1年前の今頃は、毎週モハメド殿下(Sheikh Mohammed Al Maktoum)による華々しい種牡馬の獲得が見られた。現在はそれよりも少しだけ長い時間をあけながらの強力な資産が購入された。
今度は同殿下がマクナイア家(the McNairs)から有力なオーナーブリーダー事業であるストーナーサイド・ステーブル(Stonerside Stable)を購入することが昨日のレーシングポスト紙と同社のウェブサイトに掲載された。同殿下は、6ヵ月間に3ヵ国で3つの有力な資産を獲得したことになる。
3月に殿下のサラブレッド生産部門であるダーレー社(Darley)は、ボブ・インガム(Bob Ingham)氏からオーストラリアのウッドランズ牧場(Woodlands Stud)の購入に着手した。この取引には、シドニーの主要調教センター並びに1万1000エーカー(4400ヘクタール)以上の土地と1000頭以上の馬が含まれる。
また2週間ほど前に、アンドレ・ファーブル(Andre Fabre)調教師からシャンティイの歴史あるロスチャイルド厩舎施設を購入することが明らかになった。ダーレー社はこの厩舎に来年100頭以上の馬を入れようとしている。
そして9月1日には、ストーナーサイド・ステーブルの購入である。この取引の対象となったのは、ケンタッキー州の2000エーカー(800ヘクタール)の土地とサウスカロライナ州の調教施設および250頭の馬[2008年リブルスデイルSの優勝馬であるミチタ(Michita)、セレブレーションマイルの優勝馬レイヴンズパス(Raven’s Pass)が含まれる]である。昨年秋に合意に達した契約で、この資産の50%はすでにモハメド殿下が所有していた。
殿下は何を考えているのだろうか?昨年購入した7頭の秀逸な種牡馬候補に加えて、今年3つの強力な資産を獲得することは、大規模な取引に見えるかもしれない。しかし、殿下の側近は、昨夏と同じように、方針に変更はないと主張する。
そうであれば、私たちは彼らの方針が分かっていなかったのかもしれない。というのも、資産と種牡馬の購入は、初めてのことではないし、世界的事業拡大にしてもそうである。
ダーレー・ジャパン社は2002年、日本で競走馬を販売し始め、日本を拠点とする競走馬と種牡馬事業を大幅に拡大することを目的として少なくとも5年前から日本中央競馬会の馬主免許の取得活動をしている。ダーレー社は米国において、2006年の3歳でチャンピオンに輝いたシーズンの終わりにベルナルディーニ(Bernardini)を引退させ、最も注目を浴びる時期に種牡馬入りさせ、種付料を10万ドル(約1100万円)としている。
日本、米国、オーストラリアがダーレー社にとって何を意味するかを表現するために、モハメド殿下の顧問であるジョン・ファーガソン(John Ferguson)氏はしばしば、「極めて重要」という言葉を使う。しかしそれは何故だろうか?
その答えとしてモハメド殿下の顧問たちは、殿下がこれらの国それぞれで競馬を徹底的に楽しんでいるからと述べるだろう。これが事実であることは間違いないが、モハメド殿下がオーストラリア競馬を最後に見たのは10年前であるし、ブリーズアップセールで210万ドル(約2億3100万円)で購入した所有馬デザートパーティ(Desert Party)が9月1日にホープフルSに出走した際も、レースが施行されたサラトガ競馬場に居なかった。殿下が忙しい人であるので、これは不思議なことではないが。
殿下の“楽しむ”は、平均的な競馬ファンとは異なることを意味するのであろう。そして、裕福なドバイを尋ねた者は誰でもそう断言するように、ドバイの指導者にとって事業拡大は容易なことであろう。
ある意味では、殿下のような資産と世界的な目標を持っている人が、国際的な事業拡大という形で競馬を楽しむのは驚くには及ばない。とりわけ遠方の国々まで勢力を及ぼすことによってドバイの存在感を高め得る場合にはそうである。より端的に言えば、投資を行ったこれらの国々において、殿下の活動がその国の競馬と生産界にどのような効果が及ぼすかということである。
殿下はストーナーサイド・ステーブルとウッドランズ牧場の購入の際に1250頭購入しており、今年1歳馬と繁殖牝馬をセリに出す者は、殿下がどれほどの購入意欲をもっているか疑問に思っているだろう。殿下の信奉者たちは、殿下が獲得した馬財産でゴドルフィン社(Godolphin)がさらに興隆するかどうか、またそれがいつになるかあれこれ思いを巡らしているかもしれない。興隆が目標の1つであるのは間違いない。
しかし、ゴドルフィン社にとって事業拡大方針は、成功するから否かは問題ではない。モハメド殿下はずっと以前から、多くの国々で競馬産業が脆弱になっていることを認識している。殿下の10年前のギムクラックスS競走後の晩餐会のスピーチを覚えているだろうか?殿下が競馬に関与するかぎり、競馬の衰退を放置することはないだろう。
どれだけのレースとイベントがダーレー社の後援で開催されているか、またドバイ・レーシングカーニバルが冬の間に世界中から参戦する馬にとって全く新しい競走の場になってきたことを考えてみてほしい。
同様のことが生産界でも行われているが、営利的な意図があることは否定できない。6ヵ国に81頭の種牡馬を繋養しているダーレー社は、徹底的に繁栄した市場を必要としている。北米で最も古いサラブレッドのセリ会社であるファシグティプトン社(Fasig-Tipton Co.)を、ドバイを本拠にするモハメド殿下の会社が購入したことは、殿下は競馬と生産にとってより創造的な方法を模索していることを示唆している。
結局のところ、1人がこんなにも多くを買い占めているわけである。
By Rachel Pagones
[Racing Post 2008年9月3日「Sheikh adds another asset to his portfolio」]