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海外競馬情報
2023年06月20日  - No.6 - 4

ダービーデーのアニマルライジングの抗議活動は大失敗(イギリス)【開催・運営】


 毎年、英ダービー(G1)が最高潮を迎えるとき、エプソムで醸し出される独特なプレッシャーによって、名声は作り出されたり打ち砕かれたりするものだ。
 今年はオーギュストロダン(父ディープインパクト)がこのクラシック競走でまばゆい勝利を収め、これまで以上に畏敬の念を抱かせる名声を手にして去っていった。それとは対照的に、サラブレッドを絶滅させることを使命とする抗議団体アニマルライジング(Animal Rising)は戦闘の岩場であっけなく倒れてしまった。
 エプソム競馬場のオーナーであるジョッキークラブは、サリーとサセックスの警察と協力して抗議活動の実施をできるだけ困難にするためにあらゆる手を尽くした。とりわけ膨大な数の警備員は目を引くものであり、レースを妨害しようとする者たちにとってはかなり視覚に訴える抑止力になったのと同時に、この世界有数のレースを見ようとしていた人々にとっては心強い存在となった。
 エプソムの正門の近くのジョッキークラブが確保したエリアで行われた平和的な抗議活動では、警備員や警察官の数はずっと少なかった。ここでは警察と活動家のあいだに和やかな雰囲気があった。ある警備員は、「手押し車レース」や「"卵を乗せない"スプーンレース」に参加するアニマルライジングの活動家のためにスプレー缶を取って来て取りあえずの誘導線を引いてあげたほどだ。
 "エプソムには1,000人ものデモ隊がやってくる"との警告を受けていたが、入場門の外にいたのは実際のところ40人ほどだっただろうか。彼らは礼儀正しく、楽しく歌って踊っておしゃべりしていた。
 しかし、彼らは意味不明なことを言った。競馬廃止を目論む人々の頭のなかには使い古された時代遅れのシナリオが出来上がっている。それは、競馬は富裕層やエリートだけのためのスポーツであり("多くの人が経済的に苦しい時期にけしからぬことだ")、馬を商品化して厩舎で奴隷扱いし、怪我をしたら冷酷のかぎりを尽くして捨てようとする、というものだ。
 競馬界がこのように考える人たちを説き伏せるのは不可能だ。なぜなら、彼らには論理と事実に基づいた議論をする気がないからである。それどころか彼らの真の狙い、すなわち"世界の食糧生産産業を根本から変える"という目標をアピールする手段として、競馬を利用しているのだ。
 競馬はデモ隊にとって狙いやすいターゲットと見なされたのではなかろうか。全体の目標を推進する一方で、簡単に破壊できる対象と思われたのだ。エプソムの抗議活動家たちは実際、「競馬を終焉させることで集団的覚醒を引き起こし、その結果、全人類を植物由来の食事へと移行させ、生態系の再野生化を唱道しようと思っている」と述べた。
 しかし、彼らはダービー当日に大失態を晒した。レースが始まる前に主要メンバー数名が逮捕され、来ると見込まれていた活動家のほとんどが姿を見せず、レース中にコースに侵入しないという誓約を破り、この抗議活動を仕掛けるためにフェイクニュースを用いたのだ。この大失敗はアニマルライジングに決定的な損害を与えた。無秩序で過激であるように見えただけでなく、資金を提供する側にも投資効果が低いという印象を与えた。
 プラントベースドキャンペーン社[旧アニマルレヴェイヨン(アニマルライジングの春の改名前の名称)]の最新決算報告によると、同社には準備金がない。アニマルライジングによると、その財政は匿名の人物から同額補充を受ける寄付金によって賄われており、50万ポンド(約8,750万円)を上限として支払いが行われる。
 アニマルライジングは「エクスティンクション・レベリオン(Extinction Rebellion)」と提携しており、米国を拠点とする「気候変動緊急基金(CEF)」から多額の助成金を受け取っている。CEFは、油田開発で巨万の富を築いたゲティ一家の一員であるアイリーン・ゲティ氏を含む富裕層が支援する慈善団体だ。
 CEFは、「インシュレート・ブリテン(Insulate Britain)」と「ジャスト・ストップ・オイル(Just Stop Oil: JSO)」にも助成金を提供している。破壊的な抗議活動で知られるJSOは、グランドナショナルでのアニマルライジングの抗議活動を支援していた。そのウェブサイトによると、アニマルライジングは今年、JSOの抗議活動にも参加していたという。
 JSOの最も有名な支援者は、大富豪のグリーンエネルギー実業家でフォレストグリーン・ローヴァーズFCのオーナーであるデール・ヴィンス氏だ。完全菜食主義者で元ニューエイジ・トラベラーであるヴィンス氏は先週、48時間にわたってJSOへの寄付と同額を寄付し、17万3,000ポンド(約3,028万円)をもたらした。ヴィンス氏は以前、アニマルライジングの質疑応答セッションに参加したが、それ以上の公的なつながりはない。(訳注:ニューエイジ・トラベラーとは、音楽祭やフェアなどを渡り歩く、ヒッピー系の移動者たちで、1980~90年代に多くの参加者が発生した)。
 アニマルライジングは資金を増やして復活を果たすかもしれないが、ダービーでの大失敗で匿名の支援者は投資したことに疑問を持つに違いない。いずれにせよ、競馬はこれまで思われていたかもしれぬ"狙いやすいターゲット"とはならないだろう。

By Peter Scargill

(1ポンド=約175円)

(関連記事)海外競馬情報 2023年No.5「競馬界はアンチをなだめるのではなく浮動票を獲得すべき(イギリス)

[Racing Post 2023年6月5日「A shambolic day for Animal Rising - and one that might well impact on its precarious finances」]


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