ブリーダーズカップに倣い英国競馬の宣伝活動は改善可能か(イギリス)【開催・運営】
私はふだん米国競馬にあまり関心がない。三冠競走、とりわけケンタッキーダービー(G1)には注目しているが、金曜夜の娯楽として、デルタダウンズ、ガルフストリーム、ローレルパーク、ペンナショナルのレースをテレビで見る習慣はない。
例外はブリーダーズカップだ。毎年カレンダーが10月から11月に変わるとき、この競馬祭典に惹きつけられる。
ブリーダーズカップの舞台、チャーチルダウンズ、デルマー、キーンランド、サンタアニタにいると、あっというまにその興奮に飲み込まれてしまう。欧州からの遠征馬はすべて、また米国馬も多数、調教師や騎手とともに一週間にわたる貴重な仕上げのために現地入りしている。ライダーカップ(訳注:ゴルフのヨーロピアンツアーとアメリカツアーの代表選手による対抗戦)のような連帯感が欧州勢を包み込む。それぞれライバル同士であるものの、彼らにはホスト国に対抗するために一丸となったチームであるという感情が芽生えている。
期待が感染するように高まる中、客観性は失われやすい。今年もそのような瞬間があった。BCクラシック(G1)のダートコースでシティオブトロイ(エイダン・オブライエン厩舎)が直面し、果たそうとした任務の大きさは、この牡馬が歴史を作るのではないかという希望の中で、都合よく過小評価されていた。
しかし心の片隅にはひとつの疑問がこびりついていた。それは、「英国やアイルランドにいる視聴者や読者は本当に好奇心を抱いているか?」というものだ。コロナ禍以降の私のブリーダーズカップの経験にもとづき、自問して出てきた答えが絶対的な「イエス」であることにいささか驚いている。どこにいても、一週間にわたるこのショーは人を引き込むことができるのだ。
米国にはたしかに有利な点がある。カリフォルニアの競馬場の近くにはハリウッドがあり、きらびやかなショービジネスの雰囲気が味わえるのだ。2012年にはサンタアニタでのBCクラシックの発走前に、故トニー・ベネットが『ザ・ベスト・イズ・イェット・トゥ・カム』を歌った。
それに比べて英国競馬界のプロモーション活動は退屈きわまりない。エプソム競馬場がこの夏、イベントとして開催したダービーの枠順抽選会は恥ずかしくなるほどダサかった。プロモーション予算はB&Q(ホームセンター)で日よけテントを、スポーツダイレクト(スポーツ用品店)でピンポン玉セットを、W・H・スミス(売店)でマーカーを買うために増額されたようなものだった。じめじめした人影のないエプソムのハイストリートで決行されたこのイベントは、地方都市婦人会のジャム屋台のような活気しかなかった。
競馬祭典のプロモーションに関しては、ブリーダーズカップがなにもかも超越している。私たちがロイヤルアスコット開催、ダービー開催、グロリアスグッドウッド開催、さらにはチェルトナムフェスティバルの知名度と魅力を高めるために試みる活動は、まるっきり歯が立たないのだ。
私の携帯電話は一週間ずっと"ブリーダーズカップで朝食を(Breeders' Cup Breakfast 公開調教)"が始まるというメッセージを着信していた。そして開催当日には各レースの発走10分前を知らせる通知が届いた。ウェブサイトは統計が豊富であり、閉場したハリウッドパーク競馬場で1984年に実施された第1回ブリーダーズカップからすべてのレース動画が掲載されている。また、SNSにはニュースや意見があふれていた。
10月28日(月)の出馬投票・枠順抽選・騎手決定のあと、29日(火)には2日間のブリーダーズカップ開催(11月1日・2日)のカラーの出馬表のリンクが送られてきた。レース当日まで丸3日あったので、詳細とデータを研究し、レース戦略と展開についてじっくり考えることができた。
"ブリーダーズカップで朝食を"は、まさにその機会を提供した。現地デルマーでの調教師・騎手・馬主・厩務員との会話を重視していた。ブリーダーズカップはこの公開調教が世界中のあらゆる祭典で主役を演じてきた馬に焦点を合わせていることに自信満々だった。英国のテレビにありがちな、人々が何を食べ、何を飲み、何を着ているかといった些細なことに気を散らされることはなかった。
英国競馬のプロモーションに携わる人々は指をくわえて見ているしかない。努力はしているものの、片手を後ろで縛られているようなものなのだ。
エプソム競馬場はダービーの出馬投票が早めに行われ、より長くプロモーション活動ができることを望んでいることだろう。ほとんどの出走馬名を聞いたことがない状況で、幅広いスポーツファンに売り込むのはますます難しくなっている。一日の猶予が与えられれば、少なくとも漠然と関心をもつ人々に馬券購入を検討させるのに役立つだろうし、それは実現可能かもしれない。しかしダービーウィークの月曜日の出走馬確定について、合意が得られる可能性は低い。
ロイヤルアスコットに参戦する外国馬は、競馬場の厩舎ではなくイングランド南部のあちこちの厩舎に滞在することになる。それらの馬が競馬場の厩舎に滞在できたとしても、追い切りを見学するために競馬場に招かれた競馬ファンがどのように来場するかは想像しがたい。
英国競馬界で出走馬確定の繰り上げが効果を発揮するレースはグランドナショナルであろう。すでに最も一般大衆が親しむレースとなっている。100万ポンド(約2億円)もの賞金と、出走可能頭数の引き下げにより、出走枠は今や争奪戦となっている。月曜日の出馬投票から木曜日の最終的な出走取消まで、変更は最少になる可能性が高い。なぜ、最終的な決定を先延ばしにするのだろうか?
非競馬ファンでさえも年に一度馬券を買う気にさせるグランドナショナルにとって、少しでも長い宣伝活動は貴重である。出走馬確定の前倒しにより前向きな変化をもたらされるかもしれず、ITVの視聴者の4月の140万人もの減少に歯止めをかけるのに寄与するかもしれない。
しかしそれが実現する可能性はあるのだろうか?ありそうもない。おそらく競馬界の膨らみ続ける"超難問集"に追加される一問になるだろう。
By Marcus Townend
(1ポンド=約200円)
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