専門家は、レプトスピラ菌による流産(leptospiral abortions)が急増している原因は、秋から冬にかけてケンタッキー州中部で降雨量が例年より多かったためであると述べている。
ケンタッキー大学(University of Kentucky)の家畜病診断センター(Livestock Disease Diagnostic Center: LDDC)で疫学リサーチ・アナリストをしているジャッキー・スミス(Jackie Smith)氏は、2月22日にレキシントンにあるLDDCで開催されたセミナーで出席した約80人の聴衆を前にして、馬レプトスピラ菌による流産が LDDCで通常1年間に診断される34例を超えるペースで増えていると述べた。同氏によると、現在までの症例のうち約95%がサラブレッドである。
同氏はその発表において、レプトスピラ菌による流産が大幅に増加していると述べたが、最終的な例数の予測は差し控えた。
馬レプトスピラ症は、らせん状バクテリアであるレプトスピラ菌によって発症する。この細菌は、感染した馬およびスカンクやフクロネズミ (opossums)といった他の哺乳動物を含む感染動物の尿によって撒き散らされる。専門家は、例年より降雨量が多い年には、バクテリアはよどんだ水や 泥の中で生存し、馬がこの細菌を摂取すると考えている。
スミス氏は、ケンタッキー州中部におけるレプトスピラ菌による流産のピークは、12月と1月であり、続いて多いのは11月と2月であるとする統計を示し た。今シーズンのレプトスピラ菌による流産の症例数は、平年数を超える可能性があるが、最終的には大幅な増加にはならないと思われる。過去の事例では、牝 馬繁殖不全症候群(mare reproductive loss syndrome: MRLS)発症のピーク年であった2001年に、約2,550頭の仔馬がMRLSで死亡した。
スミス氏は、馬レプトスピラ症を抑えるために多くの対策を講じることができると確信している。同氏は馬レプトスピラ症に関する13年間の症例を調査する計画を発表した。
同氏は、「これら34頭の仔馬が1頭当り1万ドル(約120万円)だとすると、1年間に34万ドル(約4,080万円)になります。また、1頭当りの価 格が10万ドル(約1,200万円)だとすると、340万ドル(約4億800万円)の損失となります。このような話をするのは、今年死亡した仔馬の1頭が 100万ドル(約1億2,000万円)の価格であったからです。小規模牧場でこのようなことが起きると、影響は甚大です。1頭や2頭の仔馬が死亡するだけ でも、ある牧場にとっては壊滅的な結果となる可能性があります」と述べた。
馬レプトスピラ症は、流産の原因となるほかに、成馬に月盲症と呼ばれるブドウ膜炎を引き起こすことがある。
現在のところ、馬レプトスピラ症に効くワクチンはないが、LDDCのレン・ハリソン(Lenn Harrison)所長(獣医学博士)は、近年馬レプトスピラ症を発症した牧場は、馬を頻繁に検査すべきであると述べている。牧場は、牧場に生息する野性 動物の数を減少させることも可能であるが、これには困難も伴う。
同所長はまた、馬レプトスピラ症を発見する能力を高めるために、獣医師に対し毎年1回技術向上をはかることを勧めている。
ケンタッキー大学のマクスウェル・H・グルック馬研究センター(Maxwell H. Gluck Equine Research Center)のジョン・ティモニー(John Timoney)教授は、馬がレプトスピラ菌に感染してから、細菌が体内で発見されるまでの時間は短いと述べている。しかし、感染した馬のすべてが馬レプ トスピラ症の徴候を示すわけではない。
同教授は、「我々は、13ヵ所の牧場と68頭の牝馬を調べました。すべての牧場は、レプトスピラ菌にさらされた馬を少なくとも数頭所有していましたが、 これらの馬のすべてが活動性感染症にかかっていたわけではありません。しかし、各牧場にレプトスピラ菌にかかった馬がいたことを考えると、この地域の馬は かなりの程度でレプトスピラ菌にさらされていることになります」と述べている。
同教授は、馬用ワクチンの開発を目指しており、感染した牝馬から抗体を採取することは可能であると強調している。
(1ドル=約120円)
By Frank Angst
〔Thoroughbred Times 2007年3月3日「Leptospiral abortions on rise in Central Kentucky」〕