ブルーストッキングは10月6日、ロッサ・ライアン騎手の大きな信頼にこたえ、レイフ・ベケット調教師の夢をかなえた。その夢とはエメラルドグリーンとピンクの服色の馬を勝利に導き、馬主として最多となる凱旋門賞(G1)7勝目をジャドモントファームにもたらすというものだ。
まるで9月のヴェルメイユ賞(G1)の再現だった。馬群から抜け出してブルーストッキングに迫ってきたのはアヴァンチュールである。この3歳牝馬は大きな賭けにでたが、追いつくチャンスはほとんどなく、優良牝馬ブルーストッキング(父キャメロット)はライアン騎手の合図にこたえて幅広く容赦ないストライドで前進し、騎手と調教師のコンビに勝利をもたらした。
故カリド・アブドゥラ殿下の家族は10月2日(水)、12万ユーロ(約1,920万円)を支払いブルーストッキングを追加登録した。そして、同じく殿下の所有馬だったエネイブル(2017年)、ゴールデンホーン(2015年)、トレヴ(2013年)、デインドリーム(2011年)につづき、ブルーストッキングは凱旋門賞を制覇して追加登録料を回収した。
ウエストオーバーがエースインパクトの2着に健闘してから一年後に、調教師も馬主もより大きな満足感を味わった。
ベケット調教師は「何よりも、去年のようにどこからか馬が急襲してきて最終盤で彼女をとらえてしまうのではないかと考えていました。実際、彼女はウエストオーバーよりも早めに先頭に立ちました。直線は長いのでいつもハラハラするのです。しかし、相当強い馬でなければ彼女を抜けなかったでしょうし、彼女も簡単に譲りませんでしたね」と語った。
そしてブルーストッキングの不屈の精神について「ヴェルメイユ賞でそれを見せつけましたよね。アヴァンチュールに抜かれても差し返して撃退したのです」と指摘した。
「4着に終わった英インターナショナルS(G1 ヨーク)のあと、いずれにせよ牝馬限定戦に戻そうと考えていました。そこで手強いと思われたヴェルメイユ賞に挑んだところ優勝したのです。とても良い状態で凱旋門賞に臨めるだろうという勇気を得ましたね。3週間前にロンシャンでのレースを気持ちよく走ったのですから、プラスに考えました。彼女はここでのテストを悠々とこなしたのです」。
「ふたたびロンシャンで走らせられるだろうというちょっとした確信がありました。厩舎ではとてもスムーズに仕上げることができました。彼女の実力に何の疑問も感じていなかったからです。気にかけていたのは健康状態だけです」。
「ここには万全な態勢で来られました。レース前の返し馬での見栄えに満足していました。ブルーストッキングは本当にプロ意識が高く、何が求められているのかよく分かっており、自らそれに取り組んできました。だから私たちの仕事はラクなものです」。
3番というほぼ完璧なゲート番を引いたライアン騎手は、先頭でペースを作っていたロスアンゼルスのすぐ後ろを走ることができた。アヤザークが致命傷を負い馬群のなかを後退するというアクシデントがあったので、この位置取りは想像していた以上に重要なものとなった。アヤザークの鞍上ウィリアム・ビュイック騎手は幸いにも無傷で危機を切り抜けた。
このアクシデントのために揉み合いが生じ、最後方にいたコンティニュアスとマルキーズドセヴィニエの勝機は消滅した。一方、あらゆるチャンスを掴もうと直線を走っていたシンエンペラーは徐々に減速し、ソジーは残念な4着に終わった。
ライアン騎手は独自の作戦を立ててヴェルメイユ賞に臨んだが、後になって、ペースが上がらず凱旋門賞でたまに見る展開に似ていたと認めた。
ライアン騎手は、「ヴェルメイユ賞に出走することで道が開かれ、それが凱旋門賞では優勝につながったのでしょう」と述べた。彼のレースを分析し作戦を立てる能力は、ビッグレースを勝つたびにますます素晴らしいものになっている。
「今日はゲート番が鍵になりました。ブルーストッキングは発走もよく、好位で落ち着いて走っていました。いったん、ライアン・ムーア騎手(ロスアンゼルス)の後ろにつけると、素晴らしいリズムに乗れました。そこから勝機が見えてきましたが、実際なにが起こるか見極める必要もありました。そして彼女が私たちの期待を裏切ることはありませんでした」。
記者会見でベケット調教師とジャドモントのレーシングマネージャーであるバリー・マーン氏の隣りに座っていたライアン騎手には、レース前にどれだけ自信があったかという質問が投げかけられた。
ゴール入線後に唇に指をあてたライアン騎手はこう語った。「競走成績を詳細に分析したときには、かなり自信がありましたが、それを誰かに言うほどではありませんでした」。
「馬によって人生ががらりと変わることがあり、ブルーストッキングは私の人生を変えてくれました。ぜんぶ調教師と厩舎スタッフのおかげです。私の夢を実現してくれたのです。世界的な舞台でそれを成し遂げたのですからすごいことです」。
「彼女はもっている力すべてを出し切ってくれました。それはすべて横に座っているお二人のおかげです。このような馬に騎乗できて幸運ですが、彼女が最高のパフォーマンスを発揮できるように、私よりも尽くしている人が沢山いるのです」。
クリストフ・フェルラン調教師はアヴァンチュールに誇りを感じていた。オペラ賞(G1)で牝馬相手に戦い続けるのではなく凱旋門賞でふたたびブルーストッキングと対戦するという決断が正しかったことを、この馬が証明してくれたのだ。
フェルラン調教師はこう語った。「アヴァンチュールは完璧なレースをしましたね。驚異的でした」。
「ヴェルメイユ賞と同じような戦いでした。もちろん2着は悔しいのですが、凱旋門賞での2着は立派なものです」。
「先頭の馬を追走していたときに、勝つのではないかと思う瞬間がありました。しかし、またもや、驚異的な4歳牝馬がやってきたのです」。
ベケット調教師は長年にわたり、自家生産のミドルディスタンス牝馬の達人として知られてきたが、キンロス(強豪スプリンター)などの活躍により調教師として引出しが少ないという評価は払拭された。それでも、調教師生活のなかでこれが最大の日であることを喜んで認めた。彼はすでに英オークス(G1)を2勝しており、今年7月には愛オークス(G1)をユーゴットトゥミーで制したことでクラシック競走での記録を更新している。
「すごいことです。レインボークエストやダンシングブレーヴを見て育ちました。これらの馬の服色で凱旋門賞を制覇するのは、かなりスリリングなことです。ジャドモントの馬を調教するのは大変な名誉です。しかも凱旋門賞を勝つとはなんて素晴らしいことでしょう」とベケット調教師は語った。
故カリド・アブドゥラ殿下は1985年にレインボークエストが裁決室での審議を経て勝利が宣言されたときに初めて凱旋門賞を制した。翌年にはダンシングブレーヴがロンシャンの歴史で最もきらびやかなパフォーマンスで勝利を収めた。
2024年凱旋門賞の勝利は圧倒的な強さで奪取されたものではないかもしれないが、優勝牝馬は自由かつ惜しみなく勇敢さと才能を発揮することが求められた。ブルーストッキングは凱旋門賞優勝馬に求められることを最も完璧にこなしたのだ。
「勝てば出走できる(Win and You're In)」条件のBCチャレンジ競走のひとつである凱旋門賞を制したことで、ブルーストッキングは総賞金500万ドル(約7億5,000万円)のBCターフ(芝G1 デルマー)への出走権を獲得した。なお、遠征費は全額支給される。
血統背景
ブルーストッキングとロスアンゼルスは2012年の英2000ギニー(G1)と英ダービーの優勝馬キャメロットが送り出したG1馬12頭(実頭数)のうちの2頭である。いずれの母父もジャドモントの優秀な種牡馬ダンシリ(父デインヒル)である。2頭ともキャメロットの2代母がフィクル(Fickle 父デインヒル)であることで、デインヒルのクロスがある。この近親交配のG1出走馬の勝率は13.3%にのぼる。
ブルーストッキングの母エミュラスはダーモット・ウェルド調教師のもとメイトロンS(G1)を制し、半弟にG3勝馬のファーストシッティング、半姉にリステッド勝馬のデアリングディーバがいる。デアリングディーバはケンタッキーダービー(G1)とハスケルS(G1)の優勝馬マンダルーン(現在ジャドモントのケンタッキーの牧場で繋養)の2代母である。
ブルーストッキングの半弟キラット(3歳 父ショーケーシング)は、タタソールズ社オータム調教馬セール(10月28日〜11月1日)に上場される。この馬は優秀な半姉と同様にレイフ・ベケット調教師に管理され、10月5日のチャレンジカップ(アスコット)で2着となっている。
ブルーストッキングにはほかにも、半弟にディシデント(2歳 父フランケル)、半妹にキングマン牝駒がおり、母エミュラスは今年フランケルの牝駒を出産している。
By Scott Burton/Racing Post and Aisling Crowe/Racing Post
(1ユーロ=約160円、1ドル=約150円)
[bloodhorse.com 2024年10月6日「Bluestocking Gives Juddmonte Record Seventh Arc Victory」]