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2025年04月03日  - No.13 - 1

馬の福祉について語るばかりでなく、実行が求められる(アイルランド)【開催・運営】


 今年1月にマーティン・ヘイドン氏がアイルランドの農業食糧海洋大臣に任命された際、アイルランド競馬界の重鎮たちは腕を取り合ってアイリッシュ・ジグを踊った。彼らは味方を得たのである。

 以前同省の副大臣を務めたこともあるヘイドン大臣は、アイルランド議会のあるキルデア通り界隈で最近見かけなくなった生粋の競馬と繁殖産業の擁護者である。彼がその座に就いたことで、サラブレッド業界は地位の高い友人を得たことになり、彼は歓迎された。

 政府閣僚の中で唯一セント・パトリックス・デーの外遊をしなかったヘイドン大臣だったが、チェルトナム開催への訪問という執務を引き受けた。そこで「競馬がアイルランドを有名にするのです」と改めて説き、関係者とヘイドン大臣は大いに喜び合った。

 チェルトナム開催から戻って以来、ヘイドン大臣は先週発表されたパトリック・ウォール教授の『馬の個体識別、トレーサビリティ(追跡可能性)、福祉を強化するための改革』と題された政府委託報告書への賛同を表明している。

 ヘイドン大臣は、「アイルランドには規制の整った馬の食肉処理施設の設立が急務である」という、わざわざ明らかにする必要もないようなウォール教授の主張を支持しているというが、設立を援助するための助成金交付の見込みを「精査」すると言う彼の発言は、必ずしも熱心なコミットメントとはいえないだろう。

 政府の規制の不備により、愛国内唯一の認定馬と畜場が閉鎖されて1年近くが経過した。その閉鎖は、テレビ番組「RTEインベスティゲイツ(RTE Investigates)」によって、動物福祉に反するぞっとするような行為と、マイクロチップの改ざんを含むいわゆる馬の個体識別不正が暴露されたことを受けてのものだった。

 そこで起きたことは何もかもが間違っていたが、一方でそのような行為が、同省が管轄し、その調査官たちが頻繁に訪れていた施設内でまかり通っていたのも非難されるべきことだった。同省は当初、問題の畜舎は省の管轄外であると主張し世論をだまそうとしていたものの、実際は2013年の動物衛生福祉法制定以降、国内のすべての農業施設が省の管轄下にあるという事実を都合よく無視していた。圧力を受けて、同省は最終的にその見解を正した。

 昨年まで、ヘイドン大臣の故郷キルデアにあるシャノンサイド・フーズ社の施設では、年間およそ2,000頭以上の馬の食肉処理が行われ、そのうちの1,500頭はサラブレッドだった。この食肉処理場が閉鎖されて以来、アイルランドには合法的に馬を食肉処理に回す場所がなくなった。その結果、目に見えないことも含め、様々な問題が発生している。

 機能している食肉処理場は、食肉処理に出された馬の所有者に謝礼を支払うが、馬を安楽死させるためには所有者が獣医師に同様の手数料を支払わなければならない。手抜きが行われていることは想像に難くない。競走馬登録された馬はすべてフードチェーンから除外されなければならない英国とは異なり、EU法は食用動物として馬を規定している。アイルランドで、馬を一斉に食用から外すということにはならないのだ。

 その結果、食肉処理用の馬の輸出が増加し、それに伴って密輸取引も増加している。クリスマス前に世界馬福祉協会(World Horse Welfare: WHW)が明らかにした事案では、20頭の馬を乗せたある輸送車が、密輸の疑いからドーバーで当局に止められた。調査の結果、イギリスがEUへの陸橋として利用されており、馬はEUで肥育されたのちに食肉処理される予定だったという。出荷された馬の中にはアイルランド産のサラブレッドが7頭含まれており、そのうちの何頭かは腺疫や肺炎を患っていたという。調査は現在も進行中である。

 同じ頃、アイルランド動物虐待防止協会(ISPCA)は、バリナスロー・ホース・フェア(馬の見本市)でフェンスに縛り付けられ衰弱した7歳の元競走馬を保護したことを報告した。この馬は僅か数か月前まで競走に出ていた。

 獣医師と医師の資格を持ち馬と食品安全分野にも精通するウォール教授は、報告書の中で、アイルランドでは馬の福祉に責任を持つ者を特定することは「ほぼ不可能」であると結論づけ、トレーサビリティ・システムは「根本的に脆弱」であると述べた。

 嘆かわしいことに、これがサラブレッドたちの置かれている現実である。トレーサビリティを保証するような、所有権に関する意味のある記録文書が存在しないため、誰にも責任を負わせられないのである。責任を転嫁するのはあまりにも簡単だ。

 2021年のパノラマ(Panorama)のドキュメンタリーや昨年のRTEインベスティゲイツによる暴露を受け、私たちは皆、競走生活を終えたサラブレッドの福祉が優先されるようになるだろうと信じていた。しかし我々は依然として、繁殖産業と競馬産業の成功を喧伝しながら、馬の福祉という点では見事に期待を裏切り続けるホースレーシング・アイルランド(HRI)や英国競馬統括機関(BHA)といった組織から、空約束以外の何かを待ち続けている。

 これは、断固として立ち向かわなければならない問題である。そうしなければ、このような懸念は常に頭をもたげ、元々無関心であったかもしれない大衆を競馬否定的な立場に追いやり、より過激な反対派に格好の材料を提供することにもなるからだ。

 要するに、馬を追跡できなければ、その馬を保護することはできないということに尽きる。アイルランドにはトレオ・アイル、イギリスには競走馬の再調教(Retraining of Racehorses : RoR)など元競走馬の引き取りや再調教への取り組みがあるが、残念ながらそれは氷山の一角のようなものであり、ほんの少数の無責任な行為だけで全体の評判は失墜させられるのだ。

 HRIは、馬は所有者が変わることが多く、レース開催日以外の馬の移動を法律で規定することは不可能だと主張するだろうが、マイクロチップを装着し記帳された動物を追跡することは可能である。競馬は25億ユーロ(約4,000億円)の産業であり、自らを守る必要があるにも関わらず、いまだに電子パスポートすら導入されていないのだ。

 この分野の欠点がドッグレースの評判に与えたダメージを考えてみてほしい。このスポーツは衰退の一途を辿っており、世界でもほんの一握りの地域での開催にしがみついているに過ぎない。

 HRIはこの危険な状況と、これまで提案されてきたさまざまな道筋をあまりにも軽視し続けてきた。私は長きに渡り、賞金に1%課税して、安楽死、馬の引き取りや 再調教のための集中的な基金と規約の制定に充てることを主張してきた。元調教師のガー・ハッセー氏も、馬が競走から引退する際に当局に通知する責任を調教師と馬主にしっかりと負わせるというプランを提唱していたが、軽くあしらわれてしまった。

 他人の考えを否定するのは大いに結構だが、そうするのであれば、少なくとも目の前の問題に対処する計画を持っていることを示すべきであり、それが全く為されていないことは大きな問題である。ヘイドン大臣はウォール教授の協力を得て、その問題を認識している。彼もHRIも言葉では語っている。今こそ、彼らはこの問題に対して実際に行動を起こす必要がある。

By Richard Forristal

(1ユーロ=約160円)

[Racing Post 2025年3月26日
「Ireland's authorities have talked the talk about racehorse welfare - now they need to actually do something」]


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