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海外競馬情報
2023年05月22日  - No.5 - 3

競馬界はアンチをなだめるのではなく浮動票を獲得すべき(イギリス)【開催・運営】


 "当然の報いを受ける"と言われることがある。4月15日(土)にそれがぴったりと当てはまったのは、グランドナショナルの前に動物愛護活動家がコースに侵入するという恥ずべきシーンでも、ヒルシックスティーンの死でもなく、むしろコーラックランブラーの見事な勝利だった。

 長い歴史をもつこの英国競馬の代表的なレースには、たくさんの辛い経験がある。そして今回もそうだった。意気消沈し不安を感じながら帰路についたグランドナショナルファンもいただろうが、それはレースに不審を抱いたからではなく、レースを愛するがゆえである。しかし、ちょうどそのような時にルシンダ・ラッセル調教師とピーター・スキューダモア氏というふさわしいコンビがグランドナショナルの勝者になった事実をはじめ、この日の午後にはポジティブなことも多くあった。

 競馬界には優れた人がたくさんいるが、当然ながら、その中でも管理馬への愛情や尊敬を伝えるのに長けた人がいる。ラッセル調教師とスキューダモア氏は4月16日(日)、『BBCブレックファスト』のインタビューに厩舎で応じたときにそれを絶妙にやってのけた。エイントリー競馬場のウィナーズサークルで発言している姿も同様に印象的だった。個人的な栄光の瞬間の先を思い描いて、生活の基盤である競馬というスポーツのために発言していたのである。このような表現の豊さは今後もっと必要になってくる。

 競馬界は30年前に屈辱を受けた。BBC1のおよそ1,600万人もの視聴者がグランドナショナルで茶番劇が繰り広げられ中止にいたるのを目撃したのである。そのときも今回と同様に、動物愛護活動家が競馬場から排除されるのを馬と騎手は待たなければならなかった。しかし、ある程度似ていたのはそこまでだった。

 1993年にまでさかのぼると、当時のBBCはエイントリー競馬場およびジョッキークラブと"抗議行動が行われたとしても、それをテレビで映すことも言及することもしない"ということに合意していた。このアプローチはグランドナショナルの国民にとっての重要性を反映したものであると同時に、このレースを中止に追い込もうとする人々の立場が過激で容認できないものであると認識されていたことの表れでもあった。

 時が流れて2023年になると、変化は一目瞭然だ。エイントリーにいた競馬ファンは発走時刻の遅れを知らされたが、なぜだか告げられなかった。しかしその週の報道を見ていれば、理由は明らかだったはずだ。一方、ITVの競馬チームはその経過をニュースとして報道せざるを得ず、視聴者750万人の中からいくらか寄せられたフィードバックによるとその報道のしかたはとても好評だったようだ。

 1993年であれば抗議行動は隠されたのかもしれないが、2023年のような透明性のある時代ではそうはいかない。また、現在ではこのような抗議行動を企てる方法も異なっている。30年前に第1号障害の前に集まった人たちは、SNSやインターネットで何かを仕掛けたわけではない。携帯電話すら使っていなかっただろう。同じ抗議活動をするなら当時より今のほうがずっと簡単だ。

 そういうわけで、私たちはこれから何が起こるのかを知っている。動物愛護団体アニマルライジングのメンバーはグランドナショナルを中止に追い込むことはできなかったが、野望の一部を実現できたと感じたことだろう。それゆえ2024年にふたたび現れさらなる混乱を引き起こすつもりだろう。

 しかし現実には、ピンクのTシャツを着たこれらの活動家たちは説得すべき相手ではない。気にするべき相手ですらなく、悪質な直接行動を防ぐために警戒するだけでいい。彼らの考えを変えられるとは到底思えない。彼らの願望は荒唐無稽で、事実ではなく幻想に基づくものだ。競馬ファンの意思も堅いものだが、これらの最も攻撃的な対抗勢力も自分たちが正しいと信じて疑わないのだろう。もはや、分別を持とうとしないアンチをなだめるのは私たちの仕事ではない。私たちの仕事は、総選挙に臨む政治家と同じように浮動票を獲得することである。

 その目標はまったくもって達成可能である。ここでグランドナショナルの物語が綿々と続いていかなければならない理由や、競馬が社会のためになる理由を説明する必要はない。これを読んでいる人は、関係者であれ、馬券購入者であれ、ファンであれ、断固として競馬の側に立っている。競馬界のためのマニフェストは、一年においてグランドナショナルの日だけ競馬をちょっと楽しむ何百万人に向けて作られる必要がある。『BBCブレックファスト』や『グッドモーニング・ブリテン』の視聴者、『5 ライブ』のリスナー、そして馬と接する理由も機会もない人たちに、私たちの前向きなメッセージを送る必要があるのだ。

 テレビとラジオの両方で、ケビン・ブレイク氏とリチャード・ホイルズ氏は新設された草の根団体「スタンド・アップ・フォー・レーシング(Stand Up For Racing)」の代表者としてそれを見事に実現している。筆者もBBCラジオ・スコットランドの土曜朝の討論会でそれを試みた。ちょうど同じようにエイントリー競馬場のプレスルームにいたほかのジャーナリストたちもさまざまなメディアでそれを行ったようだ。私たちは自信を持って冷静で誠実でなければならない。何千頭ものサラブレッドを自力で生きるようにしようと望む人々の愚かさを晒すべきだが、ヒステリーや攻撃性なしで我々の立場を説明すべきだろう。それらは相手側を象徴するものなのだから。また大声を出せば、良識的な意見として聞き入れてもらいにくいだろう。

 グランドナショナルはITVとBBCの2大放送局によってテレビとラジオでふたたび数百万人に向けて放送された。日曜日には新聞各紙も、リバプールの人々に大切にされ、エイントリーの大観衆により見守られたこのレースを極めて好意的に報じている。グランドナショナルは、このレースを嫌悪する人の比にならないほど圧倒的に多くの人に愛されている。それこそが、私たちが維持すべきステータスなのだ。

 私たちが見ている景色を人々に見てもらえるようにしなければならない。4月15日(土)にエイントリーで、グランドナショナルを制した調教師カップルは初めて馬の散骨式を行った人たちだと伝えるべきである。その馬は6年前にグランドナショナルを制したワンフォーアーサーだ。2人はコーラックランブラーを愛するようにワンフォーアーサーを愛していたのだ。

 競馬とは実にそういうものなのである。そういうことをどちらの立場にも属さない人たちには知ってもらう必要がある。


By Lee Mottershead

[Racing Post 2023年4月16日「Racing does not need to appease the antis - it's the middle ground that must be won」]


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