シティオブトロイ、英ダービーを制して疑念を払拭(イギリス)【開催・運営】
私たちが耳にしてきたエイダン・オブライエン調教師の言葉の中でこれほど説得力に満ちたものはない。彼はシティオブトロイを、これまでクールモア・パートナーズとともに育ててきた中で最高の馬だと断言したのだ。
シティオブトロイの昨シーズンの完璧な戦いぶりを思えば、この言葉は疑いようがなかったが、英2000ギニー(G1 ニューマーケット)での"どんでん返し"は数々の疑問を残した。しかし2世紀以上にわたってターフのチャンピオンが戴冠してきた英ダービー(G1 エプソム)で、この馬は強烈な答えを出した。挑戦してくる馬を撃退し、圧倒的な勝利を決めたのだ。
オブライエン調教師は、シティオブトロイの2000ギニーでの敗因は自分にあると言っていた。慌ただしく発馬機を出たせいで敗北を喫してしまったが、ダービーではいつもと同じ実力を発揮できると信じていたのだ。
1番ゲートからの発走で好位を取るのは至難の業だが、ライアン・ムーア騎手はシティオブトロイを急がせることなく、道中¾ほどは内ラチ沿いでレースを進めた。そしてタッテナムコーナー(最終コーナー)を回るときに手綱を緩め始めると、シティオブトロイはまるで魔法のように後方待機組をかわした。そして、残り2ハロンの地点に到達するころに、前を走っていたのは空馬のヴォイッジだけだった。ヴォイッジは発走地点でパット・ドッブス騎手を振り落としていた。
フェアな目で見れば、アンビエンテフレンドリーも勝馬と同じぐらいスタイリッシュに戦っていた。しかしこの馬が終盤に最大限の力を発揮したとき、シティオブトロイのほうには燃料が残っており、ムーア騎手がまだ入れていないギアがもうひとつあったのだ。
決勝線でこの2頭には2¾馬身の差がつき、シティオブトロイと同じオブライエン厩舎のロスアンゼルスがさらに3¼馬身うしろの3着に入り、今年のダービーは実力どおりの結果となった。
オブライエン調教師は英ダービー10勝目を挙げ最多勝記録をさらに更新したものの、かつてないプレッシャーを自らに課していたようだった。
彼は「シティオブトロイは、私たちにとって最高のダービー馬に間違いありません。道中の走りっぷりが良く、バランスが取れていて、瞬発力もあれば持久力もあります」と述べた。
そしてクールモアスタッドとバリードイルの重鎮たちに感謝の言葉を述べながら、シティオブトロイが今シーズン初戦の2000ギニーを目指す中で犯してしまった過ちにふたたび言及した。
「2000ギニーは完全に失敗でした。彼を仕上げるうえで間違いを犯してしまったというのが結論です。あらゆることを調べ尽くすべきだったのに、それを怠ってしまったのです。彼はレース間隔があきすぎて準備ができておらず、発馬機に入ったときに癇癪を起してしまったのです。それが現実ですね」。
「能力が高いことは分かっていましたが、2000ギニーに向かうにはフレッシュすぎ、万全の態勢ではなかったのです。しかしその敗戦以来、すべてが順調ですごく成長しましたね。彼の能力や道中での走りっぷりは信じられないほど素晴らしいものですし、誰もがワクワクしています」。
ダービー4勝目を挙げたムーア騎手はプレッシャーのかかる舞台で自らが最高のパートナーであることを改めて証明した。ただ、シティオブトロイの最後の直線での反応の速さには驚かされたという。
ムーア騎手はこう語った。「進路を見つけて、素早く好位を取ることができました。レースが終わって前に馬がいなくなると落ち着きましたが、レース中に目の前に空馬がいるときは経験不足な面が垣間見られました。でもゴール付近で手前を変え、もうひと伸びしたのです。ちょっと特別な馬ですね」。
「シティオブトロイは2歳馬として大変な実力を見せつけました。エイダンがこの馬を再起させたのは素晴らしいことです。馬への信頼を失わず、プランを忠実にこなし、それが実を結んだのです。私たちの思いどおりに成長すれば、とびきり優れた馬になると思いました。そして彼は勝利したのです」。
いつもはオブライエン調教師がムーア騎手を称賛するが、今回は反対で、ムーア騎手が天才調教師に賛辞を贈った。
「エイダンは信じられないことに、長年にわたって記録を塗り替え続けています。並ぶ人はいませんね。もちろん天才ではありますが、それ以上に、細かいことに気配りができ、献身的なのです。競馬の世界では誰もがハードに働いていますが、彼ほど勤勉な人をほかに知りません。才能だけでなく、費やしてきた時間と努力の賜物です。それに勝るものはありません」。
2000ギニーで敗れる前、シティオブトロイは将来の三冠馬、もしくは将来のBCクラシック(G1)有力馬として囁かれていた。三冠の夢は途絶えたが、米国のダートで自らのレガシーを確定させる可能性は残されている。
馬主のひとり、マイケル・テイバー氏はこう述べた。「私たちはいつもBCクラシック制覇に情熱を抱いています。すでにジャイアンツコーズウェイでBCクラシック2着を達成したことがあるのです。シティオブトロイは米国三冠馬ジャスティファイの産駒なので、いずれは挑戦することになるでしょう」。
オブライエン調教師はこう語った。「最初のプランは、2000ギニーと英ダービーに出走し、BCクラシックに向かう前にダートのトラヴァーズS(G1 サラトガ)で走るというものでした。このプランにこだわってきましたが、厩舎スタッフたちが今でもこの路線を進みたいのかどうか分かりません。これについては話し合わなければなりません」。
その話合いは当面お預けにしておいてもよかろう。なにしろシティオブトロイはエプソムダウンズのとびきり素晴らしい日に、本当に重要な疑問に答えたのだから。
By Lewis Porteous
[Racing Post 2024年6月1日「'There's no doubt he's the best Derby winner we've had' - City Of Troy and Aidan O'Brien silence the doubters」]