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2023年04月21日  - No.4 - 4

競馬は世界中に普及しているのだろうか?(国際)【その他】


 たとえばあなたが英国やアイルランドの競馬場を頻繁に訪れる年季の入った競馬ファンだったとしよう。おそらくチェルトナムフェスティバル(3月14日~17日)にも足を運んだことだろう。だから、競馬はどのようなものか知っているわけだ。それは、ツイードを着た集団とギネスヴィレッジ(訳注:フェスティバルのスポンサーの1つであるギネス社の特設バー)、1日7レース、40分ごとにどこからともなく現れる出走馬関係者といったものだろう。

 そしてアルゼンチン行きの飛行機に搭乗する。おそらくコンペで航空券が当たったのだろう。空港からタクシーに乗り、パレルモのアルヘンティノ競馬場(ブエノスアイレス北部)に着くと、白い石造りの堂々としたエントランスビルがそびえ立つ。ちょっとしたカルチャーショックだ。

 アスコット競馬場の競走担当理事という役職ゆえに世界中を飛び回っているニック・スミス氏はこう語った。「アルゼンチンでは毎日20レース以上が施行されています。アルコールは提供していません。というのも、飲酒と賭博の関係が取り沙汰されているからです。素面(しらふ)で20レースというのは面白いモデルです」。

 「初めて行くとびっくり仰天です。誰も前もって教えてくれないのですから。追い切りも調教もすべて裸馬でやります。つまり文字どおり、ロープを使って乗るわけです。そしてレース前の返し馬でやっと、鞍と頭絡をつけるのです」。

 スミス氏はある日の早朝にパレルモのコースに初めて近づいたときのことを鮮明に覚えている。「コースに全員が出ていて、あちこちで馬を走らせていました。そうするのに厩舎スタッフたちがいかに剛腕でなければならないかがよく分かります」。

 朝早くから多数のレースを施行するというモデルは南米全体で人気がある。スミス氏はリオデジャネイロで同じような経験をした。

 「競馬愛や熱意がものすごくあって、競馬は活気に満ちてカラフルな演出がされています。まったくパーティーのような雰囲気ですね」。

 「南アフリカもどこか似たようなところがあります。非常に早くスタートするのです。ダーバンジュライ開催日には、朝8時から場内でバーベキューをする人がいるのですよ」。

 スミス氏はあちこちの国を飛び回って過ごした年月の間に世界の競馬についての知見を深めてきた。海外のスター馬をロイヤルアスコット開催に呼ぶために、調教師たちを口説いてきたのだ。

 「ドイツでは犬を連れて競馬を見に行きます。競馬場はまるで『野生の呼び声(The Call of the Wild)』(訳注:1903年にジャック・ロンドンにより書かれた小説。飼い犬が誘拐され厳しい自然環境で過酷な運命にさらされる物語)のような状態ですよ。英国ではありえないことですが、ドイツでは当たり前なのです。馬をわずらわせている様子はなく、犬はリードにつながれてとても行儀よくしています」。

 もちろん世界各地でさまざまな習慣があるのは驚くべきことではないが、同じスポーツでも大陸によって見せ方がまるで異なるというのは興味深い。世界中を旅するサッカーファンがある日ベルナベウスタジアム(レアルマドリードのホームスタジアム)に行き、翌日にマラカナンスタジアム(ブラジルのサッカーの聖地)に行ったとしても、このようにバラエティーに富んだ経験をすることはないだろう。

 サッカーは遍在することで画一的なものになっているのかもしれない。少なくとも4年に1回はワールドカップで私たちは同じゲームを観戦するので、このスポーツがどうあるべきかを知ることになる。

 競馬への関心はもっとローカルなものだが、私たちの視野は広くなりつつある。テレビ局は放映時間を海外の競馬映像で埋めようとしてきたし、ブックメーカーは異国の地からの目新しい賭事商品(レース)で私たちの気を引こうとしてきたからだ。ランチの前にベッティングショップに立ち寄る習慣のある英国の馬券購入者であれば誰でも、米国・フランス・ドバイ、そして香港や南アのケニルワース競馬場での競馬がどのようなものであるかをよく知っているだろう。

 競馬はどれほど世界中に普及しているのだろうか?文化的に深く浸透しプレーしやすいサッカーほどは普及していないだろう。馬は高額であり、競馬場は管理が難しく、都市部で広いスペースを要する。そのようなスペースは別の用途に使ったほうが値打ちを発揮するのかもしれない。また最近ではいたるところでおなじみの現象になっている"利益を生まなければならない"というプレッシャーにさらされる。

 世界における競馬の現状についての役立つ情報は、IFHA(国際競馬統括機関連盟)が有している。IFHAは世界規模で競馬を推進し、ベストプラクティス(最良の方法)を特定して、それを発展させることを目指している。IFHAのウェブサイトでは、IFHA加盟国からの長年にわたる概要レポートを取りまとめている。現在正式加盟国は57ヵ国であり、そのうち19ヵ国が2022年に国際重賞競走を施行している。さらに17ヵ国が部分的に加盟しているか、以前加盟していたことがあるとウェブサイト上で確認できる。

 IFHAのウェブサイトを調べてみると、意外と近くの国でも驚くべきレベルで競馬が施行されていることが分かる。たとえばセルビアはニューマーケットの街中で話題になることはめったにないが、2019年の報告書によれば28競馬場が運営されているという。ほとんどが速歩競走だが、平地競走も施行されている。

 もう1つの手がかりは英国競馬界の長い歴史をもつ、いわば補佐役、ウェザビーズ社からもたらされる。ウェザビーズ社は国際血統書委員会の事務局を務める。海外のレースに出走する馬は国際血統書委員会が承認した血統書のある国により生産されていなければならない。現在、世界中にこのような血統書は69ある。直近では2019年にクウェートが新たに承認された。また、リビアの機関が血統書の承認に関心を示していると言われている。

 つまり国際連合加盟国が193ヵ国であることから、世界の3分の1以上の国で組織立った競馬が行われていると言えるだろう。欧州の北西部の片隅ばかりに焦点を合わせてきたものだから、私たちはそれ以外の地域で起こっていることの半分も知らないのだ。

 実際には競馬開催国の正確な数は世界の3分の1よりも半分に近く、80ヵ国以上であることは間違いないだろう。IFHAの加盟国でなくても競馬を施行することに支障はない。バルバドスはその一例である。最近開催されたサンディレーン・バルバドスゴールドカップは"東カリブ海の競馬の中でも最も権威あるレースの1つ"と評され、驚くほど地元に根付いた自慢のレースだ。今年イッツアギャンブル(It's A Gamble)が制したこのレースは、ギャリソンサバンナで施行される。サー・マイケル・スタウトはこの地で実況アナウンサーとしての経験があり、いつかBBCで働くことを夢見ていた。

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 ほかの国々では競馬の中央集権的な管理、そしてその先にある国際参加への道を歩み始めたばかりである。ナイジェリアのターフクラブ連盟(Turf Club Federation)は、大きな新プロジェクトを開始するには難しかった時期である2020年3月に設立された。そして今、競馬に革命を起こそうという話がある。昨年の夏には、ソコトで2回目の西アフリカダービー(West African Derby)が開催された。

 IFHAのウェブサイトでアフリカの国々はあまり紹介されていないが、たとえばジンバブエでは古くから競馬が行われている。ウェールズ出身のデウィ・ウィリアムズ騎手はこの地でリーディングジョッキーとなり、3頭の三冠馬に騎乗している。

 本紙(レーシングポスト紙)は2021年、セネガルの競馬についての大特集記事を掲載した。セネガルでは1月~6月の毎週日曜日にレースが施行される。ある生産者の「フランスで種牡馬を見つけて連れて帰ります。かなり安価で脚部に不安があったとしても、血統が素晴らしいのです」という言葉が紹介されていた。

 南アフリカの競馬には長くて輝かしい歴史があり、過去には海外で目覚ましい勝利を挙げ、その多くはマイク・デコック調教師により達成された。シェイシェイは10年前のキングズスタンドS(G1 ロイヤルアスコット開催)で惜敗を喫し、その夏のジュライカップ(G1)とナンソープS(G1)でそれぞれ4着と2着に健闘した。

 デコック厩舎の馬はドバイ・香港・シンガポールでG1を制している。しかしここ数年はアフリカ馬疫(AHS)の発生とそれに伴う規制により、南アからの馬輸送は制限されている。

 エイドリアン・ボーモント氏は国際競馬事務局(International Racing Bureau:IRB)を通じて国際競走の促進と振興に人生を捧げている。彼は「今ではAHSの予防接種や検査を実施しているのですが、やはり馬を遠征させたり帰国させたりするのにはまだ問題があるようです。いろいろと朗報は耳にします。しかし先日のサウジカップ開催に南アの馬が参戦できるかもしれないという話がありましたが、それは根拠のないことでした」と語った。

 インドも同様の問題を抱えているが、競馬を推進して国際的な競馬コミュニティーの一員となろうとする決意があるのは明らかだ。競馬のプロモーショングループであるワールドホースレーシング(WHR)のディレクター、ジェフリー・リドル氏は最近ベンガルールから戻ってきた。

 「久しぶりにインドの7つの競馬管轄区が一堂に会し、すべての放映権をプールしたのです。きわめて強力な立場に置かれたわけです。一丸となって取り組むために、ようやく意見の違いを脇に置くようになったのです。インドの競馬はかなり強い立場を得てもっと成長していくと思います」。

 「インドの最も優秀な生産者は、ブリーダーズカップのようなイベントを開催するように呼び掛けています。外国馬がインドに遠征してくるようにするのが狙いです。さらに彼女はそれを実現するために、すべての利害関係者に団結するよう要請しました」。

 「インドの競馬に協力してくれるような億万長者について考えてみるとしましょう。もし彼らが一丸になることができれば、今後数年間はかなりエキサイティングなものになるかもしれませんね」。

 リドル氏はこれまでの仕事により、とりわけどのような場所で競馬への熱意が高まるのかを心得ている。

 「モーリシャスほど情熱的な競馬開催国をこれまで見たことがありません。シャンドマルス競馬場は大混雑でしたよ。レースのレベルは低いのですが、観客が多くて情熱的に観戦しているのです」。モーリシャスではサッカー界のレジェンド、イアン・ラッシュが馬主として活躍している。

 リドル氏はこう続ける。「フィリピンも興味深いです。WHRは世界中に視聴者がいるのですが、なぜかフィリピンの視聴者数が多いのです」。

 「WHRは世界各地の動画を提供していますが、トップ5の視聴場所にフィリピンが入ることが頻繁にあります。彼らは競馬狂なのです。インドでフィリピンの代表者数人と会ったとき、フィリピンの競馬を盛り上げようとしていることについて話していました」。

 何しろ"フィリピン"という言葉はギリシャ語の"馬の恋人"に由来するのだから。

 しかし、競馬が各地で前進しているわけではない。

 ボーモント氏は言う。「18年ほど2つのレースのためにシンガポールに通っていました。新しい競馬場をクランジに建設するのに協力しました。その競馬場は2000年に、アジア競馬会議(Asian Racing Conference: ARC)に合わせてオープンしました」。

 「素晴らしい開催でしたね。かつてはカップ競走(長距離戦)とスプリント競走を施行していて、欧州馬がよく優勝していました。今でもレースは施行されています。ただ、シンガポールは国際的なメリーゴーランドから降りてしまったのです」。

 「トルコもかつてはヴェリエフェンディ競馬場で高額賞金のレースを施行して、外国から多くの出走馬を集めていました。しかし新型コロナが問題となり、まだそれは収まったわけではありません」。

 ボーモント氏によれば、新型コロナの余波によりフライトが減便となり、昨年のカナディアンインターナショナル(G1)は欧州からの参加が保証できないかもしれないという理由で中止されたという。このレースは今年10月に再開される予定。

 ボーモント氏は韓国がこれまでドバイやブリーダーズカップ開催に出走馬を送りこんでいることから、"韓国は競馬強国になる"と信じている。英国の調教師たちはときどき管理馬を韓国に遠征させてきたが、ボーモント氏の言葉を借りれば、韓国のメインコースは「ちょっとクセがある」のだ。彼は「とても深い砂のコースです。賞金は高額で、質の高い馬に見合ったものです。しかしコースは変わっています」と語った。釜山で国際的な芝コースができるかもしれないという話もある。

 競馬が上昇傾向にある、もしくはそのポテンシャルのある国がたくさんあると聞くのは喜ばしいことである。国際舞台に新たに参加する国々は今や、競馬日程の相違を見極めるという問題に直面している。

 スミス氏は「サウジアラビアが2月に豪華な競馬祭典を開催して米国・日本・欧州から最高級の馬が集まるなんて、5年前に誰が想像できたでしょうか?」と問いかける。

 そして、「バーレーンやカタールも競馬番組を充実させています。中東の競馬は大きな成長期を迎えているのです」と述べた。

 最近では勢力はどこに集まっているのだろうか?

 スミス氏は「欧州には賞金の問題があります。しかしそれにもかかわらず、世界のトップ100 G1競走や欧州馬のレーティングを見ると、我々が作りだしているクオリティーそのものは極めて高く、欧州は依然として非常に強力な立場にあります」と言った。ただ「自己満足ではまったく意味がありませんね」と付け加えた。

 「日本には最高の競走体系があり、それは枠組みが伴ったものです。過度にレースを組もうとはせず、馬を特定のレースに合わせて調整させることで出走頭数の規模を維持できています。すべてのレースで白熱した戦いが繰り広げられることが保証されています。あるレースを主催すれば、どの馬が出走するのかがわかるのです」。

 英国の競馬ファンから訪れるべき競馬国を尋ねられたら、スミス氏はどの国の名を挙げるだろうか?

 「いつも豪州と答えますね。これほどの国はありませんね。メルボルンカップ(G1)、ランドウィックでの"ザ・チャンピオンシップス"、豪州のすべての競馬開催が素晴らしいのです。熱意が上から下まで行き渡っています。豪州では多くの人が競馬を受け入れているのです。たくさんの人がシンジケートを通じて馬のシェアを持っているのです」。

 「クオリティーは改善曲線を描いています。施設も充実しています。競馬を見に行くにはただ素晴らしい場所なのです」。

By Chris Cook

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