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2024年11月20日  - No.11 - 5

IHRB、退職金を慈善基金から流用した疑惑(アイルランド)【開催・運営】


 11月5日(火)、スキャンダル浮上からおよそ1年半、アイルランド競馬監理委員会(IHRB)に最初の報告書案が提出されてから数ヵ月が経った。そして、8万ユーロ(約1,320万円)で委託されたIHRBの財政上の不正に関する調査は正式に終了した。

 IHRBは最終的に、監査法人マザーズが作成したこの報告書を公表した。そこには、騎手緊急基金(Jockeys Emergency Fund: JEF)から借り入れた慈善資金35万ユーロ(約5,775万円)と、元CEOデニス・イーガン氏に支払った巨額の退職金との明確な関連性は示されていなかった。

 しかしながら、この非難されるべき行為は資金繰りの危機が原因であり、いくつかの事実関係は明白である。

 イーガン氏は2021年秋、38万4,870ユーロ(約6,350万円)の退職金を「交渉した」。これは従来の退職制度のもとでイーガン氏が受け取る資格のある額よりも14万1,880ユーロ(約2,341万円)、すなわち58%多く、余剰分はターフクラブ(Turf Club)とアイルランド障害競走委員会(Irish National Hunt Steeplechase Committee)が資金提供した。しかしその4ヵ月後、IHRBは「緊急の資金繰り圧力」を緩和するためにJEFから35万ユーロ(約5,775万円)を徴収し、最終的に4月にその資金を返済した。その7ヵ月後、ホースレーシングアイルランド(HRI)はIHRBに24万2,990ユーロ(約4,009万円)の資金提供を行った。これはイーガン氏の契約の未払い残高であり、IHRBの5人の理事はHRIがイーガン氏の退職手当を暗に承認したことになると述べた。

 慈善基金は慈善目的にのみ使われるべきものであり、マザーズの報告書はJEFからの借り入れは慈善法で定められたルールに違反すると適切に結論づけた。これから慈善事業規制当局が措置をとるかどうかは不明だが、マザーズは、「IHRBと慈善団体&基金のそれぞれの法定機能が適切に分離されていないこと」を理由に、IHRBが慈善基金を管理し続けるべきかどうかを疑問視した。

 報告書は資金繰りの危機を予測しなかったIHRB理事会と幹部を非難したが、その責任は元CFO(最高財務責任者)のドナル・オシェア氏に押し付けられていた。彼は7月の辞任まで、その役職に就いたまま1年間の全額有給の自主休暇を過ごしていた。財務マネージャーが二人目の署名者となり送金が可能になったことが突き止められたが、オシェア氏がそれを指図したという。さらに彼は関係する上層部にこの送金を報告しておらず、IHRBの暫定CEOクリオドナ・ガイ氏(現在はガバナンス&法務責任者)や理事会には正式に通知されていなかったようだ。

 オシェア氏が基本的に単独で、いわば他とは接触できない状況で行動し、夏のあいだに辞任した"ならず者"だったというわけだ。誰もこのことについて知らず、ほかに共謀した者も過失を犯したものもいなかったということだ。全体的にきちんとまとめられ、箱にしまわれていたこの報告書に熨斗がついていなかったのは不思議なくらいだ。正式に承認されるまで、なぜこれほど時間が掛かったのかは謎だ。ゴタゴタの跡はほとんど残っていない。

 HRIは2022年11月に"前CEOの退職に関わる理由"で24万2,990ユーロ(約4,009万円)の公的資金を支出したものの、この法外な退職手当を承認していなかったことも判明した(HRIはつい最近、現在のCEOスザンヌ・イード氏とCFOロジャー・ケーシー氏の任命手続きをマザーズに委託している)。つまりHRIは知っていたが、この契約を承認する"正式もしくは書面での承認"を出していなかった。だから認識していなかったということになる。正直なところ、この件は全体的に胡散臭く、受け入れがたい。

 IHRBの新任のCEOダラー・オローリン氏は、2023年6月の会計検査委員会(Public Accounts Committee)の会合で"深刻な懸念事項"を提起し、思い切った主張を行った。彼は競馬界を徹底的に掃除しようとする新しいほうきのようだが、古いほうきのほうが隅々まで知っている。そして、ここで大事なのは説明責任が最優先事項であるということだ。

 35万ユーロもの大金が慈善団体の口座からいとも簡単に送金できたことには唖然とさせられる。それに、長らくIHRBとその前身のターフクラブの代名詞だったある種の「だらしない環境」を物語っている。マザーズは財務管理をより良いものにするという名目で、さまざまな勧告を行ったが、それらは実のところコンプライアンス101ハンドブックに記載される最も基本的な対策にすぎない。

 人員削減や退職についての決定は理事会の議事録に記載しなければならず、同様の取決めは資金調達が書面で確認された場合にかぎって合意すべきである。公的資金が使用される場合は、HRIの承認は書面によるものでなければならない。そのような開示はIHRBの会計に記録されるべきである。

 IHRBの財務チームは、「資金繰りの緊急事態がときおり発生することを意識すべきである」と警告された。冗談ではない。中学生のちっぽけな事業計画でも1ページ目にそのような忠告が記載されているだろう。25億ユーロ(約4,125億円)規模の競馬産業の規制当局がそれを一字一字丹念に読む必要があるのだろうか?幼稚園なみのコンプライアンス意識である。

 前述のように、マザーズはIHRBがさまざまな慈善基金の管理を継続することが適切かどうかについても疑問を投げかけた。しかし次の瞬間には、このような状況が続く場合の慈善基金の承認管理や基準に関する提言を行っている。嘆かわしくも、報告書全体の最も妥当な結論になる可能性があったのに、有意義な影響をもたらすことが約束される決め手について回避した。

 要するに、IHRBの主な責務は規制することであり、その目標を達成するのにしばしば相当な苦労をしている。慈善基金を管理するのはその権限に含まれるべきではないというだけのことだ。

By Richard Forristal

(1ユーロ=約165円)

(関連記事)海外競馬情報 2021年No.25「アイルランド競馬監理委員会のCEOイーガン氏、早期退職を発表(アイルランド)

[Racing Post 2024年11月7日「Long-awaited report into IHRB scandal makes one thing absolutely clear - the whole situation stinks」]


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