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海外競馬情報
2023年09月21日  - No.9 - 2

人工馬場はサラブレッドと競馬の将来を守るか?(アメリカ・カナダ)【開催・運営】


 競馬産業および一般の人々から予後不良事故と馬場種類の関連性を示すデータの徹底調査を求める声が上がっている。当然のことであり遅きに失したとも言える(訳注:サラトガ競馬場の40日間の夏開催で競走中の予後不良事故が計8件にのぼり物議を醸している。うち2件はG1競走で生じた)。
 8月末に作家のスティーヴン・クリスト氏による投書を読んだが、彼はこのような調査を求める声を"反射的な過剰反応"だと述べていた。この抗議の声は決して過剰反応ではない。競馬産業は10年以上にわたってさまざまな種類の馬場の予後不良事故率を注意深く研究し記録してきた。そのようなデータに注目してきた人々にとって、競走馬を守ることで変化をもたらし、競馬というスポーツを向上させるチャンスがあることを示す明確な経験的証拠は積み上がっている。
 マーク・キャシー調教師、グラハム・モーション調教師、マイケル・ディキンソン調教師といった尊敬を集めているホースマンやそのほか大勢の人々からすると長年このチャンスは置き去りにされてきたのだ。これは、好ましい変化をもたらすために、現在競馬産業が直面している危機を受け入れるよう呼び掛けている点で "反射的なもの"ではない。今こそ、競馬そのものと、競馬により支えられている人々の生活を何世代にもわたって持ちこたえられるようにするときなのだ。
 競馬を持続させるために私たちが必要とする若いファン層は、異常に高い割合で競走馬に安楽死措置を取るようなスポーツを支持しないだろう。世界は変化しているのだ。私たちは社会の中で芽生えてきた変化を尊重して、それに対応しなければならない。そのうえ近年北米全体の気候が変動しており、競馬場運営者は異常気象のもとでダートや芝のコースをどのように管理するかという、前例のない難しい決断を迫られている。これも考慮すべき要素である。
 主要競馬場において芝や人工馬場のコースが主流になったとしても、競馬やサラブレッドの血統が変化することはないだろう。時間をかけ競馬産業が変化を受け入れていくことになれば、偉大な競走馬や繁殖馬とは芝や人工馬場で優れた成績を収める馬だと見なされるようになるだろう。それにより運動能力が落ちてしまうわけではないし、将来の競馬のかたちを変えてしまうわけでもない。たしかに偉大な競走馬の中には人工馬場を苦手とした馬もいた。それらの中には芝も苦手とした馬もいた。だからといって、競走馬・種牡馬・繁殖牝馬としての価値を下げただろうか?サラブレッド種の大部分は芝であろうと人工馬場であろうと、素晴らしい走りを見せると言えるだろう。これらの馬は私たちのスターであり続け、将来のスターとなる馬を送り出していくだろう。このことが競馬の"破綻"を招くというのは、完全に非論理的で根拠のない話である。
 ビジネスとしての競馬の健全性については、芝レースが人工馬場に変更された場合は出走取消が生じないので全体的に発売金が増加するという統計がある。天候が荒れた結果、芝レースがダートに変更されると、主要競馬場では驚異的な割合で出走取消が生じる。これに反して、芝レースが人工馬場に変更された場合の出走取消の割合は取るに足らないものだ。したがって人工馬場という選択肢があれば、降雨によって芝コースが重たくなった場合に、競馬場がコース変更するのに迷いはなくなる。芝の重馬場がそのような足場に慣れてない馬にとって危険であることは認められている。ウッドバイン競馬場では手入れの行き届いた芝コースを頻繁に用いているが、人工馬場という選択肢もあるので、競走馬にとってより安全なコースへの変更をためらうことはない。過去2年間で、芝コースでの予後不良事故は1件にとどまっている。
 競馬産業には、重大な局面を迎えていると認識している競馬産業の専門家や指導者は存在している。私が知るところでは、彼らは変化をもたらし競馬にとって正しいことをする準備ができておりその意思もある。残念ながら、競馬界は3度以上の大打撃を被って、このような重大な局面を迎えることとなった。しかし今回の件が避けられぬきっかけだったのであるならば、"それを受け入れて、北米競馬の将来を守るチャンスをつかもう"と私は前向きに考えている。


ウッドバイン競馬場 CEOジム・ローソン
By Jim Lawson

[bloodhorse.com 2023年9月1日「Industry Voices: Synthetic Tracks Protect Thoroughbreds」]


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