競馬界は労働党政権と強い絆を築く必要がある(イギリス)【開催・運営】
政治の世界で一週間が長いとすれば、エクリプスS(G1 7月6日 サンダウン)で単勝1.25倍のシティオブトロイの馬券を買った人は2分9秒8を永遠のように長く感じたに違いない。
ダービー馬シティオブトロイは圧勝ではなく危うい勝利を収めた。ライアン・ムーア騎手は10馬身差で勝つだろうと考えていた。また、クールモアの総帥ジョン・マグニア氏ももっと鮮やかにライバルを退けると予想していたと言う。ただ馬主のクールモアパートナーズが馬場状態についての不安を脇にやり、この貴重な馬が名声を賭けて出走することを認めたからこそ、出走頭数が悲惨なまでに少頭数になることはなかった。
少し厳しい評価かもしれないが、それはシティオブトロイに大きな期待が寄せられていたからにほかならない。マイケル・テイバー氏はこの馬が2歳のときに"クールモアのフランケル"と呼び、その時点では、エイダン・オブライエン調教師の手掛けた中で最高の馬に成長すると信じるのに十分な理由があった。
まだその可能性はある。私たちはシティオブトロイ(父ジャスティファイ)がエクリプスSで見せたパフォーマンス以上に素晴らしい馬であることを知っている。英ダービーでの雄姿が記憶に残っているのだ。さらにチャンピオンが売りであるスポーツである以上、最優秀2歳牡馬となった彼が英インターナショナルS(G1)や愛チャンピオンS(G1)でまばゆい輝きを放ってからBCクラシック(G1)で栄光をつかみ取ることを誰もが望んでいるはずだ。
政治と競馬のつながりに話を戻そう。BCクラシック(デルマー)はアメリカ人がドナルド・トランプかジョー・バイデン、あるいはほかの誰かを選ぶ大統領選挙の3日前に実施される。7月6日(土)のエクリプスSはサー・キア・スターマー率いる労働党が圧勝を収めた英国総選挙の2日後に行われた。
したがってスターマー新首相の妻ヴィクトリアさんが6日(土)にサンダウンに来たのは、競馬界にとっては歓迎すべきことだった。首相夫人に行政権はないが、競馬界がソーシャルライセンス(訳注:産業が活動を継続するには社会に貢献する必要があるという考え方)を維持する必要性に迫られていることを考えれば、国王、女王、そしてもうすぐダウニング街10番地の住人となる人物が競馬ファンであることはかなりありがたい。競馬界は女優のジュディ・デンチも味方につけているのだ。
サンダウンで政治的な話題が多く聞かれたのは当然のことだ。一世紀以上経って初めて、保守党議員がいない選挙区となったのだ。
サンダウン競馬場のサラ・ドラブウェル場長は、「私たちの競馬場は政治に関わっていませんが、近隣住民や地域社会と良好な関係を築く必要があり、それには選出された議員も関係します」と述べた。そしてエッシャー&ウォルトン地区で新たに選出されたモニカ・ハーディング議員(自由民主党)が金曜日の最終レースのあとに表彰式のプレゼンターを務めたがっていたことに触れた。それは実現しなかったが、招待状を出したサンダウンの積極性は賞賛に値する。また、ドラブウェル場長はすでに国会議員候補者の競馬場見学を実施し、競馬に関するブリーフィングを行っていた。これこそ、競馬場が国会議員と関わり合う方法ではなかろうか。
広義において、競馬界は多くの新しい国会議員と交流しなければならない。最も重要なことだが、競馬界のリーダーたちは労働党政権と強い絆を築く必要がある。労働党の412人の国会議員のうち200人が新人議員なのだ。
競馬界のリーダーたちのなかにはある程度の不安を抱きながらこの選挙に挑む者もいた。そのうちのひとりは筆者に、"労働党政権は競馬界にとってリスクとしか思えない"と言っていた。国会でのアフォーダビリティチェック(経済力チェック)の議論に労働党の代表質問が欠けていたことからも明らかなように、それはまったくその通りだ。しかし競馬界は、労働党政権は競馬界にとってチャンスであり、新政府や多数の新人議員たちと実りある関係を築く機会をもたらすものだととらえるべきだ。
選挙結果が激震的なものであったことで、多くが"元国会議員"となり、そのなかには前国会中に競馬界を支持した有名な保守党議員もたくさんいた。プリティ・パテル議員とジョージ・フリーマン議員はなんとか保守党淘汰による受難を免れたが、マット・ハンコック議員、ベン・ウォレス議員、ナディーム・ザハウィ議員は選挙前に出馬を断念し、ローレンス・ロバートソン議員、サー・フィリップ・デイヴィス議員、ローラ・ファリス議員も議席を失った。
そのうちのひとりか2人は、BHA(英国競馬統括機構)のCEOジュリー・ハリントン氏やジョー・ソーマレズ-スミス会長の後任として競馬界入りすることを熱望しているのではないかと考えられている。彼らの競馬への献身は疑う余地もないが、労働党が圧勝した直後に競馬界が保守党員を起用することが賢明だとは決して思ってはいないだろう。それにジョッキークラブはすでに、保守党上院議員のバロネス・ダイド・ハーディングを会長に任命している。
元国会議員が競馬界のガバナンスを担うとすれば、元労働党議員で影の閣僚だったコナー・マッギン氏である可能性は高いかもしれない。彼は2015年から2017年まで、現在賭事・ゲーミング協議会(Betting and Gaming Council)の議長であるマイケル・ダガー氏と同じ野党議員席に座っていた。
賦課金制度改革や賭事規制、そして競馬の長期的な健全性に不可欠な事柄についての決断をするのは労働党政権である。スターマー首相は選挙運動中に「馬券を買う」と嬉しそうに言い、のちに本紙(レーシングポスト紙)の取材で競馬について熱く語り、このスポーツの観衆をひきつける力、英国の文化的生活における重要性、そして「経済への大きな貢献」を強調した。さらには、「妻は生まれつき競馬が大好きだ」とまで述べている。
スターマー首相が土曜夜に、夫人にエクリプスSの"レース後分析"を聞いたとは思えない。ただここ数日、私たちが見聞きした夫妻の競馬との関わり方は前向きなものだったに違いない。
シティオブトロイのサンダウンでのパフォーマンスと同様、私たちはこれを糧にして前進しなければならない。
By Lee Mottershead
[Racing Post 2024年7月7日
「Racing needs to build on Starmer's positive early signals - which means not bringing a former Tory MP to the BHA」]