海外競馬ニュース 2007年02月15日 - No.6 - 1
切神術ルールの問題点(アメリカ)[獣医・診療]

 ダン・マク ファーレン(Dan McFarlane)調教師は、12月2日にリファイナリー(Refinery 3歳牡)をクレーミング競走で購買したが、その馬がどのような馬であるか確信を持っていたわけではない。しかし、馬主のレス・ブレーク(Les Blake)氏は5万ドル(約600万円)を支払っており、この額に見合うように使うつもりでいた。

 ブレーク氏は同馬の獣医検査を行い、去勢し、ターフパラダイス(Turf Paradise)競馬場にあるマクファーレン調教師の厩舎に入厩させ、12月31日に行われたラストチャンス・ダービー(賞金2万4,200ドル:約290万円)に出馬登録した。

 ところが、同馬には同ダービーに出走する資格がないばかりでなく、そもそもアリゾナ州で出走することも禁止されていると通知された。このときのマクファーレン調教師の驚きは想像に難くない。その理由は、蹄に対する切神術が施されていたためである。

 ヴィクトリーギャロップ(Victory Gallop)を父に持つ同馬は、ハリウッドパーク(Hollywood Park)競馬場の人工馬場で行われた7 1/2ハロンのクレーミング競走で、4着となりクレームされた。ウェイン・ヒューズ(Wayne Hughes)氏所有のこの馬は殿堂入りしているリチャード・マンデラ(Richard Mandella)調教師が管理しているのだから、その馬に肉体的痼疾がなく、そこそこのレベルの使える馬であるとマクファーレン調教師が考えたとしても おかしくはない。マクファーレン調教師自身もターフパラダイスの現開催で調教師リーディング2位にランクされており、ましてやこの馬は2歳時に42万 5,000ドル(約5,100万円)でヒューズ氏に買われた馬である。

 マクファーレン調教師は、「我々は大人です。どんな馬でも面倒を見ることができます。しかし、リファイナリーが切神術を受けていると聞かされたときは衝撃を受けました。このような話は長年聞いたことがありません」と述べている。

 切神術には、文化的背景がある。ターフパラダイス競馬場の公認獣医師のレスリー・サルモンズ(Leslie Salmons)博士によると、切神術は、少なくとも1992年以降アリゾナ州では禁止されている。およそ15年にわたり主として同州で馬を管理してきた マクファーレン調教師にとって、今回のような問題は予想もできなかった。

 一方カリフォルニア州は、切神術を受けた馬がレースに出るのを認めるという点で多数派に属している。数十もの他の競馬開催州の担当者からの回答による と、アイオワ州を除いて、ニューヨーク州、ケンタッキー州、フロリダ州、メリーランド州およびルイジアナ州など調査した全ての州では、このような馬の出走 を認めている。

 ノイレクトミー(neurectomy)として一般的に知られている蹄に通じる神経の切除手術は、伝統的なメスによる手法または超低温処置によって馬の 蹄部の神経伝達を遮断するか、または感覚を麻痺させる方法である。記録によると、リファイナリーは、昨年7月にこの手術を受け、その後州の獣医師によって 出走を許可された。同馬は、マンデラ調教師の管理馬としてこの競走のほかに5回出走して1回優勝し、ステークス競走で2回着外になっている。

 マンデラ調教師は、「おそらく私がここ5年間で切神術を施した馬は1頭だと思います。本当のところ、この手術はいわれているほど効果はありません。リ ファイナリーに関しては、手術をした理由は骨の疾患のためか、あるいはおそらく若馬のときに受けた負傷のためです。馬が蹄骨を負傷した場合、完全に治癒す ることはありません。切神術は、必要としている神経管を必要のないものというようなものです。私の考えでは、痛みを除去してやることによって、ケア次第で すが新たな傷害の原因を作ることになります」と述べている。

 リファイナリーの手術は、当時マンデラ厩舎で頼んでいた開業獣医師で、現在カリフォルニア州競馬委員会(California Horse Racing Board)の馬医療担当理事を務めているリック・アーサー(Rick Arthur)博士によって行われた。

 同博士は以下のように述べている。「切神術がどのように思われているかはともかく、乗用馬に対してはごく普通に行われています。競走馬に対してはあまり 行われていません。この手術が行われるのは、リファイナリーのように極めて稀な場合です。この時、私は非常に慎重に処置し、神経の1つを切除しただけで す」。

 マンデラ調教師やアーサー博士のような名の知れた人物が関係しているため、今回のような切神術は、センセーショナルに扱われやすい。しかし、リファイナ リー事件が真に暗示するものは、複数の州で馬を出走させる馬主・調教師が直面する苛立ち、すなわち州規則間の数多くの不一致がまた1つ明らかになったとい うことである。マンデラ調教師自身も、アーリントンパーク(Arlington Park)競馬場で行われたブリーダーズカップ・クラシック(2002年秋)にプレザントリーパーフェクト(Pleasantly Perfect)を出走させようとしたとき、カリフォルニア州とイリノイ州の鼻出血規則の相異によって同馬の出走を拒否された。同馬がサンタアニタ (Santa Anita)競馬場のグッドウッドH(Goodwood Handicap)に優勝したあと鼻出血したためである。

 しかし、激烈な自己主張の世界においてもルールはルールである。ルールは守られる必要があるだけでなく、十分に周知される必要がある。少なくとも、南カ リフォルニアの開催関係者によると、サラブレッドの切神術は、極めて異例である。ハリウッドパーク競馬場競走役のマーティン・パンザ(Martin Panza)氏は、「切神術が行われているとしても、わずかです」と述べており、切神術が行われている場合、この事実はジョッキー・クラブ(The Jockey Club)が発行する血統証明書に正式に記載され、この証明書は競馬場から競馬場へと常について回る。

 カリフォルニア州の競馬施行規程によると、切神術が行われた馬のリストは、競走役が保持し、競馬関係の免許所持者の閲覧に供せられなければならない。し かし、このリストは公表が義務付けられておらず、馬が神経を切除されているかどうかを調教師が確認するすべは、馬に関する一連の書類を公表するよう調教師 が馬場取締委員に求めるという非現実的なシナリオしかない。

 リファイナリー事件を受けて、今後は神経を切除されたカリフォルニア州の馬のリストがわかりやすく公表され、出馬表にも掲載されるようになるかもしれな い。馬の切神術の有無が、州獣医委員による規程の見直しを必要とするほど重要と見なされるならば、そのことが日の目を見るのは確実である。我々はそのよう な見直しと変更が行われるべきかを考えなければならない。

 

(1ドル=約120円)
By Jay Hovdey


〔Daily Racing Form 2007年1月7日「Can’t go wrong with full disclosure」〕