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海外競馬情報
2023年08月22日  - No.8 - 1

競馬のプレミアム化には日本の競馬番組が手本となるか?(イギリス)【開催・運営】


 競馬のプレミアム化(訳注:競馬というスポーツのトップレベルを披露する試み。強豪馬が競い合う最高級レースの提供を目指す)は現在興味深いコンセプトである。このコンセプトの実現に向け、土曜午後に最高のレースを披露するために考案された競馬開催日割が発表されている。

 5月にプレミアム化の提案が発表されたとき、ほとんどの関係者が条件付きで賛同していたが、実際にうまくいくかどうかは今後を見ないとわからない。ただこの原型となるものが順調にスタートしたとしても、抜本的な見直しにつながるとは思えない。競馬の発展を常に妨げてきた束縛のある環境下でなんとか実施されていくことになるのだ。すでにあるものを最適化することになるので、初心者たちを熱心なファンに改宗させるようなことにはならないだろう。

 新たなファンを獲得するという点では、どんなスポーツでも"にわかファン"を引き付ける最大の魅力は看板イベントである。つまり私たちがアスコットで目の当たりにしたキングジョージ6世&クイーンエリザベスS(G1)のような手に汗握るG1競走である。

 スリリングな決勝線手前の勝負で、2頭はあらゆる筋肉を最大限に動かし、大接戦の末、ほぼ並んでゴールを駆け抜けた(訳注:結果はフクムがウエストオーバーとの激闘を頭差で制していた)。これを見て全身が爽快感で満たされた。残念なことにこのような光景はあまり見られなくなったため、余計に心に響いたのである。レース後に競馬ファンが感動に浸っているあいだに、競馬界はこういったレースを提供してこなかったことを反省すべきだっただろう。

 このキングジョージの名勝負は、めずらしく多頭数が集まったことで実現した。デザートクラウンとハミッシュが出走を取り消したにもかかわらず、10頭がゲートインした。うち7頭がG1馬で、このレースに出走するに値するほぼすべての馬が参戦することとなったのだ。この光景は競争力をみるみる失っているこのスポーツが渇望していたカンフル剤だった。

 出走頭数は本当に重要だ。少頭数になればなるほど、最高級のレースが展開される可能性は低くなる。それはキングジョージでも明らかだった。夢中になること請け合いの層の厚さだった。オーギュストロダンは大きく期待を裏切り、それよりは幾分ましだがエミリーアップジョンも精彩を欠き、パイルドライヴァーは実力を最大限に発揮することができなかった。しかしこのレースでは、英国ではほとんどお目にかかれないような一騎打ちが実現したのだ。

 凱旋門賞(G1)は毎年多頭数を引き付けることが確実な、唯一の1½マイル(2400m)のG1競走である。毎年見ていると引き込まれてしまう。一方、今年のキングジョージは48年前のグランディとバスティノの名勝負を思い起こさせた。そのときも10頭が出走していた。

 対照的に、少頭数のレースで格上の2頭が繰り広げる決戦は決まって期待外れに終わるが、残念ながらこのような少頭数のG1競走は常態化している。パディントンが3頭のライバルを破ったエクリプスS(G1 7月8日)を見てほしい。また、このエイダン・オブライエン厩舎のスター馬が4頭のライバルに競り勝ったサセックスS(G1 8月2日)も然りである。いずれのレースもキングジョージで繰り広げられたような激しさや活発な攻防には欠けていた。

 どちらのレースでもパディントンの存在が出走予定馬を怖気させてしまった。同じくマイルのジャックルマロワ賞(G1)を12日後に控えているのに、なぜサセックスSで今季最強のマイラーに挑まなければならないのか。また牝馬であれば、サセックスSの3日前に行われる同じ距離のロトシルト賞(G1)に行くこともできるではないかと。

 グロリアスグッドウッド開催(8月1日~5日)では、5頭立てのサセックスSの翌日にナッソーS(G1)が施行された。この10ハロン(約2000m)の牝馬限定戦には6頭が出走したが、その17日後に同じ距離の牝馬限定戦であるジャンロマネ賞(G1)が控えている。こうしたパターンは続いていく。

 これはまさしく問題の核心を突いている。最高級の馬にとってチャンスはいくらでもありうまく立ち回ることができるのだ。G1競走は"チャンピオンを決めるレース"とされているが、レースとしての質には開きがある。これはあってはならないことだ。

 日本ではG1競走が開催されるたびに最強馬による刺激的な戦いが繰り広げられ、競馬は盛り上がり続けている。それらのレースのほとんどは登録頭数がフルゲートを超え、7頭~8頭のG1馬が含まれている。

 直近のG1である宝塚記念(6月25日)では、強豪馬イクイノックスが単勝1.3倍で送り出されたが、それでもライバルは16頭いた。イクイノックスの日本での過去4戦の出走頭数は16頭(有馬記念)・15頭(天皇賞・秋)・18頭(東京優駿)・18頭(皐月賞)だった。この馬の存在に怖気づいて出走を取り消す馬はいなかった。

 理由は簡単だ。この馬たちが日本で出走できるレースがほかにないのだ。競馬番組は軟弱なG1競走が入り込む隙を与えていないのだ。馬は真っ向勝負に挑むか、G2馬群に紛れ込むことに甘んじるかのどちらかである。

 それゆえ日本のG1競走が欧州に比べて活気があるのもさほど不思議ではない。英国・アイルランド・フランスで1½マイル(約2400m)のG1競走が年間11レース開催されているのに対し、日本では4レースしか開催されてない。またこれら3か国(英・愛・仏)では年間77のG1競走が開催されているのに対し、日本で1年間に施行されるG1競走はその約3分の1の26レースである。

 このような欧州の膨張した競馬番組の中で必要とされるプレミアム化は、BHA(英国競馬統括機構)が思い描いているものとは異なるタイプであるべきなのは明らかである。それこそ競馬が最高の輝きを放ち、競馬界が渇望するような新たなファンを獲得するために求められているものである。ヨーロッパ・パターン競走委員会(EPC)は日本の基本的な枠組みを採用し、トップクラスの馬の関係者があらゆる機会を捉えて互いに競い合わざるをえないようにするために、G1競走をふるいにかけ真のプレミアムレベルを作り上げる必要がある。

 英国では最強馬同士がぶつかり合うレースが希薄なものになってしまい、最高級のレースの出走頭数が少なくなりすぎるという状況に陥っている。つまり競馬というスポーツを活力に満ちたものとして描くスペクタクルが繰り広げられることはほとんどない。キングジョージで強調されたように、偉大な競走馬が偉大なレースを作るのであって、その逆ではない。

By Julian Muscat

[Racing Post 2023年8月7日「Culling Group 1 races is the real answer if racing is so keen to show itself at its very best」]


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