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No.12 - 2
男女のジョッキーが平等に利用できるよう設備の改修が急務(イギリス)【開催・運営】
2024年12月24日

 競馬界は男女が直接競い合う数少ないスポーツであることを大々的に売り込んできた。しかしある重要な側面では依然として失望させられる。英国ではいまだに、女性騎手が施設の不備に我慢しなければならないことがよくある。

 騎手が利用するエリアの近代化が切望されており、これについて議論が続いている。場合によっては一流スポーツ選手にふさわしくなく、競馬場協会(RCA)や騎手協会(PJA)は改修が必要なことに同意している。ただどれだけ迅速に遂行されるべきかについて意見が分かれている。

 2021年11月、業界横断的なグループがすべての競馬場が満たすべき要件のリストについて合意した。まず、18歳未満の支援を目的としたものを含む必須のセーフガーディング対策(訳注:虐待や危険を防止し安心で安全な生活を送る権利を確保する取組み)を優先するよう求め、各競馬場は2022年2月までにその要件を満たしたとされている。

 バレットのための共同作業スペースなど、より幅広い改修の残りは2024年10月までに段階的に実施されると期待されていたが、間に合わせることができたのはわずか12場だった。

 このプロジェクトの総工費は4,000万ポンド(約78億円)以上にのぼると予想されており、改修の規模を考慮して、期限は2月に先延ばしされた。新しいガイドラインのもと、各競馬場は10月までに計画を提出し承認を得なければならず、騎手エリアの全面的な建替えが要求されている2場をのぞいて全場がこれを達成した。その後2025年12月までに、さらなる要素を追加することになっている。

 RCAによると、2025年の競馬シーズンが開幕する前に5場が改修を完了するという。また16場は改修計画に産業作業部会の承認もしくは暫定承認をもらっており、25場が計画を提出している。RCAは、英国の60場のうち50場(ニューマーケットのジュライコースとローリーマイルコースを含む)が2027年12月までに改修を完了すると推定している。

 競馬場は、改修の性質を考えると当初の期限は野心的すぎたという見方をしている。ただの再配置ではなく完全な建替えを求められる競馬場もあったからだ。また、建築許可や老朽化した建物の開発に関する問題にも言及しており、RCAが"大きな財政的逆風"と評するものが競馬場の財政を圧迫していることは言うまでもなかった。

 競馬界のあらゆる分野と同様に、競馬場も経費を削減しなければならないのは間違いない。とりわけ、オンライン売上げの減少により発売金が予測値を30億ポンド(約5,850億円)下回ったという報告は深刻だ。

騎手エリアを改修し要求基準を満たした12場のうち7場は独立競馬場である。これは大手競馬場グループが直面する課題を反映しているのかもしれない。彼らは、総工費が数百万ポンドにのぼる改修計画を複数の競馬場で同時進行しなければならないのだ。また賞金などの削減が余儀なくされないように、改修工事は数年にわたって段階的に行う必要があると主張するかもしれない。

 しかし騎手協会(PJA)は改修工事をより迅速に進めるよう呼びかけており、それはもっともなことである。PJAのCEOポール・ストラサーズ氏はこう語った。「女性ジョッキーたちはあまりにも長きにわたり多くの競馬場で、不十分なセーフガーディング対策と差別的な設備に我慢しなければなりませんでした。大半の競馬場では今もなお男性用更衣室に入らなければならず、これはまったくもって受け入れがたいことです」。

 男性も女性も平等に設備を利用できるように暫定的にいくつかの対策がとられ、RCAはすべての競馬場が業界のセーフガーディング基準を満たしているか、もしくはそれ以上の水準で運営されていると強調する。しかしPJAは、競馬場はまだ十分に対応しておらず、ほかの分野に投資する資金はあるのにそれを騎手エリアの迅速な近代化に回さないという不満が騎手のあいだにあるようだと主張している。

 事業の詳細計画について課題があるのも分かるが、ジョッキーたちが改修工事の遅れに不満を抱くのも理解できる。ここ一年ほど騎手の地位向上に向けた前向きな動きが見られた。それに騎手の側でもスポーツ科学の進歩による変化を受け入れてきた。しかし多くの場合、騎手が利用する施設はほぼ全員が男性だった時代に建てられたもので、一定の基準に達していない。

 女性騎手がいまでも男性用更衣室に入ってバレットなどの共用サービスを利用しなければならないのは受け入れられない。ほかのスポーツでは考えられないことだろう。男女いずれかの専用エリアの外部に共有スペースを置くことが優先される。これは先延ばしにして良い問題ではなく、幸いにも、状況を変えなければならないという認識は広がっている。

 期限についてPCAとPJAの見解が異なる中で、このプロセスがいつ完了するかは別問題だ。その事実を考慮すると、12月初旬にBHA(英国競馬統括機構)が競馬場の暫定措置の実施状況を監督し、懸念がある場合は免許付与プロセスで措置を講じることもあるというのは朗報である。

 詳細や期限、理由についてどのような立場をとっているかは別にして、現実には騎手エリアの多くがまだ期待される基準に達していない。進歩的なスポーツを標榜する以上、これは問題である。焦って基準を下回る施設を建設することは誰も望まないが、この分野の進歩は停滞しており、今や急速に促進しなければならない。

 改修工事に携わる者は事業の詳細計画について常に合意に至らないのかもしれない。ただ、英国の多くの時代遅れな騎手エリアについては、競馬界のスターにはもっと優れた設備がふさわしいという事実に異論は唱えられない。

By Jonathan Harding

(1ポンド=約195円)

[Racing Post 2024年12月8日「We know that times are tight - but racecourses really do need to step up and improve outdated weighing rooms」]



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