アフォーダビリティチェックが一因で発売金が急激に減少(イギリス)【開催・運営】
オンライン投票の発売金は2022-23年度(2022年4月~2023年3月)に17億5,000万ポンド(約3,325億円)相当減少したと言える。これはブックメーカーとの放映権契約から得られる数千万ポンドの収入を帳消しにし、競馬界の財政のブラックホールの規模を明示するものであることが、本紙(レーシングポスト紙)の分析で明らかになった。
賭事委員会(Gambling Commission)の最新の統計によると、2022-23年度のオンライン投票の発売金は91億2,000万ポンド(約1兆7,328億円)であり、前年度からおよそ9億ポンド(約1,710億円)減少している。しかしこれまで密接に連動してきたインフレ率を考慮することにより、発売金はこれを17億5,000万ポンド上回る108億7,000万ポンド(約2兆653億円)に達すると予想されていた。
発売金の急減は、賭事委員会のプレッシャーを感じながら営業するブックメーカーのあいだでアフォーダビリティチェック(経済力チェック)が幅広く導入された時期と重なった。その後には、"ギャンブルに関する政府報告書"に盛り込まれていた経済リスクチェックなどの施策が実施に移されている。このチェックを受ける競馬ファンが馬券購入をやめたり闇市場に流れたりして馬券売上げがさらに減少することを、競馬界は恐れている。
発売金の急激な減少とは対照的に、ブックメーカーが払戻しのあとに留保する利益である売得金(gross gambling yield:GGY)は2022-23年度のインフレ率と連動して増加した。つまり発売金が減少したにもかかわらず、賭事業者が収益性を維持するための利幅を増やしていることを示している。この結果、賦課金収入は安定しているが、馬券購入者に払い戻される金額は少なくなり、競馬が賭事商品として魅力を失いつつあるという懸念が高まっている。
BHA(英国競馬統括機構)のジョー・ソーマレズ-スミス会長は、本来ならば発売金はインフレ率とほぼ連動して増加していたはずだという強い主張があると語った。
「アフォーダビリティチェックなどにより、発売金は実額で9億ポンド(約1,710億円)ほど減りましたが、インフレ率をわずかに下回る程度の増加が期待されていたので、実質ベースでは減少幅はもっと大きいものとなります」。
「現在の馬券購入者層を考えると、生活費の危機ゆえ、発売金はインフレ率をわずかに下回る率でしか上昇しないと予想するかもしれません。インフレ率が8%となれば、おそらく発売金の上昇は例えば6%程度などを予想したことでしょう。発売金の減少がすべてアフォーダビリティチェックのせいだとは断言できませんが、それが大きな原因であることは明らかです」。
ジョー・ソーマレズ-スミス会長は、一部の馬券購入者にとって闇市場が魅力的であることも認めている。
「闇市場に流れてしまった馬券購入者はいるでしょうが、そのような市場は性質上、実態を探るのが難しいものなのです。しかしついでながら言うと、出入り禁止となった大口馬券購入者の中で闇市場に流れた人がいることはわかっています。彼ら自身がそう言っているのです」。
「銀行口座の明細書を提出したくなかったという理由で、あるいはサービス提供が営業免許を危険にさらすとブックメーカーが考えたという理由で、英国の合法ブックメーカーにより出入り禁止にされた大口馬券購入者が、単純に賭けをやめてしまったと判断するのは浅はかというものでしょう」。
アリーナレーシング社のCEOマーティン・クラッダス氏は、英国競馬界の収入減はライバルとの資金力の差を広げていると述べた。
クラッダス氏はこう述べる。「純然たる事実は、オンライン投票の発売金が2020年1月と比較してもなお約20%減少しているということです。どのようなオンライン事業でも、少なくとも消費者物価指数(CPI)程度の成長を期待できるはずなのです。だから、当然、英国は実質ベースで見ると他の競馬開催国に比べ明らかにどんどん遅れを取っているのです」。
「賭事委員会は、発売金の減少がどれもギャンブル依存症に関係するものだという証拠をまったく示していません。そんな証拠はありませんので、驚くに値しません。競馬産業は、主な収入ラインを明確なものとし確実性を持たせることを必要としています。さもなければ、フランスやアイルランドなどほかの競馬開催国との資金力の差が拡大するばかりです。それが指数関数的なものになることを恐れています」。
競馬賭事賦課公社(Levy Board)が発表した最新の事業計画では、発売金は「一貫して明確な減少傾向にある」と表現されていた。1レースあたりの平均売上げは100万ポンド(約1億9,000万円)を下回った。しかし売得金(GCY)には反映されていないと指摘している。
さらに、「総勝利額(gross win)は好調で、今や発売金の減少を補っている。ただこれは持続可能ではないかもしれない」と記されている。
ソーマレズ-スミス会長は、英国競馬界に脅威を与えている現状は長引きそうだとも指摘した。
「なぜ売得金(GCY)が持ちこたえているかという理由を考えてみると、それはブックメーカーが実際のところ馬券発売を含むほとんどの賭事で利幅を増やしているからです。馬券発売の場合、"複勝馬券(place)の改善"や"オッズ引上げ"などのキャンペーンが縮小されているということを考慮すれば、その縮小によって利幅が大きくなっているということなのです」。
「これにより明らかに賦課金収入は守られていますが、放映権料収入にとっては不都合です。なぜなら、オンライン賭事業者から支払われる放映権料は主に発売金に基づいているからです。放映権会社は間違いなくその打撃に遭っています。賦課金には影響はありません。しかし長期的に見れば、競馬にとって良いことではありません。ブックメーカーはオッズ引上げやエキストラプレイス馬券(複勝に追加的に賭けることができる馬券)のプロモーションやマーケティング活動を減らしているからです。私たちはお客様が馬券を購入して利益を得ることを望んでいるのです」。
保守党のハーバート卿は、政府報告書で提案されたアフォーダビリティチェックを批判しており、現状について懸念を表明している。
「これはとても心配になる数字ですね。これらはアフォーダビリティチェックを直ちに引っ込める必要性を強調するものです。何がこのような収入減を招いたのかは明白ではありませんが、厄介で邪魔なアフォーダビリティチェックが、損失を拡大させているとしか思えませんね」。
(1ポンド=約190円)
[Racing Post 2024年3月27日「Revealed: the real cost of the huge fall in racing betting turnover」]