チャーチルダウンズ社とHISA、予後不良急増をうけ安全対策を追加(アメリカ)【開催・運営】
チャーチルダウンズ社(CDI)とHISA(競馬の公正確保と安全に関する統括機関)の関係者は6月1日(木)、予後不良事故の急増に対処するために、チャーチルダウンズ競馬場(ケンタッキー州ルイビル)の安全対策を追加することをそれぞれ発表した。
4月27日から12頭がチャーチルダウンズ競馬場で予後不良となったことをうけ、HISA・CDI・ケンタッキー州競馬委員会(KHRC)を代表する獣医師たちは5月30日(火)に臨時獣医会議を開き、西海岸の馬場管理者であるデニス・ムーア氏が独立した馬場評価を実施した。
以下のCDI側の変更点は、6月1日(木)に行われたホースマンとの会合を経て発表された。
・ 「調教師への出走ボーナス」や「最下位までの賞金配分」など競馬場独自のインセンティブを一時停止する。今後は上位5着までに賞金が支払われる。これらの資金を競馬産業のニーズに即して最適な形で再配分する方法を決定するために、CDIはホースマンと話し合いを継続している。
・ 出走回数を8週間のあいだ4回に制限する。
・ 成績不振の場合の不適格基準を定める。5戦連続で先頭から12馬身以上離されて敗れた馬は、馬医療担当理事が再出走を承認するまでチャーチルダウンズで出走する資格はないこととする。
これらの変更点のいくつかが、12件の予後不良事例のうち一部に対応したものであることは明らかだ。
たとえば、5月27日にチャーチルダウンズの第1競走で負傷し安楽死措置が取られたキンバリードリームは過去5戦すべてで14½馬身以上の差をつけられて敗れている。そのうち3レースでは31馬身以上引き離されていた。
ケンタッキーをはじめ大半の州で競馬の安全管理を担当するHISAは声明でこう述べている。「獣医会議と死亡馬の調査から、決定的かつ識別可能なパターンは浮上しませんでした。しかし、予後不良事故のリスクを最小化するためのCDIの努力を歓迎しつつ、以下の対策を追加します」。
・ 6月3日の出走登録から、HISAの馬の安全・福祉担当理事が追加的な登録後審査を実施する。HISAのルール2042(競馬の健全性の評価)は怪我のリスクが高まっている馬を特定するために、登録馬の過去の競走前検査の所見を審査することが義務付けられる。その審査は、過去成績、休養(タイムを測定する追い切りやレースを行わない60日以上の休養)、過去30日間の診療記録、過去の怪我や跛行の診断、コルチコステロイドの関節内注射、過去の手術記録、ほかの個々の馬のリスクファクターなどを対象とする。
・ HISAはHIWU(競馬の公正確保・福祉ユニット)に対して、対象馬が巻き込まれた予後不良事故について血液と毛根のサンプルを採取するよう指示した。採取の結果は、予後不良事故の原因をよりよく究明するために使用される。また、予後不良事故に関してHIWUが収集したデータは関連する統計・傾向を追跡するために活用される。
・ HISAは対象馬に対する剖検についての追加的な徹底検証を実施するために、馬法医学専門家のアリーナ・ヴェール博士を指名した。ヴェール博士はカリフォルニア州競馬委員会(CHRB)の獣医師として、2019年にサンタアニタパーク競馬場での予後不良事故頻発をうけてレビューに参加するなど複数の死後分析を実施してきた。
HISAは、5月31日に開始されたチャーチルダウンズのレース用と調教用の馬場についてのムーア氏の分析は進行中であると述べた。結論はレビューが完了次第、公表される予定だという。
HISAは、最近の予後不良事故の原因をより明確に特定するためのさらなる回答を求めるとともに、今後このような事故を防止するための具体的な処置について追求していくことを約束した。
6月1日(木)午前のホースマンとの会合では、カリフォルニアの馬専門外科医師であるライアン・カーペンター博士が発表を行った。そして調教師や現場の獣医師に向けて、特定の怪我に利用できる高度な処置方法について役立つ情報とツールを提供した。
CDIの馬医療担当理事であるウィル・ファーマー博士はこう語った。「ここに参加しているCDIの獣医師や調教師は非常に有能で知識が豊富です。数年前にカリフォルニアでの課題に取り組んだ専門家から聞いた外科処置に関する最新情報を伝える義務があると感じています。そのときの課題はまさに現在私たちが直面しているものと同じです。何よりもまず馬の長期的な幸福を念頭に置いて、いかなる決定も下さなければなりません。利用可能で、ためになり、情報に基づいたすべての選択肢を、効率よく確信を持って徹底的に馬主に伝えることが肝要です」。
ブラッド・コックス調教師は6月1日(木)に開催された全米サラブレッド競馬協会(NTRA)の電話会議に出席していた。そして、ホースマンのCDI関係者との会合ではたくさんの意見を聞いたと語り、CDIの獣医スタッフのことを、ファーマー博士が率いる"良いチーム"と評した。
チャーチルダウンズ競馬場での予後不良事故は、レース中と調教中にダートと芝のいずれのコースにおいても発生した。またパドックでも1件の事故が発生した。これらの予後不良のうち少なくとも3件はいわゆる"故障"ではなかった。それはパドックでの事故1件と、芝コースでのレース中とレース直後の突然死2件である。
コックス調教師はチャーチルダウンズ競馬場の馬場に対して信頼を示し、この春ここを拠点に走っていた管理馬は深刻な怪我を回避できていると語った。
そして、「今ではチャーチルで調教しやすいと感じています。 充実した調教メニューをこなすことができます。たくさんの管理馬が在厩していて、馬場は安全だと感じていますし、深刻な問題は起きていません」と付け加えた。
同じ電話会議で、殿堂入りジョッキーのジョン・ヴェラスケス騎手は、競馬というスポーツをより安全にする変更には賛成であると述べた。彼はケンタッキーダービー(G1 5月6日)の週にチャーチルダウンズで騎乗していた。
騎手組合(Jockeys' Guild)の共同議長を務めるヴェラスケス騎手は、「不調から回復するための時間を馬に与えて、ベストな状態で走らせることには賛成ですね。それこそがあるべき姿であり、ホースマンはインセンティブのために馬を出走させるべきではありません」と語った。
By Byron King
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[bloodhorse.com 2023年6月1日「Churchill Downs, HISA Add Equine Safety Initiatives」]