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No.12 - 3
英国唯一のバイアリーターク系の現役種牡馬が日本へ(イギリス・日本)【生産】
2024年12月24日

 英国で唯一のバイアリーターク系の現役種牡馬、パールシークレットが日本に輸出され、大狩部牧場で供用されることとなった。仲介したのはオーエン・サリヴァン氏だ(訳注:12月6日、アロースタッドがパールシークレットを2025年春から供用することをXで発表。種付料は受胎条件で50万円)。

 テンプルS(G2)優勝馬パールシークレットはローシン・クローズ氏のバックランズファームで種牡馬生活を開始し、2021年からノートングローブスタッド(ヨークシャー)で供用されていた。

 サリヴァン氏によると、大狩部牧場のオーナーで獣医師の下村優樹氏はしばらく前からパールシークレットを狙っていて、この血統の希少性が購買のきっかけとなったという。

 「下村氏は以前からパールシークレットに夢中になっていました。能力の高いスプリンターであるだけでなく、バイアリータークの牡系を継承する希少な一頭なのです。日本の一部の生産者にとってはかなり興味深い存在となるでしょう」。

 大狩部牧場は日本では比較的新しい生産事業体だが、下村氏は世界的に有名な社台ファームで働いた経験をもつ国内屈指の馬専門獣医師である。

 大狩部牧場は今年、アイルランド人エージェントであるサリヴァン氏をつうじて、アルカナ社のセリでアメリカンファラオの牝駒を購買した。母はBCジュべナイルフィリーズターフ(G1)と仏1000ギニー(G1)を制したフロティラ(Flotilla)。下村氏はさまざまな血統に手を広げたいと考える。

 パールシークレットはその代表例だ。父コンプトンプレイス、母アワーリトルシークレット、母父ロッシーニ。ホワイツベリーマナースタッド&ピジョンハウススタッドの生産。

 この馬の遺伝的価値は何よりもまず、サラブレッドの三大始祖の一頭、バイアリータークの血を引く最後の現役種牡馬の一頭であるというステータスにある。

 バイアリータークは伝説では、現在のセルビアにあたるオスマン帝国で生まれた軍馬とされている。数々の一流競走馬の祖先である。

 この馬の正確な起源は永遠に判明しないかもしれない。ただ、彼がロバート・バイアリー大尉の軍馬であり、人馬ともに1690年のボイン川の戦いを生きのびたということには議論の余地がない。この戦いはアイルランドと英国の関係において悪名高くきわめて重大な出来事だった。

 バイアリータークは、18世紀後半に活躍したリーディングサイアー、ヘロドの祖先である。ヘロドの産駒であるハイフライヤーもリーディングサイアーに輝き、ヘロドの孫にあたるダイオメドは北米のサラブレッドの基礎種牡馬の一頭となった。

 ヘロドの子孫には、一世紀前に絶大な影響力を誇ったバリーリンチ牧場の種牡馬ザテトラークもいる。

 パールシークレットはマルセル・ブサック氏の代表的な生産馬ジェベルの直系の子孫である。フランス生まれのトゥルビヨン産駒であるジェベルは20世紀と21世紀にバイアリータークの牡系を伝える重要な橋渡し役になった。

 ジェベルは第二次世界大戦と重なる競走生活で、ミドルパークS、英2000ギニー、仏2000ギニー、凱旋門賞を制覇した。そしてブサック氏のフレネー-ル-ビュファール牧場で種牡馬生活を過ごした。

 ジェベルの産駒クラリオンはロレンザッチオの父父にあたる。ロレンザッチオは英チャンピオンSでニジンスキーを下し大番狂わせを演出し、種牡馬として一流スプリンターのアホヌーラを送り出した。アホヌーラはインディアンリッジやインチナーを送り出したことにより牡系を継続させたが、牝駒のパークアピールやパークエクスプレスの活躍により、主にブルードメアサイアー(母父)として功績を残した。ダークエンジェルやメーマスを送り出したアクラメーションの母父でもある。

 インディアンリッジは、ジュライカップ優勝馬コンプトンプレイスを送り出した。コンプトンプレイスはパールシークレットのほかにディーコンブルースやボーダーレスコットといった優秀な産駒を送り出したが、これら二頭はせん馬だった。

 パールシークレットは2010年のタタソールズ社10月1歳セールにハーパーズハンプシャー牧場により上場され、ヨーマンズタウンスタッドにより2万ギニー(約410万円)で購買された。そして2011年のドンカスター・ブリーズアップセールでデヴィッド・レッドヴァース氏により9万ポンド(約1,755万円)で購買された。

 パールシークレットはファハド殿下の最初の競馬&生産事業体、パールブラッドストック社の名義で競走生活を始め、デヴィッド・バロン調教師に管理された。2歳となった2011年には10月に一戦して勝利し、3歳時には3戦3勝を達成しハンデ戦出走馬からリステッド勝馬へと出世した。

 4歳時に唯一出走したキングズスタンドS(G1 ロイヤルアスコット開催)では、ソールパワーの3着に入った。

 5歳時にはビヴァリーブレット(L)を制し、テンプルSで2着。6歳になってテンプルSを制覇し、キングズスタンドSとアベイドロンシャン賞(G1)ではいずれもゴールドリームの4着となった。

 7歳も現役続行。テンプルSでプロフィタブルの4着に入ったのが最高の成績だった。そのシーズンの終わりに、サルシーフォレストスタッドにより4万2,000ギニー(約860万円)で購買された。

 公式レーティングでもレーシングポストレーティング(RPR)でも、パールシークレット産駒の中でトップに立つのは初年度産駒で4勝を挙げたデザイナー(牝5歳)だ。この馬は血統的にとても興味深い。というのも、父パールシークレットも母父ノットナウケイトも、アホヌーラの直系の子孫だからだ。それゆえ、パールシークレットの新しいオーナーが熱心に保存しようとしているバイアリータークの血統を二重に引き継いでいることになる。

 2番目に優秀なパールシークレット産駒、リズムンフーヴス(Rhythm N Hooves せん4歳)も母父アクラメーションをつうじてアホヌーラのインブリード4×4がある。

By Aisling Crowe

(1ポンド=約195円)

[Racing Post 2024年12月6日「Precious Byerley Turk line stallion Pearl Secret sold to continue stud career in Japan」]



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