運が悪かったのか、運営が悪かったのか。アベイ・ド・ロンシャン賞での真正でない発走がその一例で、フリーティングスピリット(Fleeting Spirit)が誤って頭部を発馬機の扉の上に乗せたためゲートが開かず真正でない発走となった。
運が悪かったのか、目が悪かったのか。凱旋門賞でイッツジーノ(It’s Gino)とソルジャーオブフォーチュン(Soldier of Fortune)が同着の3着であったかどうか?その疑問は、いずれフランスギャロ(France Galop)の裁決委員たちよりも権限ある機関によって解決されるだろう。
とにかくこの2つの出来事は、一時的にせよ、フランス競馬の技術に対する評価に傷をつけ、競馬関係者たちの信頼を損ね、賭事客に不満を与えた大失態である。
とりわけ、これらの出来事は世界競馬の施行ルールの統一化に向けた協調行動が容易に進捗しないことを如実に示している。協調方向に一歩踏み出すように見える時でさえ、それをまた一歩後退させる出来事が生じる世界なのだ。
国際競馬統轄機関連盟(International Federation of Horseracing Authorities: IFHA)の年次総会では、世界競馬におけるルールの統一が多くの競馬統轄機関の役員たちの口に登っていた。会議では特に、出走馬の国際交流に最も影響のある問題や合同賭事プール(コミングリング)の拡大の見通しなどの、競馬開催国の連携をより緊密化する方法に特別な注意が払われた。
今回の真正でない発走の事件には、ルールの統一を進める際の落とし穴が暗示されている。というのも、珍しい事案への対処が競馬施行国でさまざまであることが判明したからだ。
対処はさまざまである。? 香港の施行規程では、騎手に対して無条件で“競走やり直し”を指示した上で、競走除外(non-runner)の決定は裁決委員に委ねており、? オーストラリアの施行規程は“競走を無効とし、競走のやり直しはない”となっている。
いずれの競馬統轄機関も、賭事客の利益に最大限配慮して対処していると述べている。しかし彼らが全く反対の方法を取るに至っているのは不思議なことである。
イギリスの規程では、無効な競走となったレースでゴールした馬がその直後の再発走で出走することを認めていないので、もしアベイ・ド・ロンシャン賞がイギリスで施行されていたら、出走馬は6頭のみとなっただろう。このようなことが行われたら、競馬関係者や賭事客は納得しただろうか?
凱旋門賞の写真判定における謎は、国際ルールの協調とは直接に結びつかないかもしれないが、発生した出来事は、さまざまな競馬施行国がどれだけ異なる方法でレースを運営しているかを明らかにしている。
イギリスでは、判定写真は競走のすぐ後に入手可能であり、公に配布され、要求に応じてメディアにも個別に配布される。
ロンシャンにおいては、写真判定の写真の一部はフランスギャロが保管するとされているが、報道関係者は入手できない。そのため凱旋門賞の3着同着問題は、イッツジーノの馬主が事実上くすねた写真のコピーを得たことによって、持ち上がったにすぎないのだ。
現代科学技術によって、この馬主は自身のウェブサイトに証拠写真を掲載することができた。科学技術の進歩により、3着馬を示すより明確な写真が作り出されるかどうかはまだ分らない。
私は次のことを確信している。それは、一見些細であるが競馬関係者と賭事客にとって大きな重要性を持ち得る問題においてルールの統一ができていないということは、大きい問題が発生したときは各国の競馬統轄機関は重大な困難に直面することになるだろうということである。
相違、万歳!そして、それは時には英国競馬の良い面を引き立たせる。
ロンシャン競馬場で凱旋門賞を観戦したイギリス人たちは、スタンドに向けられた内馬場の2つの大スクリーンに完全なレース映像が表示されないために、困惑したに違いない。
レース前のインタビューがフランス語で行われたのはしょうがない。しかし、レース中の走行順序とレース後に勝馬の名前を画面の映像上で特定できないのは納得できない。
最新の大画面技術はレースにとって必須となっているのに、ロンシャン競馬場においては、たとえ1年で最大の開催である凱旋門賞開催の2日間で、世界中の競馬界の目がパリを向いているときにおいても必須でないようだ。
By Howard Wright
[Racing Post 10月10日]
凱旋門賞の3着同着判定に異議申し立て
凱旋門賞でソルジャーオブフォーチュンはイッツジーノと3着同着とされたが、イッツジーノのドイツ人調教師がロンシャン競馬場の決勝審判委員が下した同着の判定に不服申し立てをすると述べたことから、ソルジャーオブフォーチュンの3着が危ぶまれている。
イッツジーノを調教しているパヴェル・ヴォヴチェンコ(Pavel Vovcenko)調教師は写真判定の写真を確認し、自身の管理馬がエイダン・オブライエン(Aidan O’Brien)厩舎のソルジャーオブフォーチュンをハナ差で破っていたことを確信した。
By Neil Clark and Desmond Stoneham
[Racing Post 10月8日「Germans to appeal over Arc photo controversy」]
アベイ・ド・ロンシャン賞、ゲート開かず競走やりなおし
凱旋門賞の開催日は、滑稽な出だしとなった。アベイ・ド・ロンシャン賞(芝1000 m)が、フリーティングスピリットのゲートが開かなかったことで発走が真正でないと判定された。
ゲート17番が正常に作動しなかったことを理由に、発走委員が赤旗を振って発走不真正と判定したにもかかわらず、大半の出走馬は無効とされた競走を続けた。多くの騎手は発走不真正の合図を見ていたが、騎乗馬を止めることができなかったようだ。
同レースは第8レースの後、現地時間6時半にやりなおされることになるが、騎手が不真正発走を見損なった結果、全力で走った数頭の重要な出走馬は参戦が危ぶまれている。
中でもハンガリーの無敗馬オーバードーズ(Overdose)は猛烈なスピードを見せ、ストライクアップザバンド(Strike Up The Band)とデザートロード(Desert Lord)を追い抜きゴールしてしまった。
オーバードーズを管理するサンダー・リバルスキ(Sandor Ribarszki)調教師は、「ほんとに頭にきています。私たちは1700 km遠征してきたのです。もう1度走らせる気になりません。馬にとっては限界です」と述べた。
訳注:再行された同レースに、オーバードーズ、デザートロード、オンリーアンサー(Only Answer)は参戦せず、17頭が出走し1番人気のマルシャンドール(Marchand d’Or:牡5歳 仏フレディ・ヘッド厩舎)が優勝し、ライクアップザバンドは4着、フリーティングスピリットは5着になった。
By Turia Tellwright and Graham Dench
[Racing Post 10月5日「Abbaye to be rerun after false start farce Stall 17,the berth of the Jeremy Noseda-trained Fleeting Sprit, fails to open」]