ギャンブルに関する政府報告書:経済力チェックの意味(イギリス)【開催・運営】
経済力チェック
【政府報告書の記述】政府報告書は"経済力チェック"が発動する2つの基準を提案する。1つ目は"適度損失の基準"。それは1ヵ月間に125ポンド(約2万1,250円)の純損失、もしくは1年間に500ポンド(約8万5,000円)の純損失を出した場合である。そしてこの基準で"経済的脆弱性"を示すオープンソースの指標、すなわち「州裁判所の判決」、「居住地域に基づく平均的豊かさ」、「破産」などがチェックされる。
2つ目の基準は24時間以内に1,000ポンド(約17万円)の純損失を出した場合である。政府報告書が"過度のギャンブル(binge gambling)"と表現するこの基準については、強化された支出チェックが行われる。賭事委員会(Gambling Commission 英国における賭事の規制と賭事法の監督を行う非省庁的な公的機関)は金融サービス部門と協力してこのチェックの仕組みがどのようなものになるかを探っているが、大部分のチェックは"信用照会機関が関与して行うものであり、そのチェック結果が懸念を引き起こすようなものでない限り、顧客の賭事活動が妨げられることはない"と考えられている。しかし政府報告書は"摩擦なきチェック"では十分な情報が得られない場合、"顧客から直接情報を収集する必要が生じるかもしれない"と指摘している。
賭事委員会はこうした基準案について協議すると同時に、90日間に2,000ポンド(約34万円)の純損失を出した場合も2つ目の基準と同様のチェックを実施するという提案も検討する。
【意味するところ】 賭事委員会がかつて提案していた100ポンド(約1万7,000円)の損失制限とその支出レベルで実行される厳重チェックに比べると、今回の政府の提案はそれほど厳格なものではない。ただ24時間以内で1,000ポンド(約17万円)や90日間で2,000ポンド(約34万円)の損失で発動する"強化されたチェック"について評価するのは難しい。政府報告書はこれらのチェックが"摩擦なきもの"であるべきとしているが、そうした意図に見合う必要な仕組みがきちんと定められていないのは明らかであり、大口賭事客が機密財務書類の提出を繰り返し要求されることになるという可能性もある。
政府報告書では、賭事委員会のデータによると口座の20%が経済的脆弱性のチェックの対象、口座の約3%が強化チェックの対象になるとしている。今年初めに本紙(レーシングポスト紙)が行った"大規模賭事調査"で、回答者の6人に1人がすでに経済力チェックの実施を求められたことが分かった。
信用照会機関がこれらすべての評価を"摩擦なき方法"で実施し、強化チェックが必要とされる事例の80%に対応できるようになると、政府は期待している。残りの20%については、その半分は政府報告書が"半同意チェック(semi-agreeable checks)"と呼ぶもの(例えばオープンバンキングが挙げられる)、あとの半分は給与明細や銀行明細の要求などの"不同意チェック(disagreeable checks)"で対処できるとしている。
賦課金制度改革
【政府報告書の記述】政府は"競馬部門の価値を高く評価する"としつつも、英国競馬界の中央集金システムである賦課金制度の見直しを開始しており2024年までに終えると述べている。
政府報告書で概要が示された"経済的リスクへの対策"によりオンライン賭事からの賦課金収入は6%~11%減額すると見込まれており、ほかの影響と合わせて競馬産業への収入全体は0.5%~1%[840万~1,490万ポンド(約14億2,800万~25億3,300万円)]減少すると推定される。政府は競馬界からの陳情を受け次の2つを検討している。(1)賦課対象を英国の顧客が購入する海外馬券に拡大すること、(2)賦課率を利益ではなく発売金に基づくものに調整する可能性。
【意味するところ】賦課金制度を改革するという約束は新しいものではない。2017年に前回の賦課金改革が行われたとき、政府はさらなる見直しの時期を2024年4月と設定していた。それでも競馬界は、政府が(1)文化および地方経済における競馬の重要性を認識したこと、(2)賦課対象を海外馬券へ拡大するのを検討していること、(3)収入の変動を少なくするために発売金を基にした賦課率への調整を考慮していることを歓迎するだろう。
しかしこの提案は、政府文書に記されるほかの措置による収入低下を相殺するにすぎない。競馬界が暫定的に被る"資金不足"に対処するために競馬賭事賦課公社(Levy Board)の準備金[2,900万ポンド(約49億3,000万円)]を使用する必要があるかもしれないということも政府は示唆している。
無料の賭事提供
【政府報告書の記述】賭事委員会は最近、オンラインVIP制度への制限を強化した。賭事客を搾取するために利用されないようにするためである。また、重大な損害を受ける指標を示す人々がボーナスキャンペーンなどの売り込みのターゲットとならないためのルールを導入した。今後、賭事の無料提供やボーナスキャンペーンのような販売促進策の設計やターゲティングを見直す。賭事の繰返しの条件付けやボーナスの有効期限に関する明確なルールと公正な制限をしっかりと設けて、過度もしくは有害なギャンブルを助長しないようにするためである。
【意味するところ】どのような規制が必要かを判断するために、賭事委員会は新たな協議を開催する。政府報告書は賭事委員会の調査結果を引用している。それによると、賭事の無料提供やボーナスキャンペーンを利用したことのある回答者の31%が自らの意思以上のギャンブルを行うように勧められたと答えている。この数字は賭事依存症として分類される人だと77%に上昇する。
一方、ある賭事業者は自社データを踏まえて、アカウントを作成して入会ボーナスを獲得した顧客とそうでない顧客のあいだに損害率の違いはなかったと報告した。また別の賭事業者は、キャッシュバックキャンペーンと賭事の自己抑制(self-exclusion)のあいだに相関関係がないことを発見したと述べる。政府報告書はこれらを"限定的な証拠"とし、より多くの証拠に基づくことを求めている。
政府は賭事の無料提供に伴うさまざまな条件付けを削減することに興味を持っている。政府報告書はこう指摘する。「賭事の繰返しを条件付けとする場合は、依然として高い頻度を掲げている。たとえば10ポンドのボーナス獲得のために50回の賭けが必要となれば、顧客は500ポンドを支出することとなる。そして的中などによる払戻金は所定の期間(しばしば7日間と短い)を過ぎれば失効することがある」。 また政府報告書は「ギャンブルへの切迫感」を煽ることを強く非難する。賭事委員会はこれについて協議を行い、賭事の無料提供を受けるための条件の上限や、無料提供が失効するまでの最低期間などを検討する。
賭事広告
【政府報告書の記述】賭事客が目にする販売促進の形態をいっそう管理できるようにするために、賭事委員会は協議を実施する。そこにはボーナスの受領に同意(opt in)を要件とすることなどが含まれる。またギャンブル関連のリスクについての情報提供を強化する一方で、子どもや脆弱な人々を対象に広告を表示しないように賭事業者は技術を活用する必要がある。政府はスポーツ横断的なギャンブルのスポンサーシップ協定についてあらゆる統括機関と協議することになっている。
【意味するところ】プレミアリーグはすでに2025-26年シーズンに、ブックメーカーのロゴをユニフォームの前面から自主的に取り除いている。この分野で発表された措置は、賭事業者の広告やスポンサーシップの全面廃止を求めている運動家をがっかりさせるかもしれず、今後の彼らの運動の焦点になるかもしれない。ブックメーカーによる賭事の無料提供やボーナスキャンペーンなどのギャンブルのインセンティブへの対応を賭事客の手に委ねるのが政府の狙いである。たとえばインセンティブへの同意(opt in)をしなければならないようにすることで、自動的にインセンティブが送られてくる場合に比べて、賭事関連の損害を被りやすい人々をより高いレベルで保護することになる。
シングルカスタマービュー
【政府報告書の記述】4月にガムストップ(GamStop 賭事客がオンライン賭事を抑制できるようにする非営利団体)の協力のもと、シングルカスタマービュー(SCV)制度の試行運用が開始された(この制度の下、さまざまな賭事業者の情報を共有し、顧客が賄いきれない金額を失うことを防ぐ)。リスクが高いと考えられる賭事客に重点的にSCV制度の試行運用が実施され、一連の基準が策定される。試行運用の最終段階では、SCV制度が適切な人を特定して、ブックメーカーが適切な対策を取っているかどうかが評価される。
【意味するところ】政府は賭事産業がSCVを実現することを強く期待しており、政府および賭事委員会が満足できない場合は、試行運用を取りやめ独自の解決策を打ち出す可能性を示唆している。政府報告書には「必要であれば、SCV制度が我々の目的を適切かつ安全な方法で達成することを確実にするために、別のアプローチ、もしくはより包括的なアプローチを義務付ける」と記されている。SCV制度を本格的に導入する前に、さらなる協議が行われるだろう。全国的な賭事客のデータベースを構築することを求める声は、"賭事による悪影響がまったくない大多数の人々のプライバシー保護を考慮して"、完全に拒絶された。それは多くの賭事客が自らのデータが共有されることを望んでいないという事実を示している。
法定賦課金
【政府報告書の記述】賭事による損害についての研究・教育・治療に資金提供するために、政府は法定賦課金を導入する。これは賭事業者により支払われ、賭事委員会が収集・分配するものである。そして、法定賦課金の設計の詳細についての協議を開始する。その協議には法定賦課金により調達される総額や、釣り合う形で公平に構築する方法に関する提案が含まれる。
【意味するところ】このような賦課金を作りだす権限は2015年から存在するが、どの政権も利用しなかったと政府報告書は指摘する。そして、賭事依存症に取り組むための資金提供を賭事産業は任意で行っている。その提供額は2019年から大幅に増加し、ギャンブルアウェア(GambleAware 賭事による弊害を減らすことを目指す慈善団体)は2021/22年に3,470万ポンド(約58億9,900万円)を受け取っている。これらの資金はたとえば、全国各地にあるカウンセリングサービスのネットワークや、より安全な賭事キャンペーンなどを支援するために使われている。
政府は賭事産業からの反対の声にもかかわらず、長期的な資金調達にかなり高い確信が持てるように、義務的な賦課金支払いが適切であると判断したのだ。賭事委員会は規制のための調査を直接委託する役割を強化するだろう。また政府と賭事委員会は、賭事分野における独立した研究の活性化も試みる。
By Peter Scargill and Chris Cook
(1ポンド=約170円)
[Racing Post 2023年4月27日「Gambling white paper: key plans, affordability checks and what it means」]