ストレスに関連する馬の遺伝子を発見(アイルランド)【獣医・診療】
アイルランドのユニバーシティ・カレッジ・ダブリン(UCD)とプラスバイタル社(Plusvital Ltd.)の科学者たちは学術雑誌『アニマル・ジェネティクス(Animal Genetics)』に、魅力的な新しい研究論文を発表した。ストレスに関連し調教環境に対応する遺伝子の発見について記したものである。
「統合ゲノミクス解析が馬の行動に機能的に関連する遺伝子を浮かび上がらせる(Integrative genomics analysis highlights functionally relevant genes for equine behavior)」と題された論文は、4年間の博士研究プロジェクトを経て発表された。そのプロジェクトでは、初期調教中の1歳馬100頭を対象に、生涯の重大なイベントに遭遇したさいのストレスホルモン「コルチゾール」と調査票の結果を分析した。
主席研究員のエイミー・ホルトビー博士は今回の研究についてこう述べている。「若い競走馬にとって一番ストレスのかかるイベントは、初めてジョッキーを背中に乗せることであり、最も大きなコルチゾール反応を引き起こすという研究結果が出ています。ただコルチゾール反応が少なくうまく対応できる馬もいます」。
この研究における1つの重要な発見は、経験豊かな扱い手が観察した1歳馬の行動とコルチゾールの調査結果が一致しなかったことである。すなわち、扱い手にさえも感知できないストレス反応の注目すべき側面をコルチゾールは明らかにしたのだ。
研究主幹のエメリン・ヒル教授はこう語っている。「ストレスを感じていても行動で表さない馬がいるということです。そのストレスがきちんと処理されなければ、長期的に有害な影響が出る可能性があります。それゆえストレス反応を引き起こす遺伝子マーカーを特定することは、最もストレスを受けやすい馬を識別するうえで価値があると考えられます」。
科学者たちは初期調教に最もよく対処できた1歳馬とそうでない1歳馬の遺伝子プロファイルの比較も行った。そして恐怖反応と行動変容を統制する2つの異なる脳組織の遺伝データを用いて、対処能力に最も影響を与えていると思われる遺伝子を特定した。このアプローチにより、ほかの動物で社会的行動・自殺・ストレスによる不安やうつ・神経発達障害・神経炎症性疾患・恐怖誘発性行動・依存症などに作用する遺伝子群が浮かび上がった。
サラブレッドのストレス反応に最も重要な役割を果たす遺伝子はネクジン(necdin)だった。牛においてこの遺伝子は気質と関連しており、動物が囲いから出されて一定の距離に至るまでの「到達時間(flight time)」として測定される。この遺伝子はマウスでは行動特性と関連していて、ヒトではパラノイアと関連している。
ホルトビー博士はこう述べている。「競走馬に関わるすべての人々が馬の精神的な安定を保つ重要性を認識し、馬が満足し仕事に励むことができるよう調教メニューのバランスを取っています。それは調教の最も重要な側面の1つです」。
ヒル教授はこう語った。「遺伝学がすべての答えを出すわけではありませんが、私たちの研究は遺伝子スクリーニング手法によって正当な科学的根拠を提供します。それはサラブレッドの最高の福祉水準をサポートするでしょう」。
「もちろん行動を"育む"側面も大きな要素であり、動物をどのように扱うかによって気質に影響がもたらされます。私たちの研究は、最良の結果を出すにはより繊細な扱いが必要な動物を特定するのに使えそうな遺伝子マーカーを明らかにしています。将来これらの遺伝子マーカーは、生産における決定に必要な情報を与える検査方法へと発展する可能性もあるでしょう」。
By Racing Post Bloodstock Staff
[Racing Post 2023年3月28日「'Some horses cope better than others' - new research published which discovers genes associated with stress」]