馬の福祉への取り組みから目を離してはならない(イギリス)【その他】
競走馬の福祉について、幅広いメディアで注目を集める時期が間もなくやってくる。グランドナショナル、そして注目度の高まるチェルトナムフェスティバルは、厳しい監視の目にさらされ、恒例の顔ぶれが障害競走を攻撃するために押し寄せては、また来年の開催までの1年間姿を消すのだ。
しかし、競馬関係者にとって、馬の福祉の問題は1年365日、常に考えなければならない問題であり、その重要性は最近の出来事によって改めて浮き彫りになっている。
先週、世界馬福祉協会(World Horse Welfare: WHW)は、ドーバー港で20頭の馬が「おぞましい環境」で違法に輸送されているのを発見したと発表した。
昨年5月に生きたままでの輸出が禁止されたにもかかわらず、多くの馬を食肉処理のために輸出しようとしていた疑いがあるとしている。その中にはWHWが「アイルランド産サラブレッド」と発表した7頭が含まれていたが、身元はまだ明らかにされていない。健康状態と馬の福祉の観点から、それらのサラブレッドの内5頭は安楽死させざるをえなかった。
英国競馬の公式慈善団体である競走馬の再調教(Retraining of Racehorses : RoR)は、WHWの施設で保護されている2頭のサラブレッドを支援し繫養するための資金提供を申し出た。
「我々は、これらの馬たちが適切な支援を受け、近い将来に愛情に満ちた居場所を見つけることを期待しています」とRoR福祉事業責任者フィリッパ・ギルモア氏は語った。
この事件は、2024年の動物福祉法(生体輸出関連)の制定にもかかわらず、依然として欠陥があることを浮き彫りにした。WHW最高経営責任者であるロリー・オーワー氏は、英国および欧州全体で強固なデジタル個体識別・追跡システムが確立されるまでは、「馬の輸送における福祉が完全に守られることはないでしょう」と語った。
また、「追跡可能性」については、英国競馬の馬福祉委員会(Horse Welfare Board: HWB)の委員長であるバリー・ジョンソン氏も、先週の本誌への寄稿で「極めて重要」と述べている。
ジョンソン氏は「すべての馬は、競走馬引退後であっても所在を確認でき、世話が行き届くよう努力しなければなりません。これは単に福祉の問題ではなく、道徳的な要請なのです」と述べた。
競走馬のトレーサビリティは、2020年にHWBが発表した5ヵ年戦略計画『充実した生涯(A Life Well Lived)』の一部にも掲げられていた。この計画は5年弱前に発表されたものだが、本年中にHWBの刷新状況と次期計画の詳細が発表される予定である。
さらに、昨年のグランドナショナルの直前にイギリスの競馬界が打ち出した、福祉の基準を周知させ、誤った情報を正すためのキャンペーン「ホースパワー(HorsePWR https://horsepwr.co.uk/ )」については、新たな投資が行われるとともに、数週間内により注目を集める時期を迎えることから、さらに勢いづくことになるだろう。
このような取り組みの必要性は、最近発表された大規模な調査の結果でも明らになった。この調査は、BHAやHWBを含む競馬団体の依頼で行われ、5,000人以上の対象者の意識を調査した。
この調査では、英国の生活における馬の社会的重要性が一般の人々に認識されていることが明らかになったが、馬の福祉については依然として深刻な懸念を残していることが分かる。
すなわち、競走中の死亡・負傷事故について「非常に」または「かなり」懸念している人は48%に上った。その次に懸念の度合いが大きかったのは、調教中の負傷と、競走を引退した馬の行く末だった。
さらに憂慮すべきは、2年前に世論調査会社ユーゴヴ(YouGov)が実施した調査において、国民の20パーセントが「いかなる状況下でも馬がスポーツに関わり続けることを支持しない」と回答したことである。また、42パーセントは、関わる馬の福祉が改善された場合にのみ支持すると回答している。
この数ヶ月間、ここでも取り上げてきたように、英国競馬は数多くの課題に直面しており、その中には将来を脅かすものもある。
厳しすぎるあるいは単に見当違いともいえる賭事規制がもたらす競馬財政への脅威は、すでに発売金の減少によって示されており、その傾向は今後も続くと思われる。
賭事にとどまらない競馬の魅力を高めていくことは、もう一つの課題である。調教師や馬主が競馬界から去っていく例が後を絶たず、優秀な競走馬が海外に流出するのではないかという懸念がある中で、この課題への早急な対応が必要である。その一方で、ソーシャルライセンス(訳注:産業が活動を継続するには社会に貢献する必要があるという考え方)は、決して当たり前に存在するわけではない。英国競馬界のリーダーたちはこのことを既に認識しており、競走馬の福祉に取り組む彼らの努力は賞賛に値するものだ。
とはいえ、評判は一瞬にして台無しになることもあるのだから、これまで以上に気を引き締めていかなければならない。
By Bill Barber
[Racing Post 2025年2月10日
「Sad case of horses found at Dover highlights need for vigilance about equine welfare」]