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2024年05月20日  - No.5 - 1

今年のケンタッキーダービーは審議ランプを灯すべきだった(アメリカ)【開催・運営】


 ケンタッキーダービー(G1)の入線直後、私は隣にいたツイッター好きな記者のほうを向いて、着順を投稿するのをしばらく待つように言った。現地で観戦していて、明らかに審議が必要な事象を目にしたからである。

 最後の馬がゴールに到達するとほぼ同時に、当然審議のランプは点灯するだろうと思っていた。しかし1分、そして数分経っても、暗いままだった。

 これは2019年のダービー直後の瞬間である。残念なことに、2024年のダービー直後の瞬間もこのように描写できた。

 2019年の混乱は、審議が必要な事象があったのがはっきりしていたにもかかわらず、ケンタッキー州の裁決委員がレース直後に審議ランプを点灯させなかったことが一因だった。それから5年経っても、彼らは失敗から何も学んでいなかった。

 2019年にはマキシマムセキュリティが残り500mの地点に差しかかったあたりで強引にレーンを横切ったことで、ウォーオブウィルの鞍上タイラー・ガファリオン騎手が行く手を阻まれ、あやうく落馬しそうになった。数人のジョッキーが申立てを行い、この事象について審議されることになった。20分以上の遅延のあと、1位入線したマキシマムセキュリティは17着に降着となった。

 今年はシエラレオーネと日本馬フォーエバーヤングが何度もぶつかり合い、ガファリオン騎手が乗ったシエラレオーネは直線入口からゴールまでいくつものレーンを横切っているように見えた。決勝線ではシエラレオーネがフォーエバーヤングを鼻差で抑えて2着を確保した。この僅差がポイントなのは、被害馬がより良い着順を逃した可能性がある場合に走行妨害のペナルティが発動するからだ。

 きっと審議が行われるに違いないと思われた。

 しかし審議のランプはつかずに刻々と時間が過ぎて行った。

 申立てなし。

 写真判定により3頭の着順が決定するとすぐに確定ランプが灯った。

 SNS上でも大いに疑問が呈された。2着と3着の賞金に50万ドル(約7,750万円)も差があり、この結果により数百万ドルもの賭け金が影響を被るのに、なぜ審議がなかったのかと。確かにこれほどの膨大な賭け金が左右されればつねに物議が醸されるものだが、ケンタッキーの裁決委員は審議ランプをめったに点灯させないのでどうしようもない。

 マキシマムセキュリティの降着の裁定から5年を経て、ケンタッキーの裁決委員は「一般の人々に問題ある事象が検証されていると伝える方法は審議ランプを灯すことだ」ということをまだ理解していない。

 2019年に裁決委員がマキシマムセキュリティを降着としたのは最終的に正しい決定だったと思う。ただすぐに審議ランプを灯さなかったことは混乱と騒動を巻き起こす一因となった。この事象でかなりの影響を受けたわけでもない馬のジョッキーたちからの申立てをうけ、裁決委員たちは本格的に審議を始めたのだ。

 今年は裁決委員がまたもや審議ランプを灯さなかったうえに、申立てはなかった。着順はそのままとなり、多くの人々がなぜあれほどの衝突が検証されないのかと疑問に思っていた。こういったことは混乱や騒動のきっかけとなる。

 案の定、レースから42時間ほど経ってから声明が出されることになった。

 「ケンタッキーで実施されるすべての競走について、裁決委員はライブとビデオ再生で検証を行った後に結果を確定します。第150回ケンタッキーダービーも同じ手順で行われました。裁決委員はレースの標準的な検証を実施した後、さらなる検証や調査は必要ではないと判断し、着順に影響するような事象はなかったと結論づけました。そして申立てがないことを確認し、確定ランプを灯しました」。

 ここで重要なことを言おう。競馬にはすでに上記の声明のようなことを即座に伝える方法がある。それはレース入線後ほぼ丸2日経ってから出された73語よりもシンプルなものだ。つまり、ゴールの直後に「審議」というランプを点滅させることである。そうすることで、数千人の観客と、TV・パソコン・モバイル端末でレースを視聴した数百万もの人々は、問題の事象が検証されていることを知るのだ。影響を受けた馬の番号を点滅させることもできる。

 それ以上に、直線でシエラレオーネとフォーエバーヤングのあいだに生じた事象についてレースを見た裁決委員が全員、「標準的な検証」以上のものを確認しなかったのは信じがたいことだ。裁決委員は徹底的な検証を行わず、「標準的な検証」で済ませたと、上記の声明は基本的に認めている。

 「申立てがないことを確認」という文言を盛り込んだことも非常に示唆的である。ケンタッキーの現在のアプローチのきわめて大きな問題は、出走馬関係者の申立てにかなり依存している点だ。申立てが行われないことを、徹底的な検証を行うべき事象ではない証拠と見なすべきではない。

 出走馬関係者が申立てを行わない理由はいくつかある。2019年にウォーオブウィルを管理していたマーク・キャシー調教師は、「この馬はマキシマムセキュリティの妨害の影響を一番強く受けていましたが、8着に終わった時点で申立てを行うのは馬鹿げたことのように思われました」と述べている。申立てが聞き入れられても8着から7着になるだけなのに、なぜ騒ぎを起こす必要があるのだろうか?

 当時のキャシー調教師は的を射ており、「騎手たちがルール違反を主張すべきだとは思いません。決定を下すのは裁決委員の仕事だと思います。裁決委員がもっと多く、そしてもっと早く審議のランプをつけることを望んでいます」と述べている。

 今年の被害馬と思われるのは日本から遠征してきたフォーエバーヤングだ。本誌(ブラッドホース誌)が報じたように、フォーエバーヤングの坂井瑠星騎手は申立てを行わず、日本の競馬界にいるときのように振舞った。

 矢作芳人調教師のレーシングマネージャーである安藤裕氏は5月5日、「日本でルール違反を主張することはほとんどありません。それは裁決委員が決めることであって陣営の仕事ではありません」と語った。

 ケンタッキーの裁決委員は審議を行うきっかけとして申立てに依存することが多い。その結果、ルールの施行に一貫性がなくなり、"地の利"のある出走馬関係者に利益をもたらすことさえある。それはあってはならない。騎手は騎乗することに専念すべきであり、裁決委員は率先して審議を要求する必要がある。

 それに、彼らはその主導権をとっていることを一般の人々に知らせる必要がある。

 要するに、審議ランプを灯す必要があるのだ。

By Frank Angst

(1ドル=約155円)

[bloodhorse.com 2024年5月9日「What's Going on Here: Not Seeing the Light」]


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