4年前、大きくがっしりとしたたくましい馬シュワジール(Choisir)がロイヤルアスコット競馬場の下見所に大股で入ってきた。このオーストラリア から遠征してきた牡馬の粗削りで、筋力のありそうな体格をどう評価するべきか誰も分からずにいたが、同馬は明らかにパドックで良く見える馬ではなかった。
シュワジールが、アクラメーション(Acclamation)やオアシスドリーム(Oasis Dream)を破って1,000 mのキングズスタンドステークス(英 G2)に優勝し、無視できない優良馬であることを自ら証明するのには1分(正確に言えば59.68秒)しかかからな かった。4日後、その強さが本物かという疑念を払拭するかのように、同馬はゴールデンジュビリーステークス(英 G1 1,200 m)で200 m以上もスピードを維持し、16頭のライバルを打ち負かした。その次のジュライカップ(英 G1 1,200 m)では、オアシスドリームに1馬身半差の2着に敗れ、愛国的なイギリス競馬ファンをほっとさせたが、それでも同馬が紛れもなくタフな馬であることを示した。
昨年は元タクシードライバーのジョー・ジャニアク(Joe Janiak)調教師が大陸を横断してオーストラリアの高速馬テイクオーバーターゲット(Takeover Target)を連れてきて、これと同様のことをした。せん馬である同馬の場合は、キングズスタンドステークス優勝の後ゴールデンジュビリーステークスに 出走し、イギリス馬レザーク(Les Arcs)に敗れ、3着となった。レザークがジュライカップも優勝し、日本のスプリンターズステークス(G1 テイクオーバーターゲットが優勝)に果敢に挑戦したが、失敗に終わった後引退した。ジャニアク調教師ご自慢のテイクオーバーターゲットの方は今年も現役だ。
本年のキングズスタンドステークスでは、テイクオーバーターゲットは同じオーストラリアからの遠征馬で傑出した俊足の牝馬ミスアンドレッティ(Miss Andretti)に敗れ、そして、もう1頭のオーストラリア産馬のマグナス(Magnus)にも先着され4着に終ったが、恥ずべきことではない。
これら3頭の快速馬たちは南半球から1万マイル(1万6,000 km)を超えるつらい旅をして、競争の激しい1,000 mレースを電撃的に制覇するためにやってきたのだ。
オーストラリア産短距離馬をこんなにも強くしたのは何だろう。
ジョニー・ウォーカー(Johnny Walker)獣医師によれば、それは主に選抜プロセスにあるとのことである。同獣医師は、オーストラリアを代表する調教師のリー・フリードマン(Lee Freedman)氏の主任獣医師として、同調教師の管理するミスアンドレッティに同行してイギリスにやってきた。
ウォーカー獣医師は、「スピード馬を求めて関係者は何年もかけて生産を続けてきたのです」と述べている。シャトル・スタリオンの導入によって血統の混合 がなされてきたが、オーストラリアの伝統的な生産技術が同国産のサラブレッドに消すことのできない痕跡を残したと同獣医師は信じている。
同氏は、「オーストラリアの種牡馬選別レースはゴールデンスリッパーステークスやアスコットヴェールステークスといった2歳馬競走や短距離競走です。種 牡馬選別レースで1マイルを超えるレースはあまりありません。その結果、これらの種牡馬は早熟な産駒を輩出しました」と語る。
この点について例を挙げると、南半球の代表的な種牡馬、エンコスタデラゴ(Encosta De Lago)、カアプスタッド(Kaapstad)、ゼディテイティヴ(Zeditative)はいずれも1,200 mのアスコットヴェール(豪 G1)に優勝している。ゼディテイティヴは1,000 mのライトニングステークス(豪 G1)も優勝しており、同レースにはその後、ジェネラルネディイム(General Nediym)、テスタロッサ(Testa Rossa)、シュワジールといった若い人気種牡馬も優勝している。
ライトニングステークスの最近3年間の勝馬は、クールモア・オーストラリア牧場(Coolmore Australia)の新種牡馬ファーストネットロック(Fastnet Rock)、テイクオーバーターゲットおよび今年のヒロイン、ミスアンドレッティである。
By Rachel Pagone
[Racing Post 2007年6月27日「Revealed: how Aussie sprinters get the most from their muscle」]