出走前の馬体 重計量の導入は、以前にも議論となったが、再度検討に値する大変重要な問題である。香港では、試合前にボクサーが体重測定するのと同じように、レース前に 出走馬の体重測定が行われている。シンガポールなどのその他の極東諸国でも同じような手続きがとられており、賭け方にも大きな違いをもたらしている。
イギリスでは、鋭いと言われている下見所評論家の目を大変重視する。下見所評論家は、“肉屋の犬のように元気に見える”とか“きっちりと調教されてい る”とか“レースでは必ずや好走を期待できる”といった鋭い評価の反面、はっきりしないコメントでファンの予想を導く。
香港でも下見所評論家の目は重視されるが、出走前の体重がその馬の最適な体重にどれほど近いかということの方が重要視される。というのも、もし馬が好調 そうに見え、かつ最適の体重にあるならば、その馬がレースへの準備が万全であることを証明するために他に必要なものはないからだ。
さらに力説すべきは、馬体重は予想のための重要な要素となるのだから、ある馬が休養後2走し、馬体重が最後に勝ったときに近づけば、この馬を勝馬候補と判断するに違いない。
同様にもし、最も能力を発揮すると考えられる体重よりまだ30ポンド(約13.6 kg)も重い時、この馬を勝馬候補とはしない可能性はかなり高い。500kg程の馬というように曖昧に考えていたこと以外は、馬体重についてかなり最近ま で大して考えもせず関心も持たなかった私のようなファンにとって、香港でファンに与えられている出走前の馬体重情報は驚きに値した。
例えば体重が1,277ポンド(約579 kg)もあるサイレントウィットネス(Silent Witness)は、12月3日の出走馬の中で最も重い馬であった。同馬は、同厩馬のブリッシュラック(Bullish Luck)より40ポンド(約18.1 kg)重く、ブリッシュラックは他の同厩馬より30ポンド(約13.6 kg)は重い。サイレントウィットネスは病気前の栄光に包まれ無敵で17連勝していた全盛期より、60ポンド(約27.2 kg)位重くなっている。
大半の短距離馬は大柄である。短距離馬には軽量馬は少ないが、牝馬のシーイズトウショウは500kgには届かなかった。
サイレントウィットネスの雄牛のような馬体を、成熟したセン馬で比較的ほっそりして優美な1,023ポンド(約464 kg)のコリヤーヒル(Collier Hill)のそれと比べてみよう。もちろん牝馬は軽量なのが普通であるが、プライド(Pride)が香港カップで勝ったとき、9着のアレキサンダーゴール ドラン(Alexander Goldrun)同様、たった956ポンド(約433.6 kg)しかなかった。この牝馬がチャンピオン・ステークス(Champion Stakes)に優勝した時、あるいは凱旋門賞に2着した時は、香港の時と比べてどうだったのだろうか。
さて、そこが大事な点である。プライドのアラン・ド・ロワイエ-デュプレ(Alan de Royer-Dupre)調教師と彼のスタッフ以外の誰も、そして恐らくは彼等さえも実際は知らない。もしも我々がそれを知っていれば、プライドが香港 カップ(Hong Kong Cup)で日本のアドマイアムーン(Admire Moon)をかろうじて制した時と、凱旋門賞でレイルリンク(Rail Link)に惜敗した時と同じ状態だったかどうかが少しは分かったかもしれない。
もし我々が、ハリケーンラン(Hurricane Run)が2006年の凱旋門賞で2005年に比べてどれだけ体重が増えていたか減っていたかを知っていたら、もっと良い判断ができただろうに。あるいは 凱旋門賞の時にディープインパクトが日本で絶好調のときの体重と比較してどれだけの体重であったか知ることができたら、それは何かの説明になっただろう か。それによって我々の賭け方は違ってきただろうか。
ヨーロッパでも出走前の馬体重計量を行うべしという提案はあるが、あまりに金がかかるアイデアで検討するのに相応しくないとしていつも却下される。しか し、そうだろうか。各競馬場に馬体重計を備えるのにどれだけ費用がかかるだろうか。賭を予想する際のひとつの不確定要素が省かれることによる売上増で、こ の費用をカバーできるのではなかろうか。
By Paul Haigh
[Racing Post 2006年12月15日「Racecourse weigh-in the way to go」]