(香港ジョッキークラブ)、メリッサ・ウェア氏(RV)がいた。
次に、済州漢拏(チェジュハラ)大学馬資源科学科のリュウ・スンホ教授が、気質検査のための実用的ツールとセカンドキャリアへ移行するための調教の重要性について発表した。同教授は以前、韓国馬事会(KRA)で国際部長を務めていた。
リュウ教授は気質検査についての研究を次のように紹介した。「馬術競技の選手の大半が競技において感情的な満足感と安全性を期待しています。ホースセラピーから障害飛越競技まで馬の用途を検討する場合、馬の気質は重視する事柄となります。この研究では、馬術競技に適した引退競走馬を選択するための科学的パラメータを調査しました。研究結果はサラブレッド競走馬のウェルフェアと馬術競技・レジャーの騎乗者の安全性を高めることになるでしょう」。
続いて、レーシングクイーンズランド(Racing Queensland)のキム・ダフィー氏が、クイーンズランド州での競走馬アフターケアの成功例について語った。同氏はアニマルケアのシニアマネージャー、そしてオフザトラック・プログラムのマネージャーを務める。
「クイーンズランド・オフザトラック・プログラム(以下QOTTプログラム)はサラブレッドやスタンダードブレッドのセカンドキャリアへの移行が質の高いものになるよう支援するために設立されました。競走のために生産され、競走や繁殖を引退したときにクイーンズランドを拠点としていた馬を対象とします。QOTTプログラムの構成は、IFARが策定した『アフターケアの原則』を支える6つの重点分野から成り立っています。クイーンズランド州の引退競走馬のアフターケアの成果を最大化するために、これら6つの重点分野の下で行動と取組みの体系的なプログラムが確立されています」。
会議の最後のパネルディスカッションでは、「アスリートの可能性の実現」に焦点が当てられた。マクリーン氏のほかに、ジェシカ・ボット氏(障害飛越選手・乗馬コーチ・チャンネル7レーシングの一員)、アマンダ・ロス氏(オリ
ンピックの総合馬術選手・エクエストリアンオーストラリアのアスリート福祉&関与アンバサダー)、戸本一真氏(2020年オリンピックの個人総合馬術で4位入賞)などが参加した。
IFARの会議は日本中央競馬会(JRA)の支援を受けている。JRAはIFARの活動を支援するために複数年のスポンサーシップ契約を締結している。
2021年と2022年に会議がバーチャルで開催される前、IFARは以下の国際会議に合わせて開催された。
・ 2017年5月 パンアメリカン会議(米国・ワシントンDC)
・ 2018年5月 ARC(韓国・ソウル)
・ 2019年5月 欧州・地中海地域競馬連盟(EMHF ノルウェー・オスロ)
・ 2020年2月 ARC(南アフリカ・ ケープタウン)
アジア競馬会議(ARC)の詳細については以下で閲覧できる。
独立したフォーラムであるIFARは、さまざまな競馬国のあいだの地理的・産業的相違点を認識しつつ、世界中でサラブレッドのアフターケアを向上させるために構想されたものである。IFARはIFHA(国際競馬統括機関連盟)とともに取り組み、サラブレッドの福祉の重要性への関心を高め、生涯にわたるケアについての教育を向上し、競馬以外の馬スポーツで元競走馬への需要が高まるよう支援している。IFARの詳細については以下をご覧ください。
https://www.internationalracehorseaftercare.com
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By IFAR
[International Forum for the Aftercare of Racehorses 2023年2月14日「Record Attendance for the Seventh International Forum for the Aftercare of Racehorses」]