調教師の大幅減少で大規模厩舎への力の集中を懸念(イギリス)【開催・運営】
"英国では10年前と比較して調教師が100人以上減少している"という統計により警戒感が高まっている。これをきっかけに、競馬界に損害を与えることにも繋がりかねない"より少数の厩舎への力の集中"という傾向に対し、行動が起こされることになった。
英国の調教師は10年間で666名から553名へと減少している(17%減)。グランドナショナル優勝トレーナーであるオリヴァー・シャーウッド調教師も活動を停止した調教師のひとりである。その理由として、エネルギー・飼料・寝藁などの必需品への費用を捻出し続けるのが不可能であることを挙げている。
この統計は全国調教師連合会(NTF)に迅速な行動をとるよう促した。小規模厩舎を営む調教師とBHA(英国競馬統括機構)とのあいだで多くの会合が予定されており、調教師たちが直面している経済的問題や競馬界からの撤退を余儀なくさせるような問題に対する解決策を見つけることが試みられる。
馬主・厩舎スタッフ・免許保有者の包括的組織であるサラブレッドグループ(Thoroughbred Group)が作成したデータも、競馬界における力の不均衡がますます大きくなり、調教師が事業を維持するために乗り越えなければならない障壁がさらに生まれていることを明らかにしていた。
2013年には英国では調教師95人が全出走馬の半分を管理していた。9年後にその人数は80人に減少した(16%減)。また同時期に全出走馬の¾を管理していた調教師は219人から181人に減少した。さらに15頭以上の出走馬を管理していた調教師は566人から496人に減少している。
NTFのCEOポール・ジョンソン氏によると、NTFがメンバーに対してこれらの問題についての文書を送付したところ提案というかたちで圧倒的な反響が寄せられたという。それらの提案は小規模厩舎の調教師が負担するコストを削減することに重点が置かれていた。
「保険・輸送費・人件費・光熱費・地方税など、どの調教師も負担するコストが大幅に増加しています。調教師全員にとっての問題ですが、小規模厩舎を営んでいるとこのような問題に対応できないこともあります。多くの調教師が、厩舎を存続させるために最小限の在厩馬を確保することの必要性を指摘しています。何も変わらなければ、この傾向が続くことになると思われます」。
「厩舎の大小を問わず、NTFはすべての調教師を代表しています。しかし、小規模厩舎が競争力をもつことが競馬というスポーツにとっての美点であり、競馬ファンを引き付ける多くのストーリーを生み出しているのだということに同意しますね」。
「今回会合をもつことで、小規模厩舎が大規模厩舎と競争するのを支援する方法を特定する機会がもたらされるでしょう。多くの意見が出されると思いますが、すでに検討されているものの中には、グループ購入・料金体系の更新・ビジネスサポートへのアクセス・厩舎開業支援などが含まれます」。
ダニエル・カブラー(Daniel Kubler)調教師はランボーンでクレア夫人とともに45頭を管理している。彼は「大規模厩舎への馬の集中が馬券の面白味を損なわせる原因となっていて、悪循環を断ち切る必要があります」と述べ、こう続けた。
「この循環から抜け出せずにいますね。より多くの優良馬が大規模厩舎に送り込まれ、大半のレースを勝っています。誰もがおとぎ話を好みますが、現実的には血統の優れた産駒が一般的に優秀な競走馬になるのです。在厩馬だけでうまくやっている調教師はいますが、優良馬を手に入れなければ安定して成功するのは困難です。馬房を埋めるのに苦労している優秀な調教師がいる一方で、300~400頭の管理馬を抱える調教師もいます」。
「そのことで競馬の質がどうなってしまうのかということを一番心配しています。複数の優良馬が同じ厩舎にいたら、一番優秀な馬だけがG1競走に送り込まれることになるでしょう。しかし2番目に優秀な馬が別の調教師に管理されていたとすれば、その馬も同じG1競走に送り込まれる可能性があり、レースを見てみるまでどの馬が一番優秀か分からないのです。同じ厩舎にいれば、2番目に優秀な馬はG2競走に出走して勝利を挙げ、そのようなことが繰り返されていくのです」。
カブラー調教師はこう続けた。「これは馬券購入者にとっても妙味に欠けますね。勝馬予想をするとき、8厩舎が8頭出走させていたとすれば、有利不利はありません。しかし、出走馬の半分を1人の調教師が管理していたとすれば、調教師と騎手は4頭のうち2頭はほかの2頭よりも10馬身先着するほど強いことを知っているかもしれません」。
51年にわたって競馬界に身を置くロッド・ミルマン調教師はデヴォンを拠点とする。彼は"外部の厩舎に馬を預けておくことができることも、大規模厩舎の支配を加速させている"と述べる。
「6つほどの厩舎がかなり大きな馬占有率を誇っていて、それは競馬界にとって好ましくないことです。それらの馬は本格的な調教はされていませんが、その下準備がされているのです。それでも大規模厩舎に所属していることになっています。1つの管理体制に多くの馬が集中するのは不健全です。厩舎に2週間ほどいるだけで、レースに出走できるのです」。
「気をつけないと、アイルランドのビッグレースのようにウィリー・マリンズ厩舎・ゴードン・エリオット厩舎・ヘンリー・ド・ブロムヘッド厩舎の所属馬だけが出走することになってしまいます。そうなるとかなり退屈になりますね」。
By James Stevens
[Racing Post 2023年7月20日「'It's unhealthy and racing will become boring' - concern over sharp drop in British trainer numbers」]